2-9 いちごのぱふぇ
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私がワクワクしながらその喫茶店に足を踏み入れると、中からひんやりとした風が流れてきた。
冷房、ではなさそうだけど、上手く風が吹き抜けるような構造になってるのかも。
「いやー、相変わらずここは涼しいな!」
「あ、ダリアさん!いらっしゃいませ!いつもありがとうございます!」
奥から可愛らしい服を着た店員さんが出てきた。
このお店の制服なのかな?
ダリアさんとは知り合いみたい。
「おう、邪魔するよ!こっちは私の弟子になったミクだ!」
あれ、私っていつのまにかダリアさんの弟子になってたんだ。
それにしても、お洒落な店内だなぁ。
建物は木造で、壁は白で統一されてる。天井に走ってる太い梁が立派だ。
窓が結構たくさんついてて、陽射しが差し込んでくる。ポカポカしていい気持ち...。
「あれ、ダリアさんってお弟子さんとかとられるんですか?...って!ミ、ミクちゃん!?モデルの一ノ瀬ミクちゃんですよねっ!?」
私が気を抜いて、店内を見回しながらボケッとしていると、テンションが上がった目の前の店員さんに急に本名で呼ばれた。
思わずビクッとする私。
えっ?なんで私の本名を?
「えっとあの、そうですけど。どうして私の名前を...?」
「や、やっぱりそうだ!あ、あの!わたし、大ファンなんです!握手してください!」
店員さんは目をキラキラさせながら答えた。
私が握手に応じると、手をブンブン振り回される。
なんだか...子犬みたい。
頬が緩みきっている店員さんは、しばらくするとハッとして、
「あ!ご!ごめんなさい!質問に答えてませんでした!あの、わたし、実は来訪者でして...。この喫茶店で働かせて貰ってるんです!」
と、私の手を握ったまま答えた。
「ん?あんた、来訪者だったのか!探索者にならないなんて珍しいね!」
隣のダリアさんが驚いている。
MALOのサービスも始まったばかりなのに、もうお店で働いてる人もいるんだなぁ。
「ま、とりあえずミクの手を離してやんなよ。」
苦笑しながら促すダリアさんと、ずっと握っていた手に気がついて恥ずかしそうに手を離す店員さん。
「あ、すみません!嬉しくてつい...。」
「全然大丈夫ですよ!応援ありがとうございます!」
申し訳なさそうにこちらを窺う店員さんに、私は心からの笑顔でそう応える。
私の親衛隊?みたいな人たちも含めて、応援してくれるファンのみんなにはいつもとーっても、感謝してる。
ダリアさんとの修ぎょ...特訓で疲れてたけど、元気出てきたかも!
「はぅ...。ミクちゃん、かわいい...。マジ天使...。」
目の前の店員さんが人前で見せられない顔になってる。
仕事中だと思うんだけど、大丈夫かな?
「ほらほら、まだあんた自己紹介もしてないだろ。とりあえずそのみっともない顔を整えて、挨拶したらどうだい?」
ほら、ダリアさんに叱られた。
「...はっ!!お見苦しいところをお見せしました!わたし、コトリっていいます!よろしくお願いします!」
コトリちゃんはそう言って、ガバッと頭を下げた。
頭の後ろで結んだ茶色いおさげが揺れる。
なんだか慌ただしい女の子だけど、悪い人じゃ無さそう。仲良くなれるかな。
「改めまして、私はミクです。よろしくね!」
「は、はい!よよ、よろしくお願いします!あの、お席にご案内しますね!」
そういえば、まだお店の入り口だった。
ちらほらいるお客さんの注目を集めちゃってるなぁ。
私は取り繕うように、お客さんたちにニコッと笑いかけると、先に行ったコトリちゃんとダリアさんを追いかけた。
***
席についた私とダリアさんは、早速メニューを覗き込んだ。
なになに...アーマードラビットのステーキに、アーマードディアの香草焼き?
ここって喫茶店かと思ってたけど、レストランなのかな?
「おいミク!ここは私が奢ってやるから、私のオススメを食べてみろ!」
と、ダリアさん。
ふふっ。「好きなもの頼んでいいぞ!」じゃないあたりがダリアさんらしいや。
ダリアさんが指差したのは、もう一枚のメニュー。
森いちごのジュースに、コルドブルのいちごパフェ?
え?いちごパフェがあるの?
「ダリアさん、これって?」
「それが私のおすすめ、『ぱふぇ』だ!セルノスでもここでしか売ってないんだ!おーい、コトリ!『ぱふぇ』を2つくれ!」
「はーい!」
店の奥からコトリちゃんが顔を出して、また奥に引っ込んで行った。
私は気になったので、ダリアさんに聞いてみる。
「ダリアさん、パフェってあの、アイスクリームが乗った冷た〜いパフェのことですか?」
「ん?その『あいすくりぃむ』ってのは分からんが、確かに『ぱふぇ』は冷たいな。ひんやりしてて暑い日には最高なんだ!呑んだ後にもな!」
ってことは、本当にあのパフェなんだ!
わぁ!たのしみ!
しばらくして、店の奥からコトリちゃんが手に器を二つ持って出てきた。
「お、お待たせしました!本日のパフェ、《コルドブルのいちごパフェ》です!溶けないうちにどうぞ!」
「おっ、きたか!」
「わぁぁ!」
少し縦長の木の器に入って出てきたのは、薄いピンク色をしたアイスだった。
上に木苺みたいなものがいくつもトッピングされている。
「うん!うまい!」
ダリアさんはもう早速食べ始めてる。
というか、もう半分くらい無くなってる。
私も可愛らしい木匙で一口すくってみる。
思いのほか手応えがあった。
いちごも一緒にのせちゃえ!
それから、私は幸せの塊をゆっくりと口に運んだ。
「はわぁ...。」
おいしい...。
アイスクリームというよりは、シャーベットに近いけど、それがまたいちごと合ってる。
口の上で柔らかく溶けて、ミルクのような、生クリームのような不思議な風味が口いっぱいに広がる。
まさかMALOの中でアイスが食べられるなんて思ってなかったなぁ。
このためなら今度のイベントも頑張れる気がするし、ご褒美に通っちゃおうかな!
私が勝手に行きつけのお店認定をしていると、ダリアさんとコトリちゃんがこっちを見ているのに気がついた。
「ふふっ。気に入ってもらえたようだな。」
それはもう!
「はい!とっても美味しいです!コトリちゃんもありがとう!」
ダリアさんとコトリちゃんにお礼を言うと、
「そ、そんな!もも、勿体無きお言葉にご、ござりまする!」
コトリちゃんが焦って変な言葉遣いになっていた。
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