1-13 想定外の事態
どうも。いとうです。
初の戦闘シーンです。
もう少し良い描写を思いつき次第、改稿します。
俺は探索者協会に向かいつつ、改めて街を眺めていた。
行き交う人々は今日も賑やかである。屋台もたくさん出ていて、そこかしこから笑い声や話し声が聞こえてくる。
治安はかなり良さそうだな。やはり衛兵とかもいるのだろうか。
種族は全体的にヒューマンが多いかな?
いや、獣人もかなりの割合がいるな。
エルフやドワーフはあまり多くない。
と、ここで俺はあることに気がついた。
「ん?どれが住民でどれが来訪者だ?」
そう、住民(NPC)と来訪者を見分ける術が無いのである。会話から推察することは出来るだろうが、見た目だけでは全く分からない。
「マチルダさんやパウロさんはMALOの住民だと思うが...」
さすが天下のメガテック社である。各NPCに搭載されたAIも非常に高性能らしい。2人ともNPCだよな?
俺は街並みを楽しみながら歩みを進めた。
✳︎✳︎✳︎
「っと...ここか」
パウロさんにもらった地図によると、ここが探索者協会だな。木材で造られた立派な建物である。4階以上はありそうだ。
確かに初期装備の来訪者と思しき人達が続々と入っていく。何やら年季の入った装備の者もいるが、NPCの探索者だろうか。
そんなことを思いながら、俺は分厚い扉を開け、中を覗きこんだ。
中は、想像に難くなく初期装備の人でごった返していた。普段はここまでの人混みを想定していないのであろう、受付らしき場所の職員がアタフタしている。
「よし、やめるか。」
俺は、即座に踵を返した。
***
俺は再び《堅牢の森》へとやって来た。ん?探索者協会?知らんな。俺は人混みが嫌いなんだ。
まずは他の探索者もいないような森の外れでスキルの確認だな。ランクⅢのスキルなど、マチルダさんたちの反応を見た後では怖くて人前で確認などできないからな。
「まずは糸の動きから再確認だな。」
うん。相変わらずのすごくスムーズな動きだ。以前とは比べものにならないな。全力で動かしてみる。
おお!速い!これならあのウサギの突進にも対応できそうだ。
それにやはり、糸で触った感触がある。これは草、これは木の幹か?ふむ、触った対象も感覚である程度分かるようだ。
「じゃあ次は、っと...おぉ!?」
糸を引く力を試そうと思い、糸を操作して木の幹に巻きつけて引き絞ったら、木が輪切りになってしまった。
「これは......相当使えるな」
以前と比べて糸の力が格段に上がっている。これは戦術の幅が広がりそうだ。
その後色々試してみたが、まず糸の動きや力については格段に向上している。
以前のスキルレベルアップ時の性能向上から考えても、スキルランクが上がるのは破格の効果を生むようだ。
また、糸で周囲のものに触れることでレーダーのような役割をさせることができるようになった。虫の触覚みたいだな。
索敵も行えるかと期待したが、そもそも動かせる糸の範囲は周囲20mほどのようなのであまり効果はなさそうだ。奇襲の防止くらいには使えるかもな。
そんなところかな。今後のレベルアップにも期待だな。
「よし、じゃあ.....ウサギ狩りだ」
俺は前回一敗の後に辛勝したアーマードラビットに対するリベンジを心に誓っていた。
紫神による手助けを受けても尚、アーマードラビットに遅れをとるようなら縛りプレイは諦めるしかないかもしれない。
言うなればあのウサギは俺の縛りプレイの今後を左右する試金石、いや試金ウサギなのである。
「まずは糸を展開させて...っと」
俺は糸を一本ずつ自分の周囲に張り巡らせていく。イメージは蜘蛛の巣だ。
「いまはこれが限界か」
糸を三本出したところで糸からもたらされる情報に頭がついていかなくなった。糸自体はまだ増やせるが、これ以上は混乱するだけだろう。要練習だな。
俺はその状態のまま森を歩き回る。
「なかなか難しいな......っ!何か動いた!」
俺の右側の草陰で何かが動いたのが糸越しに伝わってきた。忍び寄って覗き込むと、
「見つけた...」
アーマードラビットだ。さて、どうやって倒そうかな。と考えていた矢先だった。
「キュピ?キュピィィ!」
「!! 気づかれたか!? ...いや、違う?逃げた...のか?」
アーマードラビットが突然すごい勢いで走り去っていった。
ヤナギならここで「俺に恐れを成したか!」などと調子に乗るところだが、俺はそこまで楽観的ではない。
次の展開がなんとなく読めた俺は、静かな、しかし大きな溜め息をついたのだった。
「グォォォァァ‼‼」
「はぁ...やっぱりか。これも紫神が面白がってやってたりしてな」
アーマードラビットが逃げ出した方向の逆側からゆっくりと現れたそれは、ゆうに体長3m以上はあるように見えた。
口には鋭く長い牙、太く丸太のような手足には厚みのある刃のような太い爪が並んでいる。
「あー、こいつがパウロさんが言ってたアーマードグリズリーか?」
なんとも運の悪いことである。《堅牢の森》の主とか言ってなかったか?目の前の相手からはそれに相応しい威圧感が漂ってくる。
しかし相手は待ってくれないようだ。草むらの陰にいる俺をどうやってか知らないが感知しているようだな。
「俺はウサギと戦いに来たんだが...と言っても見逃してくれそうにないな」
「グルルゥゥゥ......」
アーマードグリズリー(暫定)は、口からよだれをダラダラと流しながらこちらを睨んでいて、今にも飛び掛かってきそうである。彼我の距離は30mといったところか。まだ糸の射程圏外だな。
「グルルルゥァァァァ!!!!」
「...っく!」
図体が大きいためにアーマードラビットほどの速さではないが、その巨体と恐ろしい声でこちらを威圧してくる。
だが...。
「あの神々のオーラに比べれば大したことはないな」
紫神の悪質なおふざけ神威や、無頓着な黒神の遠慮のない神威を目の前で受けたからな。この程度の威圧には、もはや何とも思わない。
「グルルゥ!!」
ヤツはその隆々とした四肢を動かし、こちらに猛突進してくる。
それに対して俺は...
