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あのトラブルの元凶はこいつだった

 ここに来た者がどう名乗ろうと、どんな身分を言おうと、俺にはそれを確かめるすべはない。

 ただ、その人物がそのように名乗っている、という事実を認識するだけだ。


 だから目の前にいる、どこぞの貴族みたいな恰好をした女性の本名が「権左衛門」であって、「サーニャ」は偽名だとしても、「俺にサーニャと名乗った人物」という認識にとどめておく。

 こいつの肩書だって、本当は日本酒ソムリエかもしれない。

 けど俺にはどこぞの国の女王と名乗った。


 ということで、俺は「俺には女王の肩書を持っていると告げた人物」という認識を持つことにする。

 これはコルトにだってそうだ。


 だから誰かから「本当は女王なんかじゃないんだぜ?」と言われても、俺は騙されたわけじゃない。

 こいつがそう自己紹介したのは事実なんだからな。


 それはともかく……。


 この二部屋にいる冒険者の三人くらいは平伏していた。

 それ以外の連中は……やっぱり緊張した面持ちをしている。


「……コルト。何そんなに硬くなってんだ」

「だ……だって……。この人の魔力の強さ、半端じゃないですよ?」


 そうだった。

 こいつが身分を名乗る前から固まってたもんな。

 女王だから慄いてるってんじゃなかったか……。平伏してる奴らは、おそらくその国民ってことかもしれん。

 なるほどな。


 あとは……どうやってここにきたのか、だ。

 自称女王がお付きの武官を従えてダンジョンにでもやってきたとでも言うのか。


「そもそもこの人、どこもダメージを受けてないのにここに来てるじゃないですか! ただものじゃないですよ!」


 コルトの叫びは、改めて他の連中の怯えを引き起こしたみたいだ。

 考えることは俺と一緒か。


「そんなことを不思議に思う、か。別に不思議でも何でもない。最初に来た時と同じようにここに来た。それだけよ」


 いや……にしては……無傷……。


「ん? あぁ、妾ほどの力を持てるようになれば、普通のものなら見落とす扉を見つけることなぞ他愛のないことよ」


 ……ルール無用の、何でもありかよ。


「それでも初めて来た時は……命を落としかけたがの。イゾウにこの命、助けてもらってな」


 ついでに昔語り始めちゃったよこの人。

 コルトもいい加減解れろよ。


「この部屋の噂はその後で耳にした。だが救世主がいる、という話を聞いてな」

「俺をそう呼ぶ奴がいたようでな。俺はそんなつもりは全くねぇよ。迷惑だったんなら、噂を流した奴に言ってくれ。それより」


 コルトの歌……いや、バツの時間だ。

 明らかにそれを妨害されてるんだが……。


「いや、気に食わないということではない。不思議に思うての。なぜ今頃イゾウにそんな渾名がついたのかと思うての。……で、詫びにきたのじゃ」


 詫び?

 こいつと会うのは初めてなんだが?

 以蔵……曽祖父さんに失礼をしたってんなら、俺に詫びを入れに来たって意味ないだろ。

 生きていたとしても時効だろうよ。


「妾の配下が無礼を働いたようでな。申し訳ないことをした」

「無礼?」


 俺に迷惑行為をかました奴なんか、確かにいるけど覚えてられん。

 握り飯の具の種類が少ないから食い飽きたとか、水を配る前は飲み物がないと辛いとか、頼むからもっと食わせてくれとか。


 名前も声も一々確認しない。

 文句は似たような中身ばかりだから耳にタコができる程。


 もちろん礼を言う連中の人数はその何十倍……何百倍? の人数だけどさ。

 一々応対や気にしてたらキリがねぇ。


 けど、今ここに来たばかりの余裕のありそうな表情がどこにもない。

 眉間にしわを寄せて、本当に俺の身を案じてくれるような顔をしてる。

 俺、何かやらかしたか、そこまでひどい目にあったっけか?


「救世主が以蔵でなければ、その噂の正体を確認してくるように命じたのだが、その報告が『魔王の存在を確認した』とか言うてな」


 魔王?

 どこかで……。


「多くの者を救うのは妾しかおらぬゆえ、同じようなことをする者は、女王の名をかたる不届き者、などと言いだしてな。噂が流れる程の力の持ち主なら、妾に楯突く魔王の仕業に違いない、と」


 魔物が棲みつくダンジョンの、秘密の扉の先にある安全地帯。

 と思わせといて、握り飯で洗脳してる、とかか?


「あっ!」


 うぉう!

 いきなり大きい声を上げるなよ、コルト。


「思い出しました! コウジさんを武器で拘束して、この部屋から連れ去ろうとした二人の兵士、確かフォーバー王国って言ってました!」


 よく覚えてんな、コルト。

 で?


「それがどうした?」

「どうした……って……。はぁ……」

「……たしか、コウジ殿、と言うたか?」

「え? あ、あぁ、俺の名前な。うん」

「お主の頭は……何も入っておらんのか?」


 何だその気の毒そうに見る目つきは。

 失礼なっ!

 コルトも何ため息ついてんだ!


「この方、その国の女王って今言ったばかりじゃないですか」

「言ったばかり? こいつの自己紹介は、俺が曽祖父さんの名前を確認しに行く前だから、そんなついさっきの話じゃねぇだろ」

「そうじゃなくて……」


 物事は正しく言って相手に伝えるべきだと思うぞ。


 ……あれ?


 あの兵士の国の……女王?

 こいつが?


「お前かーーっ!」


 暴挙の親玉はこいつだったのか。


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いつも見て頂きましてありがとうございます。

新作小説始めました。
よろしければ新作共々、ブックマーク評価感想をいただけると嬉しいです

勇者じゃないと言われて追放されたので、帰り方が見つかるまで異世界でスローライフすることにした

俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

cont_access.php?citi_cont_id=170238660&s ツギクルバナー
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