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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 JUST LIKE OLD TIMES 1944
54/285

第三章5

 一九四四年七月二十日。

 庄内平野という本来の呼び名など今や誰一人覚えていないアルカ北西に位置するBFで同じロシア系プロトタイプとヴァルキリー同士が激しい砲火を交えている。

「くたばれマリア!」

 赤い星の描かれた翼を翻して降下したヴォルクグラード正規軍のヴァルキリー達が制動を掛けながら右肩に担いだB‐10無反動砲を撃ち、

「マリア万歳!」

 対するヴォルクグラード防衛評議会所属のヴァルキリーは一人上昇しながらPPSh‐41短機関銃を連射してその八十二mm砲弾を空照らす閃光へと変えた。

「お前達はまだ殺し足りないのか!?」

「一体何人殺せば満たされる!」

 ヴォルクグラード正規軍のヴァルキリー達は怒りの声を上げながら同高度になって迫ってくるヴァルキリーへ再びB‐10無反動砲を撃ち込む。

「貴様ら叛徒を全て殺す尽くすまでだ!」

 しかしアゴネシアという世界から忘れ去られた辺境の地で一年に渡り憎悪を増幅させてきた戦乙女は正面から迫る二発の砲弾を薙ぎ払うように展開したマナ・フィールドで阻止し、その爆煙の中から飛び出す。そしてPPSh‐41短機関銃でヴォルクグラード正規軍のヴァルキリーを一人蜂の巣にすると、すぐにもう一人へ肉薄した。

「叛徒はお前達の方だろう! 忌々しい亡霊共が!」

 B‐10無反動砲の再装填が間に合わないと判断したヴォルクグラード正規軍のヴァルキリーは右旋回で距離を取ろうとするが、それを読んで左旋回したヴォルクグラード防衛評議会のヴァルキリーから懐に入られる方が早かった。

「我々の時代はまだ終わってない!」

 ヴォルクグラード防衛評議会のヴァルキリーはかつての戦友の腹部にPPSh‐41短機関銃を突き刺し、それをフルオートで連射しながら急降下、地面に叩き付け、それでも飽き足らず血塗れの肉塊へと変わった頭部を地面に押し込んだまま背部飛行ユニットを最大噴射させて滑走する。

「我々の時代は終わっていない。今が我々の時代なんだ!」

 停止するなりヴォルクグラード防衛評議会のヴァルキリーは脳漿が弾けた怨敵の頭部に唾を吐きかけるが、その直後に十四・五mm弾で首から上を綺麗に消し飛ばされた。

「あと何び……」

 PTRS1941対戦車ライフルを携えたヴォルクグラード正規軍のヴァルキリーが自分の得物に新しい五発入りのカートリッジを装填した瞬間、彼女は背後から押し寄せた粒子ビームに巻き込まれて蒸発した。

「大佐だ! 同志大佐だ!」

 ヴォルクグラード防衛評議会の戦乙女達はサカタグラード方面から現れたマリア・パステルナークの姿に歓声を上げ、自分達の完全勝利を確信する。

「その両足は義足なの?」

 正規軍のヴァルキリーらは下半身を巨大な黒いスカートで覆ったヴォルクグラード防衛評議会の最高指導者を目にするなり舌打ちし、背部飛行ユニットから青い粒子を噴射して急速に接近していく。

「ノコノコと出てきたわね! 死に損ないが!」

「アイツを殺ればモスクワに銅像が建つわよ!」

 その過程で彼女達はマナ・パルスライフルを両手持ちしたマリアから幾筋もの粒子ビームを浴びせられるが、少なからざる実戦経験を積んだ彼女達はそれを易々と回避した。

「図体ばっかり!」

「舐めてもらっては困る!」

 ヴァルキリーの接近を視認したマリア……マーシャ・パプキーナが巡航を停止して直立めいた状態になると、火花を散らして全高五メートル近いスカートに亀裂が入った。

「私はマリア・パステルナークだぞ!」

「何!?」

 黒く薄い装甲が切り離されると同時に異形の長い両足に折り畳まれて格納されていた左右合計十四本のアームが展張し、三本のクローを持つおぞましい鉄の腕が迂闊にも接近し過ぎたヴァルキリーの両足と左手を掴んだ。

