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常識に縛られない縛りプレイ!  作者: いとう
第1章 新たな出会いと縛りプレイ
5/49

1-5 路地裏の出逢い

いとうです。

5話ですね。


四捨五入したら10話です。

そんなこんなで香月さんとヤナギと別れた俺は、街を散策しつつ、MALO攻略の具体的な方針を決めることにした。


まずスキルは自分では一切とらない方針でいくのは決定事項だ。


相当厳しい攻略になると思うが、そこは天下のメガテックの新作ゲームだ。きっとそれでも楽しめるよう作られているに違いない(希望的観測)。


そしてこのMALOの世界では、世界の謎を追って冒険する者たちは探索者と呼ばれ、プレイヤーの多くはこれに当たるらしい。


変わり者のプレイヤーは一か所に拠点を定めることもあるかもしれないがな。


また、MALOの世界には神や様々な伝説上の存在が実在すると住民たちに信じられている。たくさんの魔獣や魔族、魔王なんてのもいるらしく、他の種族とも敵対しているらしい(さっきヤナギに聞いた)。


これを聞いて、俺はやりたいことを決めた。


俺はこの世界を冒険し尽くしたい。


そして俺の縛りプレイはこのMALOでも通用することを証明したい。


俺はこの縛りステータスで、この世界を遊びつくしてやるぜ!!



...とまぁ、意気込んではみたものの、問題が一つある。自分のスキルについてだ。


MALOにはチュートリアルが存在しないので、剣術や弓術ならいざ知らず、糸術なんて聞いたこともない技術の知識なんて無いのだ。みんなチュートリアルが無くてどうしてるんだろうな。


ん?サポートAIにスキルをランダムで選ばせたことは後悔してないぞ!してないったらしてない!


「ま、とりあえず魔獣とやらに向かい合えば何とかなるだろ。」


俺、一ノ瀬 涼は楽観主義であった。


***


「糸だぁ?そんなモンはここにはねぇぞ?」


俺、一ノ瀬 涼は無計画であった。


そもそもメインウェポンになるであろう糸すら持っていないことに気が付いてしまったのである。これでは魔獣と戦うどころの騒ぎではない。


すべての探索者には初期装備が配布されるが、はっきり言って防御力は段ボール並みである。そして武器は自力入手なのだ。


俺は最初に配布された所持金1,000シルをもって初期装備の探索者で溢れかえる武器屋へと足を運んだ。そして、冒頭の台詞へとたどり着くわけだ。


「糸が無いだと?俺のメインウェポンだぞ?」


「いや、そんなに凄まれたってねぇモンはねぇよ。」


「なん...だと...」


「ほらほらにぃちゃん、今日は来訪者が大量に来るってんで、稼ぎ時なんだ。それにしても、神託を疑ってたわけじゃねぇが人が多すぎねぇか?しかも獣人にドワーフ、エルフまで混ざってやがる。忙しいったらありゃしねぇぜ...」


俺はぶつぶつ言いながら店の奥へと消えていく武器屋の店主を見送ると、外に出て、文字通り頭を抱えた。


武器屋から自分の武器を手に入れて続々と出てくるプレイヤーたちに奇異の目で見られているのを感じるが、俺はそれどころではない。


いきなり俺の縛りプレイライフが詰みそうになっているのだ。しかもアバターの作り直しは仕様上出来ないときている。



早く実力をつけて、ヤナギたちのパーティに合流しなくてはいけないのだが......。



「どうする...糸を使うところ...あやとり、凧揚げ、裁縫......服か!」


糸を扱うような店、たとえば服屋のような所ならば糸を売ってもらえるのではないのだろうか。そう考えた俺は、すぐに立ち直り、次の目的地を服屋に決めた。



立ち直りが早いのは俺の美点なのである。


「お、この武器屋の向かい、服屋じゃないか。ちょうどいいな。」


その店には《ゴージャス服飾店》という看板が出ている。すごい名前だな。


俺はツイてるな、と思いながらその店に足を踏み入れた。


玄関には見るからに高そうな絨毯、奥行きのある店内には高級感のある服が数多く陳列されている。キラキラとした色とりどりの装飾品で服が光り輝いている。



......現実世界の服と比べてあまり品質は高くないようではあるが。


俺はカウンターにいた、いかにもゴージャスな服を着た店員らしき人物に話しかけた。


「すまない。その、糸を探しているのだが。」


「......糸?失礼ですが、お金はお持ちですか?」


「ああ。1000シルほど。」


「...はぁ、お客様。当店は《ゴージャス服飾店》ですよ?お客様のような方はご存知ないのも仕方ありませんが、当店は貴族の方も利用される高級服飾店でございます。お引き取り下さい。」


