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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 JUST LIKE OLD TIMES 1944
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第二章1

 それはマリア・パステルナークが再びアルカに現れる三か月前の出来事だった。


 ポグロム。

 ロシア語で『破滅』や『破壊』を意味するユダヤ人への集団的迫害行為がいつ始まったのかは定かではない。しかし、一九四四年現在も続いていることは確かである。

「今じゃあ教会も何もかもみんな、ユダヤ人共の抵当になっているんだ!」

 半世紀前に落下した隕石の傷跡が生々しく周囲に残るソ連某所の小村で、猟銃や棍棒を手にした村民達がまるで勢子と羊のようにユダヤ人を追い立てていた。

「ユダヤ人に借金を返さないと礼拝式のミサ一つできやしない!」

 怒り狂う村民の集団は昨日までごく普通の隣人として過ごしてきたユダヤ人達をまだ肌寒く泥で覆われた村のあちこちにある家から次々に引き摺り出す。

「やめてくれ!」

「俺達は何もしていない!」

 地面の泥に尻餅をついたユダヤ人は何とかして住民達の怒りを鎮めようとした。しかし酷く腹を空かせ、その原因がユダヤ人にあると強く信じ込んでいる村民は口々に彼らを罵倒し、手にした棍棒を振り上げて激しい殴打を加える。

「さっさと行け! 守銭奴共!」

 村のとある場所では松明を掲げた村民達によってぞっとするような人の道が作られ、そこを泥で汚れたユダヤ人達が尻と背中を蹴り飛ばされながら進んでいる。人の道に居並んだ数名の老婆は惨めな恰好に成り果てたかつての隣人を「豚め! 豚め!」と口汚く罵り、手近な石を拾い上げて彼らに投げ付けていた。

「やめろ! 出してくれ! ここから出してくれ!」

 やがてユダヤ人達は人の道の先にあった汚い廃屋へと押し込まれる。これから自分達を待ち受ける運命を悟った彼らは恐怖の叫び声を共鳴させ、外側から数名の男達に押さえられた木の扉を強く叩いた。

「焼いちまえ!」

 村民達は内側から崩壊してしまうのではないかと思えるほどたくさんの人間が詰まった狭い空間にありったけのガソリンをぶちまけると、今度は怨嗟の声を放ちながら火炎瓶を廃屋に向けて投げ始めた。

「いