1-16 同級生のオネガイ
いとうです。
適宜改稿も進めてます。
「おはよーリョーちん!」
「おはよう、一ノ瀬君。」
「ああ、おはよう二人とも。」
翌朝、教室に入った俺をいつもの二人が出迎えた。相変わらずの周囲の嫉妬の視線をものともしないヤナギはさすがである。
「リョーちん、昨日は少しでもまともな攻略したか?」
「何だまともな攻略って。俺はいつでもまともだぞ。」
おい、なぜ二人とも遠い目をするんだ。失礼な奴らめ。納得いかないぞ。
「俺とメグミンは昨日も探索者協会のクエストをこなしまくって探索者ランクをGからEまで上げたぜ!すごいだろ!」
「残念だが、俺にはそのすごさが分からない。」
探索者協会に入ってないからな!
「もしかして一ノ瀬君、まだ探索者登録してないの?」
「えーー!じゃあ昨日は何やってたんだよ!早く登録して俺たちとパーティ組もうぜ!昨日なんて誰かが《堅牢の森》のフィールドボスを倒したらしいからな!開始二日目でどうやってそんなに強くなったのか知らないけど、俺たちもうかうかしてられないぜ!誰か分かったら師匠になって欲しいくらいだな!」
ヤナギの発言を聞いて俺の額に冷や汗が浮かぶ。あのことは黙っていた方がよさそうだ。
こちらを見ている香月さんのジト目が気になるが、俺は努めて無視をすることにした。
「それで?一ノ瀬君は昨日は何をしていたのかしら?」
香月さんがこちらを探るような目で質問してくる。その手には乗らないぞ!俺はポーカーフェイスが得意なのだ。
「昨日は《堅牢の森》で延々と狩りをしていたぞ。それから、お前たちとベリ美の分の武器や防具を作ってもらえるように知り合いの鍛冶屋に頼んだ。」
「えっ!武器!?やったぜ!」
よし、これで誤魔化せる。
「ふーん。一ノ瀬君、この前は最弱のアーマードラビットにすら苦戦してたのに、いつの間に《堅牢の森》で狩りをできる程の力をつけたのかしら?気になるわね。」
香月さん、相変わらずの鋭さである。しかし、俺の方が一枚上手だ!大きめの釣り針を垂らしておいたからな。
「そんなことよりも!!武器はどこで作ってもらえるんだよ!紹介してくれよ!リョーちん!」
ほらみろ。でかいのが釣れたぞ。
「それがな、条件として俺を間に介してしか作ってくれないんだよ。だから紹介はできない。すまんな。」
「えー、なんだよ、残念だなぁ。せっかく珍しい鍛冶師と知り合いになれると思ったのに。」
「ん?鍛冶師がそんなに珍しいのか?」
「ああ。何せまだサービス開始3日目だからね。大通りの武器屋以外で武器も防具も手に入れるしかないんだ。鍛冶師になる方法もまだわかってないし。みんな同じ武器で戦ってるから差がつきにくいんだよね。ま!俺とメグミンは同じ武器でも他の奴には負けないけど!」
ヤナギの信憑性の低い自慢(?)を聞き流しつつ、俺は話を進めることにした。
「なるほどな。まあ俺もいずれお前らのパーティメンバーになるんだから紹介出来るようになるかもな。」
「俺としては今すぐでもいいんだけどなぁー。」
ヤナギが文句を言うが、すまない。もう少しだけ自分のスキルを研究させて欲しい。
「それで、作ってほしい武器や防具のリクエストはあるか?ベリ美も交えた方が楽なら今日ログインしてからでもいいが。」
「じゃあそうしようぜ!俺もそれまでに色々考えておくよ!」
***
ヤナギに約束を取り付け、席に帰った俺がふと気配を感じて顔を上げると、香月さんが目の前に立っていた。
そのままジト目で顔を寄せ、小声で話しかけてくる。
「一ノ瀬君、《堅牢の森》のフィールドボス、倒したのあなたでしょ?」
「どうしてそう思う?」
「ふふっ、だって一ノ瀬君、全然ポーカーフェイス出来てないわよ。」
なっ。出来てるつもりだったんだが......そんなに分かりやすいか?女の勘ってヤツなのか?
