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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 PARTY WITH BORDER LINE 1946
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プロローグ

 一九四六年九月十六日。

「遅刻! 遅刻~!」

 白いセーラー服に身を包んだ一人の女子生徒が、アルカ――かつては日本の東北地方南西部に位置する山形県と呼ばれていた地――にある街の中を疾走していた。

「初日から寝坊ってホントにもー!」

 口に焼けていない食パンを咥えた女子生徒は唇の間からくぐもった声を発し、焦りに焦った様子でアルカ北東部の学園都市オーイシアの通学路を進む。

「今日が転校初日だっていうのに……」

 そして曲がり角を出た直後、彼女は足を止めた。

「えっ」

 焼け焦げた建物の数々から立ち昇る黒煙を目にして、

「なにこれ」

 絶え間ない銃声と男女の入り混じった悲鳴を耳にするなり、

「嘘……でしょ……」

 彼女の心にあった新しい学園生活への期待と不安は一瞬で霧散した。

 胸躍らせて歩く筈だったハイスクール・エウレカへと続く道の左右には強引に胴体から引き剥がされた人間の手足や、蠅の集った臓物が鈍い光沢を放つ赤黒い血のシートの上に散らばっている。まるで凶暴な肉食獣によって残虐に食い荒らされたかのようだった。

「嘘だよね……」

 顔の筋肉全てを引き攣らせて女子生徒が後ずさった時、青ざめた彼女はまだ艶やかな肉が付いたままの人骨がレンガ作りの歩道に落ちる音を耳にした。

「嘘だよ……こんなの……」

 全身を身震いさせつつ振り向くと、そこには血の染みを広げた背中があった。その上では歪な動作で虱だらけの後頭部が前後し、粘着物が擦れ合う不快な音を響かせている。

「あの……」

 恐る恐る女子生徒が声をかけた瞬間、脂ぎった後頭部の動きが止まり、『そいつ』の掌から薄桃色の腸が地面に落ちて広がった。

「――ッ」

 瞬く間に立ち込めた悪臭で鼻腔を突かれ、反射的に前へ向き直った瞬間、女子生徒は唸り声と共に襲い掛かってきた別の『そいつ』によって荒っぽく地面へと押し倒される。

 少女の喉笛に黄ばんだ歯が食い込み、透き通るように白い肌から弾けた鮮血が空を汚す。

「前世紀の終わり……」

 学園都市のあちこちにあるスピーカーからラジオ放送が流れ始める中、先程女子生徒に背中を向けていた別の『そいつ』は腹部と背中の銃創から肋骨や背骨の一部を剥き出しにしたまま、四つん這いになって彼女のふくらはぎに齧り付いた。鼻から臭い息を吐きながら荒々しく首を左右に振り、『そいつ』がぶちりと音を立てて張りのある肉を引き千切ると、皮が剥げて腐りかけの内側が覗く首筋から血と汗の滴が飛び散った。

「巨大隕石の落下と、それがきっかけになって始まった十五年間にも及ぶ世界規模の戦争が人類に歴史上類を見ない未曾有の被害をもたらしました」

 やめて、やめてと声を震わせる女子生徒の華奢で繊細な指が噛み千切られる。第一関節から先を失った人差し指や小指は激しく上下に動いた。

「混乱はグレン&グレンダ社によって収められました」

 染み一つないセーラー服の上着が乱暴に捲り上げられ、波打つ下腹部が露になる。窪む臍の穴に『そいつ』の汚い指が無理矢理入り込み、そこを起点にして腹が布のように引き裂かれていく。

「そして同社は今後一切、人々が争わずに済む世界を作ろうと考えます」

 その有様を目視してしまった女子生徒は自身の鼓膜を破らんばかりの絶叫を上げ、裂けた自分の腹から脂っぽく生暖かい血液が溢れ出す様子を涙でぼやける視界に映した。

「それが戦闘用の人造人間『プロトタイプ』を教育し」

 女子生徒が白目を剥いて絶命した刹那、鮮やかな色の腸が勢い良く外へと飛び出し、

「世界各国の代理勢力である『学園』に所属させ」

 地面に広がって湯気を立てるそれに二人の――もしかすると二匹の――『そいつ』が我先にと喰らい付く。

「アルカという永久戦争地帯でそれぞれの母国の代わりに戦わせるシステムなのです」

 少しすると、どこかから腸をひたすら貪る『そいつ』とは別の『そいつ』が何体も現れ、息絶えた哀れな女子生徒の眼窩に指を差し込み、ゆっくりと首を胴体から切り離していく。「そして今や民族対立、資源の利権争いといった国家間の問題は全てアルカにおける代理戦争で処理され、人類にとって永遠に過去のものとなりました」

 更に別の『そいつ』はもう二度と動くことはない細い手足に齧り付き、口の周囲や頬を血で濡らしつつ骨から人肉を引き剥がした。

「これは地獄だ」

 オーイシアの上空を飛行するA‐1スカイレーダー攻撃機のパイロットが、キャノピー越しに眼下の地獄絵図を見ながらアフリカーンス語で忌々しげに呟く。

「紛れもない地獄だ」

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