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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 PARTY WITH BORDER LINE 1946
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第一章3

 部下から客人がやってきたことを知らされると、シャローム学園の図書館の一角で読書に耽っていたS中佐はそっと本を閉じた。

「ありがとうございます。今行きます」

 静かに彼女は席を立ち、優雅ささえ感じさせる足運びで一九〇二年に出版されたジョセフ・コンラッドの小説を本棚へと戻す。

「お久しぶりです、クリスさん」

 そして左肩に赤いベレー帽の嵌ったオリーブドラブ一色の軍服に百七十センチの長身を包む女性将校は図書館に入ってきたクリスを迎えた。

 二人は三か月ぶりに再会を果たす。

 三か月前――一九四九年の六月にクリスが『ウサギの穴に落ちて』を執筆するにあたって取材のためシャローム学園を訪れた時、機密保持の問題から直接インタビューを受けられない同学園のヴァルキリー、サブラ・グリンゴールド中佐に代わってトランシルヴァニア学園からの客人に応じたのが「私とグリンゴールド中佐は姉妹同然の付き合いがある親友同士です」と自称するS中佐だった。

「ここの棚にある書物は全て――」

 机に向かって勉学に励む他の生徒達を邪魔しないよう注意しながらクリスが近づいてくると、黒く長い髪を揺らしてS中佐はすぐ横の本棚を見る。軍事関連の書籍がぎっしりと詰まったその本棚は壁一杯に広がっていた。

「この二ヶ月の間にクリスさんの著書をコピーして作られたものです」

 S中佐は眼鏡のレンズの奥にある紫の双眸に強い同情と慈しみの光を湛えた。

「クリスさん、貴方がこのことで酷く苦しまれていることを私は知っています。何度もご連絡させて頂いた通り、私はクリスさんさえ良ければコピーされた出版物の販売元に対する法的処置の手続きを始めることができます」

「人の努力を掠め取り、その上澄みだけを掬って自分の名声や利益にする。物凄く腹立たしいし、許せないです」

 S中佐の前に辿り着いたクリスは悲しげな仕草で首を横に振る。

「だけど、例えコピーであっても私の本を下敷きにして外の世界の人達がアルカのことをほんの少しでも知ってくれればそれで……それで良いと思っています」

「貴方は本当に立派な人だと思います」

 隠し切れない怒りと絶望で震えるクリスの手を自らの両手で握り締め、

「貴方のような人と巡り合えたのは幸運だと言えるでしょう」

 S中佐はお互いの胸の位置まで持ち上げる。

「でもクリスさん、今まで貴方が大事にしてきた『自分』は本当の自分ではありません」

「えっ?」

「それに悪魔から逃れようとする人間程、醜く忌まわしいものはこの世界に存在しないのですから」

 手を離したS中佐は微笑し、話題を切り替える。

「話によるとクリスさんは今、南アフリカ共和国と日本との間で一九四六年に行われたトラック戦争について調べられているとか」

「はい」

 クリスは頷く。

「トラック戦争は以前S中佐よりお伺いした第四次ダイヤモンド戦争よりも謎の多い戦いとして知られています。アルカにおいて代理戦争が行われた理由すら今なおわかっていないのですから」

「それで当時傭兵としてドラケンスバーグ学園に従軍し、トラック戦争にも参加したサブラ・グリンゴールド中佐を良く知る私にインタビューを……というわけですね」

 こくりとクリスはまた頷くが、返ってきたのは鋭い眼光だった。

「グリンゴールド中佐はイスラエルという道徳的にも国際的にも正当化されたユダヤ人国家がアルカに学園を建設するにあたり、必要なノウハウや情報を当時収集していたに過ぎません。クリスさん、貴方は私とお話して一体何を得ようとしているのですか?」

「話をするのではありません! 私はただお話を聞くだけです!」

 クリスは胸に手を当て、力強く歩み寄って自分の顔をS中佐の顔に近付ける。

「中佐! 何事ですか!?」

 図書館中に響き渡ったクリスの大声で只ならぬ事態が起こったことを察し、ウージー短機関銃を携えたシャローム学園の生徒達が全速力で走り寄ってきた。

「大丈夫です。問題ありません。皆さん席に戻ってください」

 穏やかな表情と口調でS中佐は生徒達を下がらせる。そしてほんの僅かだけ首を右に傾け、「S中佐は私の心を広くしてくださいました」と大きく目を見開きながら起伏に乏しい自分の胸に手を置くクリスに微笑を送る。

「時が流れるのは速いものです。あれからもう三年が経つのですね」

 S中佐は以前もそうしたように自分の中にある記憶の書庫へと赴き、そこに収蔵されているテープを巻き戻し始める。

「ではクリスさんにお話しましょう。トラック戦争の『真実』を」

 艶のある薄い色の唇が小さく開き、S中佐は脳内のスクリーンに流れる過去の情景を言葉という形に翻訳して話し始めた。

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