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常識に縛られない縛りプレイ!  作者: いとう
第1章 新たな出会いと縛りプレイ
20/49

1-19 執事の想い

いとうです。

ちょっと筆がのったので早めの投稿。


俺たちはヒルトが経営する《蘭の夢》にいた。


「ところで、このお店は何の店なのかしら?」


「よくぞ聞いてくれたわ!」


ヒルトは意気揚々と説明を始めた。この人、本当に貴族なんだろうか。それとも俺の描く貴族像が間違っているのか?


「この店はね、『人脈』を売ってるのよ。」


「人脈?」


「そう。私の知り合いや、この店の利用者の知り合い同士の仲を取り持つことで互いの人脈を広げるのよ。店側はその仲介料をもらうってわけ。すごいでしょ!」


ヒルトはその薄めの胸を張っている。それにしても、『人脈屋』か。確かに画期的かもな。しかし、だ。


「念のため確認するが、ここを利用することでヒルトたち貴族みたいな奴らのいざこざに巻き込まれたりする危険はないのか?」


その瞬間、ジークさんが強い目つきでこちらを睨んでくる。しかしこれは必要な確認なのだ。引くわけにはいかないな。


「やめなさい、ジーク。リョー、あなた鋭いわね。確かにこの店は、私の貴族としての影響力をひそかに拡大するためにも一役買っているわ。でもこれだけは約束する。私はここでのことを恩に着せて、あなたたちに何かを無理強いすることはない。ちゃんと仲介料は貰うしね。私は、ここで得た様々な人たちとのつながりが大切なのよ。それを私利私欲のために使おうなんて絶対にしないわ。」


ヒルトは真剣なまなざしでこちらをのぞき込んでくる。


「そうか。そういうことなら分かった。失礼なことを言ってすまなかったな。謝罪する。」


「ふふ、いいのよ。用心深い人は嫌いじゃないわ。それにしてもよく貴族相手に面と向かって指摘出来たわね。普通の人なら怖がって意見なんてできっこないわよ。」


「俺たちが来訪者だからそういう感覚に疎いっていうのもあるが......これから『友達』として付き合おうとしてるのに、そういうわだかまりを残すのは嫌だったんだよ。」


ヒルトは驚いたような、それでいて優しい笑みでこちらを見た。


「『友達』...。そうね。ありがとう。ねぇ、ベリ美ちゃん。」


「なにかしらぁん?」


「この人たちを紹介してくれてありがと!」


「うふふ、いいのよぉん。これからこの子たちとみんなで仲良くしましょうねぇん。もちろんジークちゃんもね!」


ジークさんは、俺に向けた鋭い視線を緩めると、こう答えた。


「もちろんでございます。それとリョー様、不躾な視線を申し訳ございませんでした。どうぞこれからお嬢様と仲良くしてあげてくださいませ。」


「ふふ、ジークも仲良くできそうでよかったわ。」


ヒルトはここまで見せなかったような親し気な微笑みを俺たちに向けると、


「さて!それでは私たちはそろそろ席を外すわね。何か話し合いがあるみたいだし。この部屋は魔法で完全防音になってるから安心してね。飲み物や食べ物はこの後適当に持ってこさせるわ。それでは、ごゆっくり。」


そう言って、ジークさんを伴って部屋を出て行った。


「ヒルトさん、綺麗な方だったわね。」


「あの子、かなり上流の貴族みたいよぉん。貴族で店のオーナーもやってるっていうのは珍しいわね。普通は物語の貴族様みたいに自分の領地の政務をするだけみたいねぇ。あんまり細かくは知らないけどぉ。」


そうなのか。俺のMALOの知り合いは一癖も二癖もある人たちばかりだな。もちろん、目の前のベリ美が筆頭だが。


「どうしたのぉん、リョーちゃん?そんなにワタシを見つめちゃってぇ。」


「いや、なんでもない。では、本題に入ろう。」


ここに来たのは3人の武器や防具のリクエストを聞くためだからな。俺はベリ美のまとわりつくようなウインクを躱して、本題をヤナギに促した。


「おう!じゃあまずは俺からな!俺は剣術持ちだから、剣が欲しい!獣人の身軽さも生かしたいから取り回ししやすいサイズの剣を2本!」


「2本?」


「そう!二刀流ってかっこいいじゃん!」


ヤナギらしい理由だな。2本も同時に扱えるのか疑問だが、まぁヤナギのことだしもう止められないんだろうな。


「わかった。メグミは?」


「私は弓ね。取り回しやすい弓と長弓の2つがあると嬉しいわ。あとはこの前のお願い、ね?」


「あー、わかった。」


この前のというのは、服を作る知り合いを紹介してほしいというやつだろう。ついでにパウロさんに頼んでみるか。


「なになにぃ、メグミちゃん?お願いってぇ?」


「ふふ、実はね...。」


メグミとベリ美が盛り上がっている。ベリ美の分も頼んでみるか。ちなみにヤナギは、自分の要求を伝えた後、この建物を探検しにいってしまった。自由なヤツ。


「リョーちゃん!!!」


考え事をしていると、急に目の前にどアップのベリ美の顔面が現れた。


「うおっ!!ど、どうしたんだベリ美?」


「ワタシもメグミちゃんと同じお願いをさせて頂戴!対価はいくらでも払うわ!」


見たことも無いくらいのものすごい剣幕だ。別に俺としては問題ないのだが、


「別に構わないが、ベリ美はそんなに服に興味があるのか?いや、たしかにいつもそのドレスを着ているが。」


ベリ美はいつも赤いゴスロリドレスを纏っている。やはりそういうのが好きなのだろう。


「そうよぉん!このドレスはヒルトちゃんを助けた時のお礼としてもらったのぉ。戦っても大丈夫なバトルドレスよぉん。ゆくゆくはワタシもこういうのを自作できるようになりたいの。だからこの世界の服飾にはとても興味があるのよぉん。」


