1-20 探索者協会の出逢い
お久しぶりです。いとうです。
バタバタして更新が滞ってしまいました。
再開します。
ヤナギたち3人と別れた俺は、パウロさんの店に来ていた。パウロさんに彼らの要望を伝えるためと、俺自身の防具を依頼するためだ。
「なるほどのぅ。要望は分かった。考えておくわい。んで、リョーよ、必要な素材は集まったのかの?」
パウロさんの言う必要な素材とは、以前俺の装備を依頼したときに足りないと言われた分の素材である。ここ数日俺が狩りをしていたのは自分の素材集めの側面もあったのだ。
「ああ、集まったぞ。これだ。」
俺はインベントリから取り出した素材を、店の埃っぽいカウンターの上に全て出した。
「おお、堅牢狼の牙に堅牢鹿の角、堅牢大猩々の毛皮まで......よく集めたのう。」
「おかげでだいぶ戦闘にも慣れたぞ。もう《堅牢の森》の魔獣には負ける気がしない。」
「それはすごいの!こんな短期間でか!」
実はあの後《堅牢の森》で狩りを続けた俺は、フィールドボスのアーマードグリズリーに何度か遭遇した。俺はそいつに力試しとばかりに挑みかかり、研究を重ねた戦闘スタイルでそのすべてに見事に勝利したのだ。
たかだかアーマードラビット1匹にやられていた数日前が懐かしくなるくらいの大躍進である。
「これだけ素材が揃っていればまずまず良い装備が作れる筈じゃ!期待して待っとれ!」
「ああ、ありがとう。」
俺はパウロさんの店を出て、探索者協会へと足を向けることにした。装備作成に使わない分の余った素材を売って金に変えるためである。
俺の財布はいま、マチルダさんの暴食によって虫の息なのだ。
***
しばらく人で賑わう街を歩いていると、以前にも来た建物が見えてきた。
「お、空いてそうだな。」
探索者協会の中は、MALOのサービス開始当初の混雑に比べると落ち着きを見せている。それはそうか。他のプレイヤーはほとんど探索者登録してしまっただろうからな。
作戦通りだ(強がり)。
俺はゲーム開始数日にして、初めて探索者協会に足を踏み入れた。建物自体は木造ではあるものの、その造りはとても頑丈にみえる。天井には太い梁が何本も通っており、そこから照明がいくつも下がっている。いまは昼間なので灯りが点いてはいないが。
「すまない。少し聞きたいことがある。」
俺は入った正面、カウンターのようになっている場所にいた男に話しかけた。以前来たときには女性もいたと思うが、いまはこの男だけだな。
「おう。どうした兄ちゃん?」
その男は、周りの職員に比べても制服の着こなしが雑で、やけに馴れ馴れしい口振りだった。いかにも気の良いおっちゃんといった感じの佇まいである。俺は内心でおっちゃんと呼ぶことにした。
「探索者協会には初めて来たのだが、ここで素材を買い取ってもらう事は出来るだろうか。」
「おう!できるぜ!兄ちゃんは来訪者か?探索者登録は済んでるか?」
「来訪者だが、探索者登録はまだだな。探索者でないと何か問題があるのか?」
俺は少し不安になりながら訊く。
「あー、探索者からの買い取りには少し色がつくんだよ。今から登録だけでもしちまうか?」
「ふむ...」
そうなのか。今後のことを考えると少しでも金が欲しいから、探索者になっておくか。色々と都合も良さそうだ。
「じゃあ、そうすることにする。頼んでもいいか?」
「あいよ。じゃあまず名前を教えてくれ。」
「リョーだ。」
「リョーだな。武器は見たところ持っていないようだが...拳闘士か?」
「いや、これが武器だ。」
俺は真顔で糸を取り出してみせた。
「それは......糸か?自分の戦闘スタイルを他人に知られたくない気持ちは分かるが、つくならもっとマシな嘘にした方がいいぞ?」
あ、ダメだ。おっちゃんがすごく疑わしそうな目をしている。
「いや、事実なんだが。」
「あー、わかったわかった。探索者証には『拳闘士』って書いとくぞ。今度からもっと上手い言い訳を考えとけ。後から修正もできるからな。」
適当に流されてしまったか。どちらかといえばこれが普通の反応なんだろうな。
むしろ俺としては都合がいい。メインウェポンを知られないだけでもかなりのアドバンテージになるはずだ。後でうまい言い訳を考えておこう。
「ああ、忠告をありがとう。」
「おう。じゃあ次は探索者ランクを決めるんだが...見たところ他の来訪者と同じ装備だな。何か自分の実力を証明できるようなもの持ってるか?」
ステータスは......見せない方がいいだろうな。マチルダさんたちがあんなに驚くんだ。基本的にステータスは隠していく方針でいこう。
そうなってくると...。
「自分が倒した魔獣のドロップでもいいか?」
「別に構わないが、自分で手に入れたか確認させてもらうことになるがいいか?」
確認?どうやって確認するのだろう。内心で首を傾げていると、俺の疑問を察したのだろう、おっちゃんがまた話しかけてきた。
「あー、お前さんは来訪者だったな。試しに適当な魔獣のドロップを出してみてもらえるか?」
「ああ。これでいいか?」
俺はアーマードラビットからドロップした堅牢兎の毛皮をカウンターに出した。
「お、こいつはいい素材だな。それじゃあこの水晶を持ってそれに近づけてくれるか?」
白く濁った小さな水晶のかけらを受け取り、俺は言われるがままに近づけた。
すると水晶は淡く青色に光り始めた。
「うん。これはお前さんが手に入れた素材で間違いないみたいだな。ちなみに俺がやるとこうなる。」
おっちゃんは俺から水晶のかけらを受け取り、先程と同様に素材に近づけた。
水晶は先程とは異なり、淡く赤色に光り始めた。
「この色の違いで識別しているのか。」
「その通りだ。これは『検魔水晶』って言ってな。青色なら自分が手に入れた素材、赤色なら他人の素材に光るんだよ。ちなみに加工品の識別もできるぞ。自分で作ったものなら青色、他人がつくったものなら赤色に光るんだ。」
「なるほど。これで虚偽を防止しているのか。」
「ああ。ついでに言えば、これはそのアイテムの希少度によってその光り方も変わる。要するに、価値のあるものほど強く光るわけだ。さっきのお前さんの素材は希少度1くらいの光り方だっただろ?」
たしかに、堅牢兎の毛皮は希少度が1だったな。なるほど。便利なアイテムだ。
だがここで俺はまたひとつ、気になることができた。
「さっき『いい素材』と言っていたのはどういう意味だ?素材は希少度が同じなら全く同じものじゃないのか?」
「いや、それは間違いだ。同じ希少度でも、見る奴が見れば違いは分かるぞ。例えばお前さんのさっきの堅牢兎の毛皮だが、傷が全くなかっただろう?あれはドロップしたときの戦いで奴の外皮を全く傷つけなかったからなんだよ。」
ふむ。きっと俺が首を落として一撃で勝負を決めていたからだろう。この情報が聞けてよかった。素材の買い取り価格にも影響しそうだな。
「んじゃあ、そろそろ本題だ。お前さんの実力を証明できるようなものを出してみてくれ。ちなみに参考までに言っておくと、堅牢兎の毛皮は何枚出しても最低のGランクからのスタートからだからな。」
俺は少し思案して、使い道のなかった堅牢熊の掌をカウンターに置いた。結局こいつが今のところ1番強かったからな。
すると職員のおっちゃんは、
「な......お前さん、これ...アーマードグリズリーのドロップか?と、とりあえず検魔水晶を近づけてくれ。」
俺が言われた通りにすると、検魔水晶は青色に明るく光り始めた。
「間違いねぇ...。これはあの堅牢熊の掌だ。何人で倒したんだ?」
「1人だが?」
「...はっ?」
おっちゃん、強面だが、驚くと結構可愛い顔をしている。
ではまた次回。
評価等、よければお願いいたします。




