エピローグ
戦いが終わり、静かになったショナイ平原を緩やかな風が流れていく。
エーリヒとノエルの周囲では散らばったチェルノボーグの鉄灰色をした残骸が燃える静かな音だけが響き続けていた。
「いつの間にか僕の願いは決して解けない呪縛になっていた」
マーシャ・パプキーナの死体を埋め終えたエーリヒは静かに言う。
「その呪い、今は解けたの?」
「うん」
レンズの割れたメガネを掛け直しているノエルはエーリヒに「そう、良かったね」とだけ返してパプキーナが埋められた場所に木で作られた十字架と花を添える。
そう、良かったね。
エーリヒ以外の人間にとってはただそれだけのことだったのだ。しかし、ただそれだけのことのためにエーリヒはこの一年ずっと苦しみ続けてきたのだ。
「ただそれだけのこと」
エーリヒはただそれだけのことをそっと胸に仕舞い込む。呪詛や怨念の源泉としてではなく、暖かく大切な記憶として。
やがて爆音と強い風が世界を包んだ。エーリヒの副官がヘリで二人を迎えに来たのだ。
「ありがとう」
「お礼は言葉ではなく現金でお願いします」
ノエルを先に乗せ、次に操縦席の副官と笑い合ったエーリヒはタスクフォース609のヘリのハッチに足を掛けつつ、もう一度だけ戦場を振り返る。
「さよなら、マリア」
エーリヒは彼が本来持っている優しさを過分に含ませた声を発した。
「さようなら」
JUST LIKE OLD TIMES――まるであの頃のように。
終劇