コルト、手記を書く
道具を作るレシピもいいんですが、確かにコウジさんの言う通り、あの村に帰ることができたらこのノートの中身をお土産にしようと思います。
この村では、子供の頃はみんな普通に生活できるけど、成長して仕事ができるようになると、村に残るか村から出るかを選ばせられます。
でも、どうしても村から出てほしいってお願いされる人もいます。
私もそうでした。
逆に、どうしても村に残ってほしいって頼まれる人もいます。
村の存続のためには必要な事なんですよね。
村から出てどこかの町に行くとしても、生活のための手段はないとそこに居続けることはできません。
手に職を持つってことです。
でも村を出なきゃならない年代になるまで、手に職を持てない人もいます。
私もそれに当てはまる一人です。
でも私達が生まれ育ったエルフの村は、その力には差はあるけれど、誰でも魔力を持っています。
それを活かさない手はありません。
私も冒険者には手っ取り早く就くことができました。
でも冒険者にも種類があるんですね。
人や場所を守る警備役。
魔物を倒したり狩ったりする討伐隊。
人捜し物探しの探索者。
魔物が持っていたりダンジョンの中に潜んでいる宝物を見つけ、持ち帰るトレジャーハンター。
これらは、いわゆる職種。
同じ業種に就く人でも、適した役割、苦手な役割があって、いわゆる業種というものになります。
大きく分けて戦士、魔術師、補助職の三種。
そこからさらに細かく分かれたり、兼業になる人もいます。
私は、魔力が高いというより体力が劣ってたので魔術師に就きました。
その魔術師の中で適正を見てもらい、回復の役割を担当することになりました。
ここで大切なことがあります。
それは、冒険者達の名前です。
咄嗟の時にすぐに呼べるよう、発音しやすく、長ったらしくなく、そして紛らわしくない名前に変える人が多いです。
それと家族の名前を名乗らないようにする人も多いようです。
私は、時々実家に帰ることがありますが、その時以外は家族の名前をほとんど意識していません。
村を出たのは十五才。それから五十年以上も名前を名乗らず、名乗る必要がなければ意外と思い出せなくなってたりしてますね。
なぜかというと、実家を突き止められて、不安を煽る人がいるらしいです。
ありもしない借金を抱えてる、と家族に伝え、その借金を背負わせる。
その借金の肩代わりにその人の身柄を拘束する、といったやり方。
これは一例ですけど。
なので、村を出た人は自分の名前だけを名乗るようになります。
身元を突き止められませんから安心というわけです。
ですので、私は回復術師のコルトということになります。
でも、世間知らずのままだと、どんなに用心しても騙されるものなんですね……。