ゴージャスだからなんだというのか分からないが、妙に鼻につく店員である。


「いや、話だけでも...「いいから、お引き取り下さい。」」



......あっと言う間に追い出されてしまった。なかなか興味深い接客スタイルだ。


うーん。ま、仕方ないか。実際に金を持ってないわけだし。そのうち隕石かミサイルでも落とせるようになったらここに落とすことにしよう。



俺は立ち直りの早さを活かして、別の服屋を探すことにした。


実はMALOには、この手のゲームによくあるマップ機能がない。


MALOから掲示板に書き込みは出来るが、プレイヤー間での通信手段は用意されていない。よりリアルな世界に近づけたかったのだと思うが、中々不便である。


***


まずは誰かに道を聞かないといけないな、と街中をウロウロしていると、人気のない路地の片隅に見窄らしい格好の老婆が座り込んでいるのが見えた。


「どうした。大丈夫か?」


俺は普段の口調から勘違いされがちだが、昔の経験から、困っている人は極力手助けしようとすることにしている。これは純粋な善意ではなく、俺の信条、モットーのようなものだな。


「あぁ、何か食い物をくれないかね。」


なるほど。腹が減って動けないのか。確かさっきの表通りに屋台がいくつかあったな。


俺は道を少し戻り、焼き鳥(?)のようなものを買って来て老婆に与えた。すごく良い匂いがする。


金がたまったら屋台巡りなんてのもいいかもしれないな。MALO中のグルメを食べ尽くしてやろう。



俺が密かにそんな決意を固めているうちに、老婆は俺が渡したそれを猛烈な勢いで食べ終わり、


「こんなんじゃ全然足りないさね。」


と、のたまった。とても物乞いのとる態度ではないな、と俺は内心で苦笑する。


「ま、金なら別になんとかなるか。ちょっと待ってろ。」


俺はさっきの屋台に戻り、手持ちの金のほとんどを使って同じ料理を大量に買ってきた。


これは何の肉なんだ、と思いながら老婆にそれを渡すと、老婆はそれを受け取って、再びとんでもない勢いで残らず平らげてしまった。


健啖家にも程があると思うんだが。合わせて1kgくらいあったぞ?


「...ふぅ、食った食った。助かったよ、坊主。飯を食おうにも財布を忘れちまってねぇ!お礼と言っちゃ何だが、何か助けて欲しいことがあれば言ってみな。まぁこんなババァに手伝えることなんてほとんど無いがね。あはははは!!」


なかなか豪快な老婆である。


せっかくこう言ってくれているわけだし、頼ってみるか。地元住民っぽいし道にも詳しいだろ。


「あー、実は服屋を探していてな。」


「あん?服屋なら、表通りにあるさね。確かゴーなんとかとかいう...」


「いや、それが先ほど追い出されてしまったんだ。金を1000シルしか持ってなかったのが原因らしい。」


「あぁ、そういうことかい。あの店はここらで一番の大店だが、客を差別するきらいがあるともっぱらの噂さね。気にすることはないさね。」


「あー、そうか。そうだよな。ありがとう。」


もともと評判の良くない店だったようだな。あの接客ではそれも肯ける。



ここでふと、俺は気になることを見つけた。


「ところで、あんたのその服、うまく汚してあるが相当な品じゃないのか?」


この老婆の着ている服は、よく見るとさっきの《ゴージャス服飾店》の商品と比べてもモノが違う感じがした。繊維の一本一本がキラキラしており、間近で見るとその質の高さが一目瞭然である。


そして老婆自身もよく見れば身なりにちゃんと気を遣っているのが分かる。



言ってみれば、そう、わざと見た目を汚しているような......?


いや、考えすぎか。



「お、坊主、この服の良さが分かるなんて中々良いセンスしてるじゃないのさ。......ふむ、一飯の恩もあるからねぇ。坊主、服屋で何を買いたいんだい?」


服屋で買うものなんて決まっているだろう!

俺は力強く答える。


「糸!糸が欲しいんだ!」


「糸?服じゃなくてかい?どうしてだい?」


糸が欲しい理由なんて決まっているだろう!

......俺はやや力なく答える。


「......武器にするためだ。」


「武器?武器だってぇ?あんまり老人をからかうもんじゃないよ!糸を武器にする奴なんて聞いたこともないさね」


なんだよ!俺は本気だぞ!やんのか!


老婆をじっと見つめる俺。


「.........」


「......なんだい、まさか、本気で言ってるのかい?」


何か察したような老婆をさらに見つめる俺。


「.........」


「......あははははは!坊主、アンタなかなか面白い奴みたいだねぇ!」


俺も内心、糸が武器ということに疑問を感じてはいた。そもそも糸術ってなんなんだ。本当に戦えるのか。ハズレじゃないのか。


これ一本でやっていくってどんな縛りプレイだよ。あ、自分で縛ったんだったわ。


俺がそうして内心で葛藤を繰り広げていると、その老婆はさっきまでのぶっきらぼうな態度とは変わって、好奇心の篭った目でこちらを見てきた。


「ふぅ、笑って悪かったさね。坊主、名前はなんてんだい?」


「リョーだ。」


「よし、リョー。お前のためにこのマチルダさんが一肌脱脱いでやろうじゃないのさ。とりあえずは糸だったかい?アタシに着いてきな!」


老婆はそういうと俺の襟首をつかんで歩き始めた。


さっきまで空腹で動けなくなっていた老人とは思えないな、などと思いながら、俺は路地裏の奥へと引きずられていくのであった。

次は6話です。

四捨五入すれば10話ですね。

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