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お前ら、また変な噂流しただろう!

 毎日、いろんな奴らがこの部屋にやって来る。


 朦朧とした意識で足をもつれさせながら来る奴もいる。

 この部屋に入った直後、安心して気が抜けた表情に変わる奴もいる。

 こないだの四人の子供のように、涙を流しながら、泣きながら来る奴もいる。


「何かあってもいいように、金を細かく分けて防具や服の内側にくっつけてきたのに、全部落としてしまった」


 などと泣きながら訴えてくる奴もいる。

 知らんがな。

 金なんかなくても、一回につき一個くらいは握り飯くれてやれるし。


 それにどんな現場か知らんが、命を落とさないだけ救いがあるとは言えないのか?

 生き地獄、という言葉もあるから、一概にはそうも言いきれないか?


 骨が皮膚を突き破った状態でようやくたどり着いた者もいる。

 多量に出血しながらよろめいた足取りで来る奴もいる。


 みんなで協力して怪我を治す。

 どうやって完成させるのか、コルトがアイテムから作り出した薬もある。

 患部を冷やしたり熱する処置には、冷凍庫の氷やコンロで沸騰させたお湯を使う。


 コルトが来てから半年以上過ぎた。

 外はすっかり雪景色。

 天窓もカバーをつけて割れないようにした。

 窓からの見える狭い範囲の外の景色は、ここに来た連中の心を、それでも癒してくれてるようだ。

 雪が積もってるからほぼ白黒の景色だけどな。


 いろんな奴が来て、いろんな事情も見え隠れしている。

 だが、そんな俺がまだ見聞きしたことのない事態があった。


 武装していない、かといって魔術師とは思えない格好の男女二人が、倒れ込みながらこの部屋にやって来た。

 話を立ち聞きすると、二人とも神官だということが分かった。

 ここでは滅多に見ることのない職業だ。


 正直言って、「ふーん、あっそう」としか思えなかった。


 ここに来た冒険者達の、個別の対応はコルトに任せてるし、この間の子供四人組の面倒もしっかりと見ててくれた。

 その分、握り飯配給の仕事のしわ寄せはこっちに来たし、道具作りもその日は進まなかった。

 だが冒険者達の面倒がこっちに回ってきたわけでもないし、この部屋を出る時のあいつらの顔つきは、一晩で急成長を遂げたような感じもした。

 間違いなくコルトのおかげだろう。


 まぁあいつらが成長しようがしまいが俺には直接関係はない。

 だがあの子供らの様子を見守る周りの雰囲気が、さらに良くなってる感じがしたな。

 俺の負担が増えたっつっても、一瞬だけ一人で仕事してた時に戻ったようなもんだし、コルトの仕事ぶりが良かったとしか言いようがない。


 だがまさか、それが今回の面倒事に繋がるなんて思ってもみなかった。

 俺は極力、あいつらに深く接触したつもりはなかったにも拘らず、だ。


 ※※※※※ ※※※※※


 初めてこの部屋に来た者への握り飯配給の説明は、経験者やそのことを人づてに聞いた者がしているようだ。

 そこまで俺は関知してないから、冒険者同士の会話にもチェックを入れるつもりもない。

 争いごとがなきゃそれでいい。


 いつも通り、コルトはトレイを持って、この部屋と屋根裏部屋の境に向かう。

 そこから後ろの者達に握り飯を配る。


 一番後ろから配ってもいいが、後ろよりも待ち時間が短いはずの列の中ほどの者から不満が出ないとも限らない。

 中途半端な位置から配るのはそんな理由からだ。


 争いごとがないなら静かかって言うと、そうでもない。

 並んでる間も、冒険者同士の雑談があちこちから聞こえてくるしな。

 ショーケースの前に来た奴から話しかけられることもある。


 そんな中で事件は起こった。



「あなたが聖母だったのですね! コルト様!」

「私達をお救い下さり、ありがとうございます!」



 そんな冒険者達の話声を押しのけるように、よく通った声が全体に響き渡った。

 その瞬間、他の会話の声は消え、全員がその声の出元に注目した。

 握り飯を配る俺の手ももちろん止まった。


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いつも見て頂きましてありがとうございます。

新作小説始めました。
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勇者じゃないと言われて追放されたので、帰り方が見つかるまで異世界でスローライフすることにした

俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる

cont_access.php?citi_cont_id=170238660&s ツギクルバナー
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