2-1 妹の鮮烈デビュー
どうも、いとうです。
少しずつブックマークが増えていて嬉しいです。
ありがとうござい〼。
「リョーちん!イベントだよイベント!!」
教室に入った俺は、ヤナギの熱烈な歓迎を受けた。
「おはよう一ノ瀬くん。」
「ああ、おはよう香月さん。」
いつものことなのでとりあえず挨拶を交わす香月さんと俺。
「ちょっとちょっと!無視しないで!」
「分かったわかった。で?イベントだって?」
「そうなんだよ!ついにMALO初イベントが開催されるんだって!」
ヤナギの話をまとめると、今度MALO内で初めてのイベントが開催されることが今朝、運営から発表されたらしい。もうすぐ始まる学校の長期休暇に丁度かぶせる形で開催されるようだ。
「それで?どんなイベントなんだ?」
「残念ながら、運営からはそれ以上は何も言われていないのよ。発売前と同じく、ギリギリまで情報公開を絞る予定らしいわ。」
香月さんがヤナギの説明を引き継いだ。
これはまた掲示板が盛り上がっていそうだな。どんなイベントが始まるのか俺も楽しみだ。
と、そのとき教室の扉が勢いよく開いた。
「よーし、みんな!席に着けー!」
コバセンが今日もけたたましく教室に入ってくる。昨日は合コンだったらしい(風の噂)。
「今日は終業式だぞ!明日からの夏休みでも羽目を外しすぎないように!ヤナギ!課題はちゃんとやれよ!」
「コバセン!なんで俺だけ名指しなんだよ!」
教室が笑いに包まれる。そうか、明日から夏休みだったな。ヤナギなんかは、ひたすらMALOに打ち込むことになりそうだが。俺は帰ったら課題をやろう。
***
「ただいまー。」
「お帰りなさい!おにーちゃん!」
家に帰ると、ミクが飛びついてきた。
「おにーちゃん!私も今日からMALO始めることにしたよ!だから一緒に遊ぼ!」
課題をやるつもりだったんだが...。
まぁ、折角の誘いだからな。課題は逃げないし。
むしろ追ってくるが、まだ逃げ切れるはずだ。うん。
「もちろんいいぞ。じゃあログインしたらスタート地点の噴水で待っててくれ。MALOでの名前は何にしたんだ?」
課題とミクを比べれば圧倒的に優先度はミクなのだ。だから仕方ない!シスコンじゃないぞ!
「めんどくさいから、そのままミクにしちゃった。見た目もほとんど変えてないよ。モデルは顔を売り込んでなんぼだからね!」
少し心配ではあるが、MALO内ではなるべ俺が守ってあげればいいしな。そもそもミク自身も、そんなにヤワじゃない。ちょっとやそっと問題が起きてもマネージャーのアカリさんがなんとかするだろうし。
「わかった。じゃあ、なるべく急いで向かうよ。」
「うん!待ってるね!」
しかしこのときの俺は、ミクの人気を侮っていたのだ。
***
母さんと、珍しくもう帰ってきていた父さん、ミク、俺の4人でご飯を済ませた後、俺はMALOの世界に降り立った。
「よし、急いで向かうか...ん?なんだこれ?」
俺はいま、《堅牢の森》にいた。更なる資金を確保すべく、あれからずっと狩りを続けていたのだ。
もともとコツコツ続けるのが好きなのもあって、時間を忘れて狩り続けたせいで獲得した素材がとんでもない量になってしまった。PSも最初に比べれば、かなり上がった気がするな。
視界の端にピコピコと点滅するアイコンがある。見ると、運営からのお知らせのようだ。開いてみる。
────────────────
MALO運営からのお知らせ
【第1回イベント開催!】
MALO第1回イベントを明後日(MALO内時間)より開始いたします。詳しくは探索者協会内の掲示板をご覧ください。
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「ヤナギが言ってたやつか...どちらにしろ、急いで森を出なきゃな。」
ミクを待たせてしまっているはずだ。
「よっ、と...」
俺は徐に糸を取り出し、その辺の太めの木に引っ掛け、引いた。
その途端、俺の身体は急速に加速する。
「今回は急ぎだから、な!」
次々と木に糸をかけ、まるでどこかの蜘蛛男のように森を移動する。これは俺が狩りの中で身につけた移動法だ。地面に顔を擦りながらの練習の賜物だな。
レベルが低いせいか移動するだけで、その反動でジリジリと体力が減っていくのだが、ミクになるべく急ぐと言ってしまった手前、今回は仕方がない。
俺の身体は鬱蒼と生い茂る木々を味方に、凄まじい勢いで移動する。と、前方に張ったレーダー糸に反応が。
「この反応は...アーマードゴリラか。」
俺は糸を用意し、瞬く間に距離が詰まったアーマードゴリラの首に通りすがりに糸をかけ、引き絞った。
「ウホ?ウゥゥホォォォ!」
それが、奴の最期の言葉だった。
────────────────
堅牢大猩々の皮を入手しました。
堅牢大猩々の糞を入手しました。
種族レベルがLv.5になりました。
────────────────
「お、レベルアップもしたな。」
体感ではレベルが上がるのに随分とかかった気がするが、こんなものなのかもな。
その影響か、俺の移動速度も少しだけ上がったように感じられる。
俺は暴走族さながら、魔獣たちを狩りながら、《堅牢の森》を物凄い勢いで脱出した。
***
人で賑わう噴水前広場。俺は、マチルダさん印のポーションを飲みながらそこにたどり着いた。
「ん?なんだ?」
何やら一際大きな人だかりを見つけた。誰かを囲んでいるようだ。近づいてみる。
「あ、あの!モデルのミクさんですよね!!ふ、ファンなんです!握手してください!!」
「そこの!順番を守りなさい!最後尾はここです!」
俺の目に映るのは、数十人のファンと思しき人たちに囲まれる我が妹だった。俺は唖然としてその様を見つめる。
噴水広場前はすでに握手会の様相を呈しており、何故か嬉々として列整理をしている人までいる。誰なんだ。
俺が場の空気感に圧倒されて近づけずにいると、ミクの方が俺を見つけた。
「あ、みんなごめんね!今日はこれで終わり!またどこかでちゃんと握手会は開くから、そのときに来てねー!今日はありがとう!」
ミクが花開くような笑顔でファンにそう告げると、惜しむファンたちを尻目にこちらに走り寄って来た。ってか、本当に握手会だったのか。
それより、いまこっちに来たら周りの目が...。
「やっときた!遅いよー!」
途端に向けられる数十人の視線。「あいつ誰だ?」とか、「ま、まさか彼氏...?」だとか、聞こえてくる。これは良くないぞ。
「ミク様、この方は?」
訝しげにこちらを見てくる男。ミク...様?この人は一体誰なんだ。いや、さっき列整理してた人なんだが。
「あー、私のおにーちゃんだよ!待ち合わせしてたの!」
「なんと!ミク様のお兄様でしたか!これは失礼を。私は《ミク様親衛隊》隊長のアーガスと申します。どうぞお見知り置きを。」
《ミク様親衛隊》とかいうところの隊長さんらしい。俺は、考えることをやめた。
「よろしく頼む。」
あくまで平静を装って挨拶をする。挨拶はコミュニケーションの基本だからな。俺は自称コミュ力の神なのである。
ベリ美に比べればこんなもの、大したことはない。
「じゃあ、行こうか。」
「うん!みんな!ありがとー!またねー!」
ファンの皆さんは名残惜しそうにしながらも、ミクに手を振っていた。これは、今度から対策を考えなくては。待ち合わせの度にこれではミクも大変だろう。
俺はそんなことを、心に決めながら歩き出した。決して、可愛い妹のミクを独り占めしたいわけではない。ないったらないのだ!
ではまた次回。
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