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Blanche -ブランシュ-  作者: 高山 由宇
革命
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第4章 闇の崩壊

「情報が洩れている」

 そう言ったボスの表情は、いつにも増して険しかった。

「スパイがいるということですか?」

「そうとしか考えられん」

「けれど、並の組織ならわかりませんが、ここはオプスキュリテですよ? そうそう侵入できるとは思えません」

「探せ。ネズミを見つけしだい殺せ。たとえ違っても構わん。不穏分子をすべて炙り出し、根絶やしにするのだ」

 そこで、組織内に侵入したであろうスパイを見つけ出し抹殺することが次の任務となった。

 ブランシュは、まず初めにボスの直近に仕えている人に会いに行った。彼のおもな任務はボスのボディガードだ。誰よりもボスの近くにいて怪しまれない上に、大切な情報をいち早く入手することもできるだろう。

 ボスが自室で休息をとっているのを見計らって、ブランシュはボディガードに近づいた。

「こんにちは」

「…ブランシュ様」

「やめて下さいよ。僕はあなたと同じ、ボスのただの捨て駒ですよ」

「……」

「あなただって、気づいているのでしょう?」

「何のご用ですか」

「どうやら、ネズミが入り込んだらしいのです」

「ネズミ…?」

「少なくとも、ボスはそう思っています。そして、ボスは僕に命じました。疑わしきは抹殺せよ、と」

「…まさか、私を疑っているのですか?」

「あなたは、ボスの最も近くにいますからね」

「私は違う!」

「さあ、どうでしょうか」

「私が、スパイなどできるはずがない」

「それはなぜです?」

「…私の妻と子が、ボスに囚われているからだ」

 それは、ブランシュにとっても予想外の返答であった。

「それで、仕方なくボスに従っていたのですね」

「下手なことをすれば、2人は殺される…!」

「でも、それは…」

 ブランシュは言い淀んだ。ボスが、ボディガードとして働かせるためにこの人の妻子を捕えたのだとしたら、もう生きてはいないのではないだろうか。王族とはわけが違うのだ。利用価値のないものは次々に処分する…それが、ボスのやり方であった。

「生きていると思いますか?」

「言うな…っ!」

 声を荒げた男を、ブランシュは慌てて制した。男も自らの口元を押さえ、恐る恐る部屋で休んでいるボスの様子をうかがい見る。ボスが起きた気配はない。

「わかりました。あなたはきっと違うのでしょうね。そして、僕もスパイを探すついでに、あなたの家族の行方を探してみることにします」

「…ああ、ありがとう」

「ですから、僕の計画にひとつ乗ってはくれませんか?」

「…計画?」

「はい、一か八かの計画です。ですが、あなたの腕ならきっとできます」

 ブランシュは、男にある計画を耳打ちした。


「ネズミはまだ見つからないのか」

 2週間ほど経ったのち、苛立ったボスに呼び出された。

「ネズミなんてどこにもいませんよ」

「ブランシュ、私の言葉に異を唱えるというのか」

「けれど、どこにもいないのです」

「いなければ作ればよいではないか」

 無茶苦茶だ。いつも無理難題を言うが、これほど無茶な要求もないだろう。

「いないものを作れと、そう仰るのですか?」

「そうだ」

 ブランシュはため息をついた。

「わかりました。なんとしてもネズミを捕えましょう」

 そう言うと、ボスは満足げにうなずいて見せる。

「ところで、ボス。今日は、僕もボスに同行させて頂けませんか?」

「なぜだ」

「日頃、ボスがどんなふうに生活されているのか興味があるのです。僕を拾い、そして育ててくれたのはボスです。父が仕事に励んでいる姿を見たいと思うのは、当然のことではありませんか?」

「…好きにしろ」

 そこで、ブランシュはこの日、ボスと行動をともにすることとなった。


「ここは…」

 ボスとともに来たのは、3年前に過ごした路地裏である。

「懐かしいですね」

「何かあったか?」

「ここ。ちょうどこの路地で、僕はボスに拾われたのですよ」

「そうだったか。覚えてないな」

「…そうでしょうね」

 ブランシュは、ちらりとボディガードの男に目配せをした。そして、実に明るい口調で話す。

「そう言えば、ボス。ネズミを見つけましたよ」

「本当か」

「はい」

「しとめたか?」

「いえ、これからです」

「早くしとめよ。して、それは誰なのだ?」

 ブランシュが笑顔のままに銃口をボスに向ける。

「あなたですよ、お父様」

「血迷ったか…」

 ボスが懐に手を忍ばせる。拳銃を取り出した瞬間、ボディガードの男がその銃を弾き飛ばした。

「貴様っ! 妻子がどうなってもよいのか」

 一瞬、男の肩が竦む。

「惑わされないで!」

 ブランシュが叫んだ。

「ボス、この人の家族は本当に生きているのですか?」

「無論だ」

「嘘ですよね? 僕は、調べたんですよ。そうしたら、もうとっくに殺されていた」

「…本当か?」

 傍らで、震える男の声が聞こえた。

「ええ、残念ですが…。ずっと監禁されていたようで、餓死した状態で見つかったそうです。奥さんの遺書もここに」

 ブランシュが、拳銃を右手で構えたまま左手でポケットから手紙を取り出して見せる。

「くそっ…!」

 グリップを握る男の手に力が籠ったのがわかった。

「ふん。すでに死んでいる家族を助けるために私に媚びへつらっていたとは、実に哀れな男だ」

「貴様っ!」

 男が優秀なボディガードなら、ボスは歴戦の傭兵であった。また、人心を掌握する術に長け、駆け引きを得意としていた。

 怒りを煽られた男は、わずかに隙が生じた。そのわずかの間をボスは見逃さなかった。すかさず、腰にかけたホルダーから第2の拳銃を取り出して構える。そして、すかさず引き金を引こうとしたまさにその時、再び拳銃を弾き飛ばされてしまった。

 ボスは、初めに目の前の男を疑ったようだ。しかし、男は銃を構えたまま固まっている。その銃口は静かだった。ブランシュにも目を向けられる。だが、ブランシュもまた、何が起きたかわかっていなかった。

「アルっ!!」

 はるか遠くから声が上がった。冷え切った心が急速に温められていくような、そんな声であった。

「ジル!!」

 ブランシュも答えて叫んだ。ボスの拳銃を弾き飛ばしたものは、ジルの得意とするゴムパチンコを使った石投げであったのだ。見ると、その他にも、たくさんの路地裏(リュエル)の面々が顔を出し、ブランシュとジルに加勢するようにボスの周りを取り囲んでいる。

「みんな、そろそろ光が欲しいんですよ。だから、(あなた)には消えてもらいます」

「そして、お前が光になるとでもいうのか」

「いいえ、そうは思いません。でも、上に立つたったひとりだけの意見が通って、あとの大多数の人たちが苦しい生活を強いられるという世の中だけは、間違っていると思うんです」

「ブランシュよ。私はお前に、何も学ばせるつもりはなかった。お前は私の忠実なる駒…それを望んでいたのだ。誰だ。誰がお前にそんな知恵をつけたのだ」

「先生ですよ」

「全員、お前が殺しただろう。あの短期間で、もともと学のなかったお前に、そんなにも知恵を与えられる者などいるはずがない」

「お父様。名残は惜しいですが、もう時間です」

 ずどん…。その銃声は、ブランシュのものではなかった。

 妻子を無惨にも殺された、悲しみと怒りに暮れる男の重い銃弾が、ボスの眉間を綺麗に撃ち抜いたのである。

 こうして、長きに渡り世界を覆い尽くした闇が…ついに滅びの時を迎えたのであった。

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