「あー......できれば黙っていてくれるとありがたい。しつこく絡んできそうなやつもいるし。」
「ふふ、分かってるわ。ヤナギくんったらMALOのことになると見境が無いものね。」
「ああ、そうだな...って、『ヤナギくん』?」
「あっ!MALOでそう呼んでたからつい癖で...。」
少しずつだがちゃんと進展してくれているようで何よりだ。と内心ニヤニヤしていると、
「一ノ瀬君?ニヤニヤが隠しきれてないわよ。もう。」
あれ?また顔に出ていたか。俺は自分が思っている以上にポーカーフェイスが苦手なようだ。まぁ香月さんも照れが隠せていないのだろう、顔がほんのり赤いが。
「それで一ノ瀬君、フィールドボスの件をヤナギくんに黙っていてあげる代わりに、お願いがあるのだけれど。」
香月さんが元の凛とした雰囲気を取り戻してそう言った。美女のオネガイとあれば、聞かねばならない。弱みも握られてるし。
「なんだ?」
「誰か服を作ってくれるようなツテがあれば紹介してほしいの。一ノ瀬君、そういう変なツテ多そうだし。」
変なツテとはなんだ!ちょっと手先が器用なドワーフと知り合いなだけだ!
「それはあれか?ヤナギのまえでオシャレしたいからか?」
俺はさっきの仕返しとばかりにイジワルを言ってみる。
「そそそ、そういうことじゃないわよ!と、とにかくよろしくね!」
香月さんは顔を赤くしながら分かりやすくテンパって逃げて行った。してやったりだな。服なら多分パウロさんが作れるだろう。なんてったって『匠』だし。
裁縫にアレほどの筋肉が必要なのかは果たして謎ではあるが。
***
そんなこんなで朝のホームルームの時間がやってきた。今日は期末試験の採点が終わって返却される日だな。
これで赤点をとった人は夏休みの最初を悲しい補習から始めることになる。ちなみに我らがヤナギはその常連である。
「ほら!みんな席につけ!ホームルーム始めるぞ!」
コバセンが今日もけたたましく教室に入ってくる。手には厚い紙束。アレは全員分の期末試験だろうな。
「期末試験返していくぞ!出席番号順だ!相坂!」
コバセンがどんどんと答案を返却していく。
「一ノ瀬!このペースで頑張れ!」
おっ、今回もなんとか良い成績を収められたようだな。コバセンの反応も好感触だ。
あ、香月さんが呼ばれた。相変わらずの好成績のようだ。席に戻った香月さんの周りからどよめきが上がっている。
「二本柳!お前、大丈夫か?」
「......えっ、なんすかコバセン。」
「今回は、二本柳は補習無し!よく頑張ったな!珍しいこともあるもんだ。」
「マジすか!!やった!!!!」
おお!ヤナギが無事に補習回避したようだ。香月さんのときより教室のどよめきが大きい。
「なんでみんな驚くんだよ!俺だってやるときはやるんだぞ!!」
「おめでとう、ヤナギくん。感謝してね?」
「おう!メグミンのおかげだぜ!本当にありがとな!」
「べ、別にヤナギくんのためじゃないわよ!」
自分の席に戻ってきたヤナギと香月さんの会話である。香月さんのヤナギに対する呼び方が変わっている以外はいつも通りの親し気な会話だな。周りの男子が血涙を流しているのもいつも通りだ。
何にせよ、ヤナギが補習を回避できてよかった。MALOのために本当に一生懸命に勉強したんだろうな。普段からそうすればいいのにな?
***
放課後、ヤナギは意気揚々と俺のもとにやってきた。
「リョーちん!この前言ってた鍛冶師のことだけど、みんなアイデアが固まったから今日のMALOで会えない?」
「わかった、じゃあまたいつもの噴水前で。」
ヤナギと約束した俺は、MALOでの予定を頭で組み立てながら足早に家路につくのだった。
また数日中にアップすると思います。
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