2-16 『強さ』の行く末
最近のお気に入りはダリアさんなので、ダリアさんの話を書きます(見切り発車)
いつも応援してくれている方、ありがとうございます!
───ダリアとエリスが出会ってから約1年
「ダリア!今日も稽古するわよ!早く!」
エリスは一分一秒を惜しむかのように、ダリアの腕をグイグイと引っ張っていく。
「エリス様。そんなに焦らなくても、稽古は逃げません。」
ダリアはそう言いつつも、されるがままに引っ張られていく。
そのダリアの後ろを微笑みながら着いてくるのは、リオネル王子である。
「くっくっ。我が妹は、もう随分とダリアに懐いたみたいだねぇ。」
「...そうでしょうか。」
エリスとの距離が、稽古を始めた当初に比べて縮まっているのは誰が見ても明らかであったが、ダリア本人には、まだ心にわだかまりが残っていた。
確かにエリスは筋が良く、稽古にも真面目に、貪欲に取り組んでいる。
将来的には彼女の求める『強さ』を手に入れることも、そう難しいことではないだろう。
しかしだからこそ、『強さ』についての肝心なことをエリスに伝えられていないことが、ダリアにとっての気がかりであった。
***
「やっ!はっ!」
エリスの鋭い打ち込みが放たれる。
それを手に持つ盾で的確に受け流すダリア。
キンッ!キンッ!
「はぁ、はぁ......全然ダメね。こんなんじゃ全然ダメ。もっと強くならなきゃいけないのに...。」
「エリス様は十分お強いですよ。」
ダリアはエリスの思いつめた表情を見て、本心からそう言った。
それは果たして、効果はあったようである。
「ふふっ。ダリアに言われると信じられるわ。みんな私の立場を気にして本気で稽古に付き合ってくれなかったもの。貴方だけよ?こんなに王女に打ち込んでくる騎士なんて。」
エリスは表情を少しだけ緩めると、ダリアに向かってそう茶化した。
「稽古に立場は関係ありませんので。」
淡々と答えるダリア。
その無愛想な反応に、さらにエリスは笑みを深める。
「ふふ。相変わらずねぇ。ねぇダリア、貴方いつもそんな感じなの?」
「そんな感じ、と仰いますと?」
「いつもそんなに...その...あー......無愛想なのかって聞いてるのよ。」
エリスは途中で言葉を選ぶのをやめたようである。
その言葉に対しても、ダリアは何ら不快感を示すことは無かったが。
「仕事中ですので。それに、私はそんなに無愛想にしているつもりはありませんが?」
「あ、自覚無しなのね...。ねぇダリア、貴方、お酒は飲むの?」
エリスから投げかけられた唐突な質問に、戸惑うダリア。
「いえ、翌日の任務に響くと問題ですので、基本的は飲みません。あまり好きではないですし。...なぜそんな事を?」
「だって、お酒を飲んだらみんな素の姿が見えるじゃない?お父様だって、時々お酒を飲んで陽気になってるし。」
あの厳格な国王陛下が...。
と内心驚くダリアであったが、そんな事はおくびにも出さず、まだ思案げなエリスに提案する。
「では、エリス様が大人になって私に勝てたら、一緒にお酒を飲みましょうか。」
その言葉に、エリスは目を輝かせた。
「まあ、本当!?約束よ!そうと決まればもっと強くならなきゃ!落ち込んでいられないわ!」
俄然やる気になったエリスに、ダリアは内心微笑ましく思いながら、再び模擬剣を抜いた。
***
───更に二年後
「ふっ!はっ!」
エリスは11歳になっていた。
剣の打ち込みの速さも身のこなしもかなり上達し、相応の『強さ』を手に入れていた。
二人は今、王城近くの森に来ていた。
王宮の中庭で行うには、二人の稽古は苛烈になりすぎたのだ。
「エリス様、大分上達なさいましたね!」
「ありがと!でもまだまだこれからよ!」
エリスの打ち込みは更に鋭さを増し、ダリアは少しずつ押され始める。
ギンッ!ギンッ!
盾と剣が、剣と剣が、激しくぶつかり合う。
そして、刹那。
エリスの痛烈な一撃がダリアの剣を打った。
宙を舞うダリアの剣。
「はぁ...はぁ...。ふぅ...。」
ダリアの剣が二人の間に突き刺さる。
流れる沈黙の時間。
「やった!やったわ!ダリア、私の勝ちね!」
エリスは飛び跳ねながら喜んだ。
最近始まったマナーの先生がそれを見れば、きっとエリスは叱られるだろうが、今だけは仕方がないだろう。
「お見事です、エリス様。よくぞここまで努力なさいましたね。」
「これで私も少しは強くなったかしら?」
「ええ、それは「大変です!魔獣が!魔獣が出ました!」
ダリアの台詞を遮ったのは、こちらに向かって走ってくる部下の騎士の声だった。
見れば、血を流している。
「大丈夫か!?お前たちでは対処できない魔獣なのか?」
この稽古に際して、当たり前だがダリアは部下の騎士を数名連れ、警護にあたらせていた。
そもそもがここは森のごく入り口。
出現する魔獣も、その辺の騎士が片手で捻り潰せるレベルでしかない。
そのため、ダリアの準備は充分以上のものといえた。
「そ、それが!フォレストタイガーが複数出まして!いま他の騎士が応戦中です!」
騎士は満身創痍の状態ながら、しっかりと報告してくる。
「フォレストタイガー?こんな浅い領域になぜそんな魔獣が......とにかく私はエリス様をお守りする。引き続き応戦しろ。」
ダリアがそう言って振り向くと、既にそこにエリスの姿は無かった。
「っ!?」
慌てて周囲を見回せば、騎士が来た方に向かって駆け出しているエリスの姿が。
手には騎士が持っていたはずの剣が。
「お待ちを!エリス様!」
「ダリア、私は強くなったわ!私に任せて!」
「いけません!」
しかし出遅れたダリアには、走り行くエリスの後ろ姿を追いかけることしか出来なかったのだった。
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