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コルトの叫び 俺の絶望

「……私は、あの子たちに出来ることをしてあげただけです。どこからも助けがない心細さは……まだ、覚えてます」


 熱を帯びて興奮しそうな神官二人。

 何かに似てると思ったら、会えるとは思えなかったアイドルとかに会うことができてはしゃいでるのとそんなに変わらないような気がする。

 親近感が強いか畏敬の念が強いかの違いだけ。

 そう思える。


 それとは反対に、気持ちが冷めたようなコルトの声は、何となく現実を叩きつけてくるような迫力が秘められてる気がした。


「まさかあの子たちと同じ世界から来られたとは思いませんでした。ってことは、あの子たちは無事に自分の家に帰ることができたんですね。その事を知ることができてうれしいです。でも……」


 それには同意だ。

 この部屋から出て行った者達の消息は、再来した時にしか分からなかったからなぁ。


「私だって、誰かに助けてほしいんです。私の居場所は、私でも作れないかもしれないんです。コウジさんからは、しょっちゅう自分の世界に帰れって言われます」


 いや、そんなに頻繁には言ってねぇよ?

 まぁ被害者意識を持ったら、たまにしか言わないことも、何度も言われたような気が……。

 うん、俺もしたことあったけどな。


 後で謝っとくか。


「それでもコウジさん、私のために普通に作るのとは違うおにぎりを作ってくれたことがありました」


 ごめん。

 それは記憶にない。

 思い込みじゃね?


「おうどん、作ってくれます。私の好きな物がいろいろ入ったおうどんです」


 握り飯もそうだけどさ。

 うどんだって、他の世界になきゃそれがどれだけの価値があるなんて、聞く相手には分からねぇぞ?


「帰れって言うくせに、私のためにお部屋を作ってくれました……。私はそれが欲しかったんだって実感しました」


 部屋……のことじゃねぇよな?


「けどあなた方は、私に求めるだけじゃないですか。救ってくださいって言われても、誰かを救ったことなんてありません。私があの子達にできたことは、ただ、心細くならないように心掛けたことくらいです」


 そうだよな。

 後で帳消しになるほど働いてくれたが、あん時の俺の仕事、他にも気を遣ったんだぞ?

 こいつらが寝てる中で大きな音出して作業するわけにいかなかったしよ。


「私に跪いて敬意を表したり、手を握って持ってる思いを伝えようとしたりされましたけど……。私はただの……冒険者としては未熟なエルフの一人です。私のしたことは、他の人もできることです。私にしかできないことは何もないんです」

「そんなことは!」

「そうですっ! そんなことはありません!」


「……あなた達は、私の何をご覧になられました?」

「何……って」

「私達は……」


 ……見てないよな。

 何も見てない。


「何も知らない相手に、そちらの信仰の対象になってほしいと頼んでるんですよね? 私はそれがどんな物か分かりません。あなた方の思いに反することをするかもしれません。その時はきっと、私を見捨てたりすると思うんですよね」


 ……見捨てられた辛い思い出がありゃ……そりゃそんな悲しい目をするわな。


「そうでなければ、強制すると思います。その存在はそんなことをしないから、あなたもしちゃいけません、とか」

「そんなことはありません」

「聖母様に強制するなど」


「したじゃありませんか!」


 っ!


 普段大人しい奴が怒るとみんな静まるって言うけど、全く持ってその通り……。


「コウジさんが作ったおにぎりをみんなに配る役目を、あなた方は阻止したじゃありませんか!」

「……けど俺は助かったがな。握り飯の配給が早く終わった。贔屓することなしに、平等に、な」


 あ……。

 つい口を出してしまった。

 だって事実だもん。


「二人で配ったんだから早く終わったのは当然でしょう! その前に押し問答もあったじゃないですか! その間、早く早くと待っている人もいたかもしれなかったんですよ! 早く終わったかどうかは結果論じゃないですか!」


 一理ある。

 って言うか、コルトに言わせたかった気持ちもあったがな。


「し、しかし結果的に」

「その結果を予見できた人がいたとでも? いつおにぎりが配られるのかと心配する人もいたでしょうよ! その人達も、あの子と同じ心細い思いをしたんじゃないですか? そんな思いに大人と子供の差はありません!」


「……なんせこっちは七十八才のお年寄りが心細く思ってたんだからな」


 なんてことを言うと、コルトの一撃が来るのは分かってるので、小声で言ってみた。

 セーフでした。


「心細く思う人に寄り添うことが救いというなら、私はおそらくそれをやり遂げることはできるでしょう。それでも私にはできません」

「な、なぜですか?!」

「多くの人が救われるというのに!」

「だって……私の行動を押しとどめたことで、あなた方は誰かを心細くさせたじゃないですか。そして私は、押し通すことはできませんでした。だから、私はあなた方の希望通りにそちらで活動することはできません」


 もう一つ理由があるんだが、コルトは気付いてるかな?


「できる力があるけれどできないのではなく、元々私にはそんな能力がない、という解釈をしていただければと思います。それに、あのおにぎりを作った人の方が、よほど大切な存在です」


 おいバカ止めろっ。

 それ以上口にするなっ!


「最近は私も手伝うようになりましたが、コウジさんには敵いません。だからあの人はあちこちの世界から救世主って呼ばれてるんですよ?」


 い……

 言いやがったああああぁぁぁ!

 コルトに擦り付けるの、失敗か……。

 こ、この状況を一転させる手は……。


「体調や体力、魔力などに問題がなければ、どうぞお引き取りを。名前の知らない神官様?」


 なかった……。


 二人も気落ちしてやがる……。

 論争も、そして三人のやり取りの成り行きを見守っていた冒険者達の雰囲気にも終わった感が……。


「コホン。……最後に一言いいか?」


「……さっきみたいに変な事言わないでくださいよ? 私の年齢をダシにするような、ね?」


 聞こえてやがったあああぁぁ!

 それはともかく、だ。


「……あんたらは何て名前の国から来たんだ?」

「国?」

「え? えっと、シュダイム教国です」

「コルト。聞き覚えは?」

「え? いえ……ないです。初めて聞きました」


 うん。

 これで決まりだ。


「俺はここの世界の人間だ。そしてこいつら冒険者達がいた世界に行くことができない。同じように、ここの冒険者達も異なる世界や俺の世界に足を踏み入れることはできない。そして……」


 ドヤ顔を作ってっと。


「コルトも、お前さんがいた世界に行くことはできないし、お前さんらもコルトのいた世界に行くことはできない。つまり互いに思いが一致したとしても、あんたらの望みが叶うことは物理的にあり得ない。大人なら、その現実を受け入れるしかない」


 ここで駄々をこねるなら、間違いなく狂信者だよな。

 あ、狂信者だったらヤバいんじゃないか?


「……分かりました。幾たびの失礼な行動、お許しください」

「今後、いたずらにこちらに参ることも致しません」


 ……どうやら、一件落着だな。

 コルトもようやく笑顔が出た。


 だがまだ忘れちゃいない。

 顔ぶれは全員変わったようだが、俺の八つ当たり食らってもらうぜ!

 ワサビ入りの握り飯をな!

 なぁに、安心しろ!


 鼻づまりにはかなり効く!


「……コウジさん?」


 う……。

 おれの考えてること、読まれたのか?!


「私の年齢と容姿のことについて、じっくり話し合ってほしいんですけど」


 ……八つ当たりどころではなくなってしまったような気がする……。


 今回の教訓で得たことは、女性に年を言わせないようにしよう、かな……。


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いつも見て頂きましてありがとうございます。

新作小説始めました。
よろしければ新作共々、ブックマーク評価感想をいただけると嬉しいです

勇者じゃないと言われて追放されたので、帰り方が見つかるまで異世界でスローライフすることにした

俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

cont_access.php?citi_cont_id=170238660&s ツギクルバナー
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