郷愁
夕暮れ
昔住んでいた町を歩く。
あれから10年は経ったのだろうか。
駅前は随分小綺麗になっていた。
よく放課後に入っていた店は潰れ、コンビニが建っていて
いつも利用していたバス停も消えて
あの頃の私の帰り道は無くなっていた。
沈んでいく夕日を見つめる。夜と夕暮れが曖昧になる時間。
薄紫色の空、紺色に染まる人や建物
景色は変わっていても、空気はあの頃のままだった。
夕焼けに染まり、ゆっくり流れていく雲もあの頃のまま
自分なりに後悔の無い生き方はしてきたつもりだったが、
深呼吸をしてゆっくり息を吐き出すと
それに合わせて胸を強く締め付けられるような気がした。
このまま連れていって欲しい。
何故だかそう思った。
どこに連れていって欲しいのか、あの頃に帰りたいのか
答えは出ないし、正直出てほしくない。
あっという間に町は夜に包まれていく。視線の先で太陽が今にも顔を隠そうとしている。
あの頃への帰り道もなく、懐かしい空も夕日も消え
一人見知らぬ駅で取り残されて迷子になったような私は
誰も迎えが来る訳もなく、ゆっくりと駅前を去っていくしかなかった。






