第3章 国王処刑
エルターナ国に戻ったブランシュは、ボスよりおおいに称賛され、その地位も飛躍的に上がった。そして、休む間もなく次なる任務が言い渡された。
それは、国王の身柄を拘束することであった。
ブランシュもこの時まで知らなかったのだが、すでに死んでいるだろうと噂されていた国王が生きていたのだ。長らく幽閉されていたのだが、ブランシュがフレバラントに行っている間に失踪したらしい。
早速、ブランシュは支度をすると国王を探しに出かけた。だが、今回ばかりはまるで手がかりがないのだ。どこを探したものか考えていた時、ひとつの方法が閃いた。
「確か、王には3人の娘がいたはず…」
つぶやくと、その考えを実行に移すべくブランシュは王宮を目指した。
王宮…そこは、ブランシュが3年間過ごした屋敷であった。初めてこの佇まいを目にした時、まるで城のようだと思ったが、紛れもなく王族の住まう城だったのである。この最下層に、国王をはじめ、3人の姫たちもみな幽閉されているのだというのだ。
「だから、最下層に行くことを止められていたのだろうな」
ブランシュは今さらながらにそう思った。
ブランシュは、正門から堂々と屋敷の中に入る。その姿に、3年前のおどおどとした様子は見られない。
門を開けて出迎えたのは、執事のヨハンであった。
「こんにちは、ヨハンさん。お久しぶりですね」
「ブランシュ様。お元気そうで何よりにございます」
「ヨハンさん、王様がいなくなったそうですね」
「……」
「警備が甘かったのかな。どう思います?」
「私どもは何も…」
「ヨハンさん。僕はつい最近知ったのですが、このお屋敷が王宮だったそうですね。ヨハンさんや他の使用人の人たちは、もしかしてもとは王宮で王族に仕えていたのではありませんか?」
「…はい、さようにございます」
「もしかして、逃がしました?」
「……」
「僕じゃなくても、ボスだってそれを疑っていると思いますよ。ことが済めば、あなたがたも処罰されるかもしれない。でも、今ここで僕に協力してくれたなら、罪を軽くしてくれるように僕からボスに話しますよ。僕は、ヨハンさんやナターシャさんに酷いことをしたくないんです」
うつむくヨハンに、ブランシュは有無を言わせない口調で言った。
「さあ、僕をお姫様たちのいるところに案内して下さい」
ブランシュは、ヨハンを伴って最下層へと下りた。そして、奥の奥、その向こうに進むと、他の扉とは明らかに異なる大きな扉が見えてきた。ヨハンがそこで立ち止まる。
「第1王女セレスティーヌ様がこちらにいらっしゃいます」
ブランシュは、2度ノックをすると返事を待たずに部屋に入った。その後、間もなく銃声が上がる。部屋から出てきたブランシュに、ヨハンは珍しく冷静さを欠いた様子で王女のことを尋ねた。そこで、ブランシュはただひとこと、
「王女が3人いて幸運でした」
とだけ答えるのだった。
その翌日、エルターナ国中が大きな騒ぎに見舞われた。すでに滅んだと思われていた王族が生きていたこと、そして昨日、第1王女が病死したことなどが報じられたのである。そこに、国王の失踪については触れられていなかった。だが、それで良いのだ。それを知らせたいのは国民にではない。失踪中の国王に向けたものであった。王女の病死など、国王は信じはしないだろう。だから悟るはずだ。自分が戻らねば、次に死ぬのは第2王女である、と。
しかし、3日が過ぎても国王からは何の知らせもなかった。そこで、ブランシュは再び地下へと出向いた。
「ブランシュ様!」
慌てた様子のヨハンがブランシュを制する。
「今度は、レティシア様を手にかけるおつもりですか」
「第2王女はレティシアさんというのですか」
「もう、おやめ下さい」
「ヨハンさん、これはボスの命令ですよ。ボスの意向に背くつもりですか?」
「ええ。たとえ背いてでも、もうこれ以上、王様の大切な方々を傷つけることは見過ごせません」
「…そうでしょうね。もともと、あなたはボスに忠誠を誓っているように見せかけながら、この地下に囚われている王様を陰ながら守ってきたのですから」
「……」
「あなたは王様専属の執事だったようですね。あなたがボスに従うのは、すべて王様と王族を守るためだったんですよね。それは、すでにボスも知っています。それを僕に話したのはボスですから」
「私は、この命に代えてでもあなたを通すわけには参りません」
「わかりました。では、死んで下さい」
その後、ひとつの銃声が上がった。
この頃になると、ブランシュは銃を撃つことに何の感情も抱かなくなっていた。ただ、至極当然のように、まるで呼吸でもすかのように引き金を引いた。
ひとりで地下を訪れたブランシュは、第1王女セレスティーヌの部屋を通り過ぎ、その奥の大きな扉の前に辿り着いた。2度ほどノックをすると、またも返事を待たずして入る。ほどなくして銃声が上がった。
その翌日、再び国中が騒然とする。第1王女に続き、第2王女の病死…。そして、ブランシュの目論見どおりか、耐え切れなくなった国王がついに動き出した。
第2王女の死が報じられた翌日、国王が王宮へと戻ってきたのである。
「お帰りなさい、王様」
笑顔で出迎えたブランシュに、国王は怪訝な表情を見せた。
「君は?」
「ブランシュです」
「…聞いた名だな。あの男が連れてきた孤児に、そういう名の少年がいたが…」
「ええ。そのブランシュです」
「…まさかと思うが、君がやったのか?」
「王様が戻らなかったら、最後のお姫様も殺してしまうところでしたよ」
国王は唇を噛みしめ、握りしめた拳からは血が滴り落ちた。
「ヨハンは、どこだ?」
「死にました」
「ヨハンも、殺したのか。なんと哀れな…」
「そんなことないですよ。ヨハンさんは、最後まで王様と王族を守ろうとしていました」
「そうではない。哀れと言ったのはお前のことだ。お前は、本当に哀れな子だ」
「……」
「私を殺すためにここへ連れ戻したのか」
「はい」
「そうか。そうだろうな。もう、闇にとっては私を生かしておく必要がないだろうからな。だが、ひとつだけ、願いを聞いてくれないか」
「何ですか?」
「娘を…たったひとり残った娘エリザベートの命だけは助けてくれ。末の娘はまだ幼い。君と同じか、もしくは君よりも幼い、ほんの小さな女の子なのだ。…頼む」
「わかりました。でも、代わりに、僕のお願いも聞いてもらいますよ」
そう言うと、ブランシュは国王の耳元で何やら囁いた。聞き終えた国王は目を見開いたあと、深くうなづく。そして、了承の意を示した。
その後、長年姿をくらましていた国王がすでに死亡していたという知らせがエルターナ国中を駆け巡ったのであった。