「ここ!」
「グルゥ?グルルゥ!」
上手くいったか...。
別に俺は何もせずにヤツの突進を待っていたわけじゃない。ヤツが来るまでの時間に即席の網を作っていたのだ。アーマードラビットに仕掛けたのと同じやつだな。
ヤツは今、俺が作った網に捕らえられてもがいている。ふふ、森の主といっても呆気ない。
「よし、あとは...」
「グルルゥゥゥァァ!!」
「何!?」
俺がほっと一息ついたその瞬間、ヤツは無理矢理、その鋭利な爪で俺の作った網を引きちぎった。
「マジかよ...流石は主ってか」
「グルルゥゥ...」
しかしこれで、あのアーマードラビットに対して使った作戦が使えなくなってしまった。
少なくともあの爪を封じないことには網で捕らえることは難しそうだな。
「グルルゥゥ!!」
「うおっっ!」
先程のが癇に障ったのか、極太の爪が音を立てて向かってくる。
俺は冷や汗をかきながらもそれを何とか回避したが、このままではジリ貧である。いつかあの爪に切り裂かれてしまうだろう。
「かといってあの装甲を貫ける気はしないな...」
ヤツの全身はアーマードラビットと同種の装甲で覆われているようだ。
「やはり首を絞めるしか...」
問題となるのは速さである。今の俺が全力で走っても、ヤツの首に糸をかける前にあの爪の餌食となってしまうだろう。
速さの問題を克服するために、俺は以前から考えていたことを実行してみることにした。どうせやらねばやられるのだ。最悪の状況だが、これ以上悪くはならない。
「ぶっつけだが...やるしかない」
「グルルルゥァァァァ!!」
「ふっ!」
俺は迫りくる爪を前転してかわすと、目の前の木の幹に糸を巻き付けた。
「もう一度だ!」
「グルゥ!!」
俺は何度も繰り出される爪を必死にかわしながら、周囲の数本の木々に糸を巻き付けていく。
スキルのランクが上がっていなければこんな芸当は到底無理だったろうなと思いながら、俺は糸を巻き付け終えた。もう体力も限界に近い。
「グルルルゥァァァァ!!」
「これで...決める!」
俺はヤツがこちらに飛びかかってきたタイミングでヤツの方に向かって飛び出した。
「うおおお!」
俺は全力でヤツの反対側にある木に巻きつけた糸を引く。
俺の脚力と糸の力が合わさり、俺の身体は急速に加速する。
「ぐっ...! ここだぁ!」
俺は身体にかかる負荷に耐えつつ、糸を操作して素早くヤツの首にかけた。ヤツの頭が俺の下を通り過ぎていく。
「グルルゥゥァ!」
「ぐあっ!」
咄嗟に振るわれたヤツの爪は俺の脇腹を掠め、近くの木を粉砕した。
「これで...終わりだ!」
俺は全力でヤツの首にかけた糸を引き絞る。スキルの補正もかかり、糸はとてつもない力でヤツの首を絞めつける。そしてついに...
「グオオォ......」
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堅牢熊の皮を入手しました。
堅牢熊の掌を入手しました。
堅牢熊の爪を入手しました。
フィールドボスの初回討伐報酬を入手しました。アイテムボックスに送られます。
種族レベルがLv.4になりました。
【糸術Ⅲ】がLv.3になりました。
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最近、体調がよくない...。
みなさんも気を付けてください。