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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 JUST LIKE OLD TIMES 1944
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第三章6

「さあて、どこから食べちゃおうかな」

 赤い粒子の光跡を残してショナイ平原上空を飛行するノエル・フォルテンマイヤーは眼下に編隊を組んで進むヴァルキリーを見つけ、蛇のように舌を出して上唇を舐めた。

「ラブリーエンジェルなノエルちゃん! 推して参るよ!」

 わざと聞こえるようにして叫ばれたノエルの声はヴォルクグラード正規軍に所属するヴァルキリー達の鼓膜を激しく叩く。

「テウルギストだと!?」

「馬鹿な!」

 ロシア語で話すヴァルキリー達はB‐10無反動砲やSVT‐40半自動小銃を上方から迫ってくる自分達の始祖へと向けるが、銃砲撃を彼女に浴びせる前にソノカ・リントベルクが放ったPTRS1941対戦車ライフルの十四・五mm弾で頭を消し飛ばされた。

「タスクフォース609は我々と共に戦うはずではないのか!?」

 急降下して自分のすぐ横を高速で駆け抜けたノエルを追うようにPPSh‐41短機関銃を連射していたヴァルキリーはそのドラムマガジンが空になった直後、七・六二mm弾を浴びる。最初の銃弾はマナ・フィールドで防ぐことができたが、反動で弾かれて左手が外側へと広がった瞬間、その付け根に間髪入れずFAL自動小銃から撃ち出された弾丸が食い込んだ。血の霧を残して腕が悲鳴を上げるヴァルキリーから切り離される。

「腕が! 私の腕が!」

 絶叫しながら錐揉み回転して高度を落としていくヴァルキリーは続いてノエルから腹部を撃ち抜かれ、真っ二つに裂けた華奢な肢体から生臭い臓物を撒き散らしつつ地面へ吸い込まれる。

「君達には知っておいてもらいたいんだ! この世界には何の意味もないってことを!」

 ノエルは空を埋め尽くさんばかりの銃弾に追跡されながら楽しげな声を上げる。

「私が人の手足を生きたまま切断することにも」

 最初はFAL自動小銃を右上に向けて発砲し、次に左へ向き直って撃つ。数秒の間に、銃口の先にいた二人のヴァルキリーの左足と右手が相次いで爆ぜた。

「マリアのせいで大勢のプロトタイプが死ぬことにも」

 自分の中で猛り狂う殺戮衝動を抑えようともしないノエルは更なる銃撃を回避しながら上昇して左上方のヴァルキリーを狙い撃ち、その右肘から先を吹き飛ばす。

「ヴォルクグラード人民学園の生徒同士が殺し合うことにも」

 間を置かずしてすぐ隣にいたヴァルキリーも左手と両足を奪われた。

「意味なんてないんだ!」

「だからなんだ! 死ね!」

 滞空するノエルの背中側からつい数秒前の銃撃で左足を失ったヴァルキリーが激痛に顔を歪め、目尻に涙を溜めながら鉈を振り上げて迫ってくる。

「世界は面白いところだ」

 振り向いたノエルは彼女の手首を左手で受け止め、

「でもね、それは色々なことが起きるから面白いんじゃない。この世界そのものが面白くできているんだ」

 彼女の鳩尾にFAL自動小銃の銃口を突っ込んでトリガーを引いた。ヴァルキリーの体を貫通し、液状のマナ・エネルギーが固体化して形成された背部飛行ユニットから血肉と共に内部で歪に捻じ曲がった七・六二mm弾が飛び出す。

「そこに意味なんてない」

 そして絶命した少女を投げ捨てたノエルは右足を上げながら左回転し、

「だからこの世界における事象は全て何の意味もない偶然によって無意味になる」

 またも背後から迫り逆手に持ったPPSh‐41短機関銃の木製ストックを横薙ぎに振り払おうとする右手のないヴァルキリーに踵落としを浴びせる。直撃で頭蓋骨が砕け、脳漿と骨の破片が周囲に四散した。

「つまりこの世界の全てには何の意味も目的もない!」

 続いて赤いマナ・エネルギーを絶えず背部飛行ユニットから放出しているノエルは右肘から先を失い、泣き叫びながらも左手でTT‐33拳銃を連射するヴァルキリーに肉薄した。しかし前蹴りを食らって距離を取られ、更なる九mm弾の連撃を浴びてしまう。

「私が強い理由はテウルギスト・ヴァルキリーだからじゃない」

 しかしノエルは後ろで結った金髪を揺らしながら左右にステップを踏むようにして銃弾の射線上から逃れ、再び距離を詰めた。

「君達と違って、単に何の意味もないこの世界を受容して楽しんでいるだけのことだよ」

「世迷言を!」

 弾切れになってスライドが後退したままになったTT‐33拳銃を投げ捨てたヴァルキリーは腰の鞘からナイフを抜き、右下から左上にかけてその刃を一閃した。

「言わばこの世界は巨大なキャッチ22(注1)なのさ」

 易々と避けたノエルに対してヴァルキリーは歯を食い縛って激痛に耐えながら諦めずに再度左上から右下へナイフを振り下ろすが、

「だからこそ面白いし何よりも楽しい!」

 その前に長身の少女からカウンターの形で左下から右上へと繰り出された左回し蹴りによってその手首を吹き飛ばされてしまう。そしてノエルは剥き出しの銃身に直接グレネードランチャーが取り付けられたFAL自動小銃を構え、七・六二mm弾の一撃で両手を喪失したヴァルキリーの頭を血塗れの肉塊へと変えた。

「ノエル」

 突然、頭部を失って落下していくヴァルキリーの手足を撃って千切ろうとしたノエルは自分の背部飛行ユニットにダクトテープで無理やり巻き付けた無線機からコードで繋がれているインカム越しにエーリヒの声を聞いた。

「なんじゃらほい?」

「ありがとう」

 通信はたった一言だけだった。

「いつも傍にいてくれて」

 ノエルは小指を倒す。

「いつも支えてくれて」

 ノエルは薬指を倒す。

「今まで」

 ノエルは中指を倒す。

 そしてヴァルキリー特有の指の折り方を見せた彼女は珍しく肩を竦めて苦笑いした。

「エリーったら構ってちゃんなんだから……可愛いなぁ」


 注1 答えのない矛盾した問題を意味する軍隊用語。

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