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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 PARTY WITH BORDER LINE 1946
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第三章1

 一九四六年九月十八日。

 かつて蔵王と呼ばれていた頃は鬱蒼とした緑が生い茂っていたアルカ南部の山中にタスクフォース・リガの車列が停まっている。

「ここが世界の果てってやつか」

 無精髭で顎を覆った傭兵はナパーム弾によって焼かれ、今や炭化してどす黒く捻れた木がぽつりぽつりと立っているだけの山腹をピックアップトラックの車上から眺めていた。

「人類皆平等なんて真顔で言う奴をここに連れて来てやりたいな」

 偵察のため本隊の車列から先行し、ザ・オーの山中に展開した傭兵達は例の如く真っ黒になった木の下に視線を向ける。そこでは野良犬達が荒い鼻息を立てながら過剰に血と硝煙を吸った土を掘り返していた。よく目を凝らしてみると、土の間から小さい子供の頭が覗き、華奢な腕が何本か伸びている。穴を掘る時間もなく急いで埋められた死体だ。

 更に進むと、小道の両脇に切断された生首が等間隔に並べられているのが見えた。腐り落ちた眼窩からムカデが這い出し、蠅の集る額によじ登る。その横では死体を喰って丸々と太った野豚がのんびりと歩き回っていた。

「地獄はここにあったんだな」

 野豚の尻から垂れ流された糞が生首の上で湯気を立てる有様を見つめながら、傭兵達はMP44自動小銃の木製クリップを握る掌を脂汗でじっとりと濡らす。

 濡れた山道に転がる死体の鮮度は様々なものだった。温かさが残る手足を痙攣させ、まだ変色もしていないものもあれば、黄ばんだ青白い皮膚を持つものさえあった。

「ちょ……待ってくださいよ!」

 一方、本隊の方ではサブラ・グリンゴールドからの移動命令でピックアップトラックの車列が動き出したのを見て、漁船に吊り上げられた深海魚宜しく口を大きく開けた死体の喉奥に放尿していた傭兵が困惑の声を上げていた。

 必死に尿の残滓を振り切ろうとする傭兵を取り残し、M2重機関銃を荷台に搭載したピックアップトラックは濃い腐敗臭の中に広がる、どれもこれもほぼ例外なく傾いた掘っ立て小屋の連なりへと近づいていく。どの小屋の前にも黒ずんだ男女の死体が享楽的な乱交パーティ後のように何体も積み重なっていた。

『ある任務の志願者を募った時だ。奴らはまるで腐肉に群がるハイエナのように卑しく名乗りを上げた。単に自分の名前を売りたいという厚顔無恥な願望で』

 少女の尻の穴から口にかけて串刺しになった長い鉄パイプの先に針金止めされている拡声器から女の声が響き始める。

『ハイエナだ。奴らは任務という肉を喰らい、肥えて太るハイエナだ。臭いゲップを吐く。そんな奴らはボクを指差して下劣だ、無能だと言う。何一つ自分では生み出せず、他人の模倣しかできないのに。ボクは奴らを軽蔑する。絶対に同じ存在とは認めない。下劣で無能なのは奴らだ。ボクはハイエナではない。ストイックに勝利を求める戦士であり、プライドと良識を持った正気の人間なんだ』

 ピックアップトラックの荷台に乗る傭兵の一人が「正気じゃない」とでも言いたげな様子で首を横に振る。

『もう三年近く戦ってきた。ボクは疲れた。この世界を変えることも、自分を変えることもできないことに気付いた。もうこの苦しみから解放されたい。しかし自殺なんてしてやるものか。ボクは正気だ。自殺とはこの狂った世界に呑み込まれることを意味する。ボクは勝つことはできなかった。でも、ボクは死んでもこの世界に負けたくはない』

 山中に極めて不自然な形で設営されている日本と南アフリカの国旗が表示された大型モニターの前を横切り、車列は更に奥へ奥へと進んでいく。

「中佐、あれは……?」

「鳥居です」

 ピックアップトラックの助手席で腕を組むサブラは、運転手にあの赤い門は神と人間が住む世界を区画するもので、あの先は所謂『聖域』なのだと説明する。

 鳥居の下を潜るなり、傭兵達の鼻腔は今まで嗅いだことのない濃厚な死臭によって満たされた。それは三年前、グリャーヌズイ特別区でかつての級友に対し凄惨な民族浄化を行った彼らですら思わず咳き込み、口元をシュマグで覆わせるレベルのものだった。

「中佐!」

 先行していた偵察班が背後を警戒しながら車列に近付き、一人が立てた親指を湿った地面に向ける。この先には敵がいると声を出さずして伝えているのだ。

 別の傭兵がピックアップトラックの窓を開け、サブラに道中で拾った一枚の紙を手渡す。

「この先は一人で来いと書いてありますね」

 紙面を確認したサブラはドアを開け、車外に降り立つ。

「お待ちください中佐!」

「危険ですよ!」

 運転手や偵察班の傭兵達が揃って彼女を制止するが、

「度合いが違うだけでここも十分に危険です。円周防御のまま、現在地で待機を」

「ここで待機って……冗談じゃありませんよ!」

 サブラは部下の声を無視し、PKM軽機関銃を片手にマツリの聖域へと歩き始めた。

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