心強いコルトの援軍 でもこいつ、怪我しすぎ
「コ、コルト様から言伝を持ってきました!」
シュースが慌てて俺の所に駆け込んできた。
言伝って何だよ。大げさな。
「水を持ってきてほしい、と!」
こいつもこいつで何と言うか……。
畏まりすぎてんぞ。
「紙コップに勝手に汲んでけ。水は好きなだけ出るから」
「え?! 本当ですか?! って、は、はいっ!」
シュースは水を汲んだ後、バタバタと駆け出していった。
大した用事でもないのに、なんだあの張り切りようは。
んでこの五人は五人で、何かひそひそ話してるし。
感じ悪いったらありゃしねぇ。
でも水まで持っていく相手って誰だよ。
重症や動けない相手に握り飯を持ってってやるってのは、そこらにいる連中の誰かにやらせりゃいいことだし……。
特別な関係がある奴にならそんなことをしてもおかしくは……。
あ、一人いたな。
「あ、コルトちゃん、もう帰ろう? ね?」
「いい加減に……。退いてください! ……コウジさん、すいませんっ! またあの人が来たのでその……つい……」
やっぱり、あいつか。
「……お前を助けてくれた戦士の男だろ。もう何度目だよあいつは……。で、回復したのか?」
「はいっ。お話しできる程度には。弱々しく苦笑いしながら、すまないって何度も」
やれやれだ。
「で、今は壁に寄り掛かって休んでます」
「あぁ。ならもうほっとけ。握り飯タイムのあとはいつも通りやっときゃ、ま、あいつに限らず今の時点でヘロヘロの奴らは、明日の朝には普通に歩けるだろ。握り飯、急ぐぞ」
「お、おいっ。お前……」
「コ、コルト様っ! 私もっ!」
ややこしい。
例の五人組の一人に、さらにシュースまで絡んできやがる。
「えぇい、手伝いたいならトレイに、できた握り飯五十個ずつ並べとけ! それとその五人!」
「な、お前に」
「うるせぇ黙れ! 話があるなら明日の朝だ! こいつにゃ自分でやりたい仕事があるし、やんなきゃならん課題もあるんでな!」
「お前なぁ……、人の」
「うるさいっ! この人の言うことを聞けっ!」
うおうっ!
……命令口調で怒鳴り散らすまで成長したのは俺としてはうれしい限りだがよ、俺の耳元で甲高い声で叫んでんじゃねぇっ!
見ろ。みんなひいてやがる……。
※※※※※ ※※※※※
握り飯を配る時は、まず行列に並んでいる者から配る。
例外として、行列に加われないほどの重傷、重体の者に、先に配られることもある。
コルトが運ぶトレイを、列の途中から配ることもある。
これは順番通りの目的ではなく、配給の時間の短縮を目的としたものだ。
そして最後に配られる者達は、行列に割り込もうとする連中。
もっとも数が足りない場合は、その者達が真っ先にもらえない対象となる。
だから、あの五人が握り飯をもらい損なっても、俺には何の落ち度もないし、コルトが部屋中に行列に並ぶように呼び掛けたから何も責められる筋合いじゃない。
握り飯タイムが終わった後、その五人はコルトに近づこうとしていた。
だがバツタイムということで、歌声が良く聞こえる彼女のそばを冒険者達が陣取って近づけない。
歌い終わるのを待ってたようだったが、他の冒険者たち同様、夜明けまで目が覚めることはなかった。
おまけに目が覚めたのは、ほとんどの冒険者達が目覚めた頃。
コルトとコンタクトを取りたいという気持ちが、何となく中途半端のような気がする。
「コルトちゃん、相変わらず……って感じじゃないな。随分逞しくなったじゃねぇか」
「し、失礼な事言わないでくださいっ。そんなに太ってませんっ!」
ほんとに何度目だろうな。こいつがこの部屋にやってきたのは。
早朝、男戦士はコルトと談笑していた。
回復力も大したもんだとは思うけど。
「でも……いいものを聞かせてもらったよ。まるで天国にいるような心地よさ……。あ、歌声がなくても安心できる場所だけどさ」
「コルトー。こいつに歌、聞かせなくていいらしいぞー」
「ちょっ! コウジっ! そりゃねぇよ!」
俺らの会話が聞こえてた奴は笑ってたけど、その時間はあの五人は他の冒険者達と同じようにまだ寝てた。
「……そう言うことで歌うようになったのか。その女魔法剣士とやらのおかげだな」
「え、ええ。そうなんですけど、やっぱりコウジさんのおかげでもあります」
「この際くっついたらどうだ? まるで恋人同士じゃねぇか」
「はい、対象外です。一昨日きやがれ」
「コウジさん、ひっどーい」
ま、ふえぇがなくなった分マシだけどよ。
「それより、コルトちゃんの怒鳴り声は何だったんだ?」
「え、えぇ……実は……」
この男戦士も、ここの常連ってことだけじゃなく、コルトの保護者みたいな感じになってねぇか?
いや、むしろ常連よりもそっちの方が当てはまってると言えなくもない。
「……なるほど。だが『フロンティア』だっけ? 聞いたことはあるな。トレジャーハンターチームだろ?」
冒険者とは違うのか?
まぁその違いを知ったところで、俺は別にどうともならんが。
「俺の住む隣の国で、結構腕利きのチームがいるって噂は耳にしてる。巨人族の女と蝙蝠の亜人の罠師がいるってのは珍しいからよ。知り合いになっても悪くはないなと思ったんだが」
コルトはこの男の最後の言葉が気になってるようだ。
かなり不安な顔をしてる。
「で、その……新人ちゃんがコルトちゃんを守ろうと? 涙ぐましいねぇ」
シュースもまだ眠っている。
あどけない顔なんだが……。
ま、その後のことを俺が言ってもしょうがない。
俺の知らない世界のことだしな。
「新人や未熟な冒険者を食い物にしてる、なんて噂も付きまとってる。腕がいいからってお近づきになれれば、俺にも得することがある、とは限らんな。むしろデメリットの方がでかい」
コルトの無残な姿を目にしている者だからこその意見、なんだろうな。
「まぁなんかあったら力になれるかもしれん。遠慮なく頼っていいぞ」
「は、はい。有り難うございます」
「……俺はこの部屋の管理責任者だから、全面的にコルトの味方になることはできねぇ」
「……はい」
「だがこいつなら、そっちの世界での話ってんなら俺より当てになると思うぜ?」
「はは、いいこと言うじゃねぇか、コウジ。コルトちゃん、任せな」
聞き耳立ててるわけじゃないだろうが、目を覚まして近くにいる冒険者達も、大体の事情を把握したのか安心したような顔をしてた。
だが俺はそればかりに構ってられない。
今朝の握り飯の準備しなきゃな。