パウロさん、ドレスなんて作れるだろうか。まぁ聞くのはなんの問題も無いな。


「分かった。ツテを当たってみるよ。武器の方はどうする?」


「ワタシは拳闘メインの戦い方だからぁ、籠手とかブーツが嬉しいわねぇん。」


「ふむ。ではそれで頼んでみる。3人...っと、ヤナギはいないか。2人とも、材料が足りない場合は自分で手に入れてもらうことになるが大丈夫か?」


「ええ、問題ないわ。」


「オッケーよぉん。」


そういえば、


「3人はMALOでの連絡はどう取りあってるんだ?」


「あら、リョーくん知らないの?メッセージを送りたい相手の名前を頭に浮かべると、チャットみたいな感じで出来るわよ。」


へー。初めて知った。


「というか、探索者に必要な基本的な技能は一通り探索者ギルドでみんな教えてもらってるわよ。このゲーム(MALO)には説明書もチュートリアルもないから。」


そうだったのか...。

これは本格的に探索者協会に行かなきゃな。混んでるから行かないとか言ってる場合じゃない。


「じゃあ、俺はそろそろ行くことにする。」


「えぇ、リョーちゃんご飯食べていかないのぉん?」


そういえばヒルトがそんなことを言っていたな。この世界の食べ物にも興味がある。


「うん。それもそうだな。食べてからにするか。」


ちょうど俺がそう言ったとき、部屋のベルが鳴った。


「はい。」


『リョーちん?俺だよ!開けて開けて!』


「なんだ、MALOでもオレオレ詐欺があるのか。切るぞ。」


『うわーー!待って待って!ヤナギだってば!ジークさんも一緒だよ!』


「それを早く言え。」


扉を開けると、確かにヤナギとジークさんだ。


「お食事をお持ちしました。入ってもよろしいですか?」


俺たちの悪ふざけに少し苦笑しながら、ジークさんがこちらを窺う。


「ちょうど終わったところよぉん。どうぞぉ。」


「失礼いたします。」


美しい一礼の後に、ジークさんが運んできたのはカートに乗った数々の料理だった。それぞれが少量ずつ盛られており、手でもつまめるように工夫されている。気遣いを感じるな。


「来訪者の皆さんのお口に何が合うか分かりませんでしたので、いくつかの種類をお持ちしました。」


「うひょーー!うまそーー!」


テーブルに並べられていく料理を見ると、野菜や肉を揚げたような料理やケーキのようなデザート、おっ、マチルダさんがガツガツ食べていた謎肉の焼き鳥みたいなのもあるな。


「これは何の肉なんだ?」


俺は謎肉を指さしてジークさんに聞いた。


「そちらはアーマードラビットの串焼きです。提供させていただく料理はすべて、この地域の素材をニーベルン家の専属料理人が調理しております。」


そうだったのか。確かにアーマードラビットのドロップに肉があったな。俺はそれを一口食べてみた。


「っ...うまっ...」


「これおいしい!」


「うめぇぇぇぇ!!」


「ありがとうございます。料理人も喜びます。」


ジークさんは微笑みながらそう言った。ヤナギは料理を夢中でむさぼっている。


それにしても、MALOの世界はすごい。食べ物の味までこんなに感じられるのか。世界を遊びつくしたい俺としては、『食』も避けては通れないようだ。


「皆様、お願いがございます。」


俺が決意を新たにしていると、ジークさんが何やら神妙な面持ちで話しかけてきた。俺たち全員がジークさんの方を振り向く。こら、ヤナギ。モグモグするのをやめなさい。


「どうした?」


「どうか、皆様にお嬢様の良き友人になって頂きたいのです。」


ジークさんは俺たちに深く頭を下げた。


「先ほどお嬢様があなた方に見せたあの笑顔、執事たる私も長らく見られなかったものです。お嬢様はその立場上、ご友人が少なく、寂しい思いをされております。特別なことはお願いいたしません。是非皆様にはお嬢様の寂しさを埋める存在になって頂きたいのです。」


ジークさんはまだ頭を上げない。


「なんだ、そんなことか。」


「そんなこと、お願いされるまでもないです。」


「そうだぞジークさん!ヒルっちはもう俺たちの友達だ!!」


ジークさんはハッとしてこちらを見る。


「ふふ、そうですね。余計な心配をしてしまいました。ありがとうございます。」


ジークさんはほっとしたような微笑みを浮かべた。


「本当に主想いなのねぇん。ヒルトちゃんもこんな執事がいて幸せだわぁ。」


「いえ、出過ぎた真似をしてしまいました。どうかお嬢様には内密にお願いします。」


「あらぁん、どうしてぇ?ヒルトちゃんに自分の想いを知られるのが恥ずかしいのぉん?」


おや?そういうことなのか?


「そのようなことはございませんが?」


ジークさんは表情を一切変えない。


「ふふ、この乙女の目は誤魔化せないわよぉ。まぁ今は、そういうことにしておいてア・ゲ・ル❤」


「ありがとうございます。」


「ん?どういうこと?ねぇベリ美ちゃん!」


ヤナギ...。お前...。


「じゃあ今度こそ俺は行くぞ。ジークさん、美味しかった。ありがとう。」


「いえ、お口に合って何よりでした。」


ヤナギたちはもうしばらく残るようだ。俺はやることが出来たからな。ご飯を一通り堪能した後、一足先に出ることにした。

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