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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 PARTY WITH BORDER LINE 1946
62/285

第一章1

 一九四九年九月二十日。

「……っ」

 乾いた土と手垢がこびり付いた窓ガラスから差し込む日光に瞼を焼かれて、クリスティーナ・ラスコワは目を覚ました。

「んっ……」

 起伏に乏しい裸の肢体を白いショーツだけで覆う、周囲からクリスと呼ばれている少女は学生寮の一室に置かれたベッドの上で気だるげに寝返りを打つ。

 しかし残念なことに、脂臭い枕に顔を埋めた学業の傍ら日々取材と執筆活動に励むノンフィクション作家が二度寝を果たすことはとうとう叶わなかった。

 アルカにおけるハンガリーの代理勢力ことトランシルヴァニア学園の生徒であるクリスは溜め息と共に重々しい様子で上体を起こす。そしてベッドの上に散らばった、妙な形で折り目のついた紙を纏めてその文面に目を通す。

『驚愕の真実! イスラエルは貧困国の子供達を洗脳し少年兵に仕立て上げていた!』

 タブロイド紙の一面には大きな文字が躍り、地中から掘り起こされた大量の人骨の写真が仰々しいキャプション付きで紹介されていた。

「知ったように書くんだから……」

 やがて気だるげなクリスの視線は記事から下部の広告へと移る。そこには彼女が作家契約を結んでいる、世界で唯一アルカ学園大戦についての書籍を専門に発行する出版社、スレッジハンマーブックスの新刊ラインナップが並んでいた。どの本にも暴力やセックスを連想させる刺激的なキャッチコピーが付けられている。

『暗殺集団モサドの恐怖! アンゴラで恐るべき大虐殺が行われていた!』

 クリスは『ウサギの穴に落ちて』というタイトルの脇に内容とは大きく異なる謳い文句が走り、更にその隣に自分の名前があるのを目にして、もう何度味わったかわからない頭痛めいた感覚を覚える。

「こうでもしないと売れないのはわかるけど……」

 自分に言い聞かせるように呟いたクリスはタブロイド紙をトランシルヴァニア学園の生徒手帳が置かれたベッド脇の机上に投げると、欠伸をしながらシャワー室へと向かった。

「よし」

 七分十二秒後、左胸と右手上腕部にハンガリー国旗の小さなパッチが縫い付けられた制服を纏うクリスは鏡の前に立っていた。

 整えられた薄灰色の長髪は白いリボンでツインテールに纏められている。

「大丈夫だからね」

 刺々しさの一切ない雰囲気を持つ彼女は愛嬌のある顔を両手で小さく張り、リボンを上下に揺らして大きく深呼吸した。

「行くよ、クリス」

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