「だから言ったはずだ! 私はマリア・パステルナークだと!」

 恐怖に歪むヴァルキリーの首を更に別のアームが保持していたチェーンソーで刎ねると、かつて人民生徒会が開発し、ユダヤ人達の手によって今年に入ってから完成させられたヴァルキリー用の強化ユニット『チェルノボーグ』を両足に装備したパプキーナは血の噴水を上げて痙攣する死体を投げ捨てて新たな獲物を探し求めた。

「撃つぞ! 道を開けろ!」

 パプキーナは両手と脚部のアーム二本――合計四門のマナ・パルスライフルを構え、混戦状態にある敵味方双方のヴァルキリー目掛けて発砲する。図太い粒子ビームが一切の分別なく射線上にいた少女達を蒸発させ、その上半身や下半身を消し飛ばした。

「味方を撃ったのか……!?」

「私は道を開けろと言った!」

 分厚いマナ・フィールドでヴォルクグラード正規軍のヴァルキリーによる攻撃を防ぎつつ、スラブ神話の死神の名を冠した鉄灰色の強化ユニットを装備するパプキーナは四本のアームでチェーンソーを振り回しながら目に入った敵全てを斬り裂いてショナイ平原の上空を進む。まさに悪鬼羅刹であった。

「偽物とはいえマリア・パステルナークの攻撃は尋常なものではありません。ヴォルクグラード正規軍のヴァルキリーが一方的に撃破されていきます」

 その様子は同じBFに展開しているタスクフォース609からも観測されていた。

「しかし、あれを倒さないと僕達の勝ちもない。僕とノエルでマリアを仕留める。他の部隊はここで待機を」

 南アフリカ共和国製のヌートリア戦闘服に身を包み、服と同じ茶色のブーニーハットを手にしたエーリヒは副官にそう言ってヘリやM18ヘルキャット駆逐戦車、M3ハーフトラック(注1)が即時待機状態にある野戦指揮所のテントから出て行こうとする。

「いけません」

 副官は彼の前に立ち塞がった。

「幾らテウルギストが一緒だからといって、タスクフォース609の指揮官が強力なヴァルキリーと直接戦うなど危険すぎます。少佐、どうかご再考を」

「何を言われても僕は行くよ」

「偽のマリア・パステルナークが強力なヴァルキリーであるとしても、いずれは数の暴力の前に消耗し押し切られてしまうでしょう。お気持ちはわかりますが、ここは静観してロシア人同士が共倒れするのを待つか、頃合いを見計らってヴォルクグラード正規軍の攻勢に乗じる機会を伺うのが得策かと」

 エーリヒは副官の発言が正鵠を得ていると認識せざるを得なかった。グレン&グレンダ社やシュネーヴァルト学園の上層部からは『可能ならばヴォルクグラード正規軍と協力してマリア・パステルナークを排除せよ』との命令を受けてもいる。

「わかってる。わかってるんだ」

 しかし初恋の無残な結末を今なお引き摺る情けない少年は我が物顔でショナイ平原を舞うマリア・パステルナークの姿を静観し続けることに耐えられなかった。

「僕が戻らなかったら、その時は空爆を要請して何もかも吹き飛ばして。全ての問題はそれで解決できるから」

「やれやれ……しょうがない人だ。わかりました。留守中の指揮は私にお任せ下さい」

 昨年の第二次ヴォルクグラード内戦でエーリヒから知己を得、今はヴォルクグラード人民学園からシュネーヴァルト学園に移籍してタスクフォース609に身を置いているロシア系プロトタイプの副官は苦笑しながら肩を竦める。

「ごめんね。僕の問題に巻き込んで」

「自分は少佐に拾って頂いた身です。その分の恩なり義理なりは果たしませんと」

「ありがとう」

 エーリヒと敬礼ではなく握手を交わしたあと、副官は親指を立てた。

「お礼は言葉ではなく現金でお願いします!」


 注1 前輪がタイヤ、後輪がキャタピラになっている軽装甲の半装軌車。

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