1-9 色彩の神々
いとうです。
絶賛、正月太り中です。
パウロさんの店には当然のようにマチルダさんもいたのだが、家に帰らなくていいのだろうか。
「お、リョー。終わったかの?」
「どうだったかね?」
2人が興味深そうに訊いてきた。
「なんだかよく分からなかったな。誰か女性の笑い声が聞こえてきて、変な雰囲気に包まれたがそれだけだ。」
「おお、それはきっと紫神様の声さね。やっぱりアンタは面白い子さね。滅多にあることじゃ無いさね。さぁ、ステータスに何か変化があるはずだよ。」
あれが紫神の声なのか。俺がMALOに来たときにも聞こえた気がするんだが。
俺はマチルダさんに言われるがまま、ステータスを確認してみた。
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NAME:リョー
Race:ヒューマン
JOB:糸使い
Lv:1
HP:100
MP:12
STR:14
VIT:12
DEX:16
INT:12
<Skills>
【糸術Ⅱ】Lv.1
<Titles>
〔紫神の加護〕
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なんだ?〔紫神の加護〕?それにスキルが少し変わっている?なんにしても......
「スキルが増えなくてよかった......」
「アンタってやつは...加護までつけてもらったのにそんなことを心配してたのかい?ズレてるねぇ。」
なんだと!大事なことだぞ!俺の縛りプレイの根幹を成す部分なんだぞ!...と内心思ったが、俺は紳士なので声には出さない。決して、マチルダさんが怖いからではないのだ。
「うわははは!そんなに心配なら、神に頼んでくればいいのではないかのぅ!」
本気で悩んでいる俺には、パウロさんの言葉がやけに現実味を帯びて響いた。
「なるほど!さすがパウロさんだ。ちょっともう一度行ってくる。」
俺は今後の安心のためにも、パウロさんのナイスアイデアに乗ることにした。よし、善は急げだ。
***
「あっ、ちょっとリョー!パウロ、変な冗談言うんじゃないよ。リョーが真に受けちまっただろう。」
「わはは!すまんすまん。まさか本当に行くとはの。まぁそんな短時間に何度も会えるほど神々も暇じゃないじゃろうよ。」
「...まぁ、それもそうさね。」
***
俺はパウロさんのナイスアイデアを実行するべく、再び教会へと出向いていた。俺の長所は行動力なのだ。
「あれ、貴方は先程の......リョーさんでしたかな?忘れ物ですかな?」
またサミュエルさんが出迎えてくれた。
「いやまぁ、忘れ物といえば忘れ物だな。」
「......?まぁ、中へどうぞ。」
俺は訝しむサミュエルさんをよそに、また奥の扉を抜けて大広間へと入る。
今回は光ったりしていないようだが、俺は構わず紫神の像の前で跪き、祈りを捧げた。
(すまない、紫神よ。もう一つお願いがあるのだが)
『あら?......ふふふ、面白い子。こんな短時間に2回も会いに来てくれる子なんて初めてよ。』
その瞬間、俺の意識は遠のいていった......。
***
「ここは......どこだ?」
声が聞こえたと思った瞬間、俺はまた、あの不思議な雰囲気に全身を呑まれたのを感じた。しかし今度は様子が違う。
目を開けると、そこは何もない空間だった。
周囲は淡い紫色に包まれており、目の前には同じ色の長い髪をもつ美しい女性が立っている。
その途端、俺は誰に言われずとも、目の前の存在が神であると直感的に理解した。と同時に額に汗が吹き出る。
神威、とでもいうのだろうか。
目の前の美女はただ微笑んでいるだけだというのに、立っているのも大変な程の物凄い圧力を感じる。
俺は思わずその場に膝をつく。身体が震える。
『あら、どうしたのそんなに震えて?会いに来てくれたのは貴方でしょう?』
その声は目の前の存在から出ているようでもあり、どこか遠くから聴こえてくるようでもあった。
数秒の後、俺は気力を振り絞って立ち上がり、何とか声を発することができた。
俺を立たせたのは縛りプレイへの意地と、ヤナギたちとの約束だった。
「す、すまない。もうひとつ願いがあって来たんだ。」
『あら、まだ神威は緩めてないのだけれど......ふふふ、やっぱり貴方、面白い人。』
どうやらこの正体不明の圧力はわざとやっていたらしい。紫神は妖艶に笑うと、神威とやらを引っ込めた。急激に圧力が引いていく。
どうやらかなりイイ性格をしているようだな。
『それで?お願いっていうのは?』
「ああ、実は...」
紫神は悪びれる様子も無いが、神にそんなものを求めても仕方がない。
俺は今までの経緯やヤナギたちとの約束、そして俺の縛りプレイへの情熱について話した。どんどんその笑みを深くする紫神を怪訝に思いながらも。
『ああ!貴方やっぱり面白い子ね!マチルダちゃんにお願いして正解だったわ!名前はなんて言うの?』
「リョーだ。」
『わかったわ、リョー。私は面白いことがだーいすきなの。だからリョーの面白い生き方を是非応援させて頂戴。...黒!ちょっと来てくれない?』
紫神がそう言った途端、今まで紫一色だった空間に闇、いや黒色が入り込んできた。それと同時に再び襲いかかる強い圧力。先程の紫神の圧力とは似ても似つかない、より纏わり付くような、強い圧力であった。俺は立っているのもやっとであったものの、先程の経験もあってなんとか持ちこたえていた。
『我輩を呼ぶとは珍しいな、紫の。』
『久しぶり、かしらね?黒?時間の感覚もあんまりないから忘れちゃったわ。紹介するわ、この子は私のお気に入りのリョー君よ。』
『ほう、我輩の神威を受けても膝をつかぬか。お主、リョーと言ったか。我輩は黒。試練と闇を司っておる。試練は更なる高みへの礎。リョー、貴様はどのような試練を望む?』
どうやら目の前にいる存在は黒神らしい。神殿の大広間にも、他の7柱と比べて異質な感じのする像が建っていた記憶がある。
恐らく俺の縛りプレイの話を聞いた紫神が気を利かせて(?)呼んでくれたのだろう。試練を司る神か...。
となれば、言うべきことは一つだな。
「俺は今後、新たなスキル無しで強くなってやる。それが俺の望む試練だ。」
『ほう!厳しい試練になるぞ?よいのだな?』
「ああ、それが俺の縛りプレイ、この世界にいる理由だ。」
『......ふむ。よかろう。では我輩の色をもって貴様に試練を与えよう。貴様は今後、新たなスキルを獲得することはない。そのたった一つのスキルでこの世界を生き抜くがよい。試練は成長を与える。試練は進化を与える。励め、リョーよ!』
黒神はそう言い残して消えていった。
『リョー。これで貴方の望み通りになるはずよ。ふふ、私、貴方のこと気に入っちゃった。黒のあんな顔、久しぶりに見たわよ。黒にも気に入られたかもしれないわね。』
「そうなのか?俺には終始無表情に見えたが。」
『ふふ、アレが分かるのは付き合いが長い私くらいでしょうね。他の奴らはあんまり黒と付き合おうとしないし。なんにせよ、また会いにきてくれて嬉しかったわ、リョー。ちょっとサービスしてあげる。またいつでも来てね。ふふふ.....』
紫神はそう言って妖艶に笑うと消えていった。
***
俺が気がついた時には、もとの神殿の大広間に立っていた。
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〔紫神の加護〕が〔紫神の寵愛〕に変化しました。
〔黒神の祝福〕を受けました。
〔黒神の試練〕を受けました。今後、制約が課されます。
スキル【糸術Ⅲ】を得ました。
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「リョーさん!?どうされましたか!とても強い神の気配を感じましたが!」
サミュエルさんが息急き切って大広間に飛び込んできた。《色彩の神々》2柱が同時にいたのだ。神の気配も強まるのだろう。特に黒神なんて、神威を終始緩めなかったからな。おかげで俺はいま、立ち尽くしたまま一歩も動けない。
「ああ、サミュエルさん。すまないが、肩を貸してもらえないか?恥ずかしながら、神に会ったら動けなくなってしまってな。今にも倒れそうだ。」
「神にお会いになったのですか!?私でも時々声をお聴きできる程度なのに!?」
サミュエルさん大興奮である。2柱に同時に会ったと知ったらどうなるのだろうか。今はやめておこう。失神されたら肩を借りている俺まで倒れてしまう。
***
しばらく神殿内で休ませてもらった俺は、またパウロさんの店に戻ることにした。幸いにもあの神々の空間にいる間、現実(ゲーム内だが)では時間が進まないようだ。
「この世界に来たその日に神にお会いできるなんて、リョーさんは本当に信心深いお方なのですね。」
どうだろうか。俺が信心深いというよりも、あの変わり者の紫神が俺を気に入ったのが大きい気がする。俺は空気が読めるので口にはしないが。
「そうかもしれないな。うん。では、世話になった。今日はこれで失礼する」
「はい。またいつでもいらして下さいね。貴方の人生に幸多からんことを。」
俺を尊敬の眼差しで見つめるサミュエルさんを適当に躱し、俺はパウロさんの店に戻ることにした。
お腹まわり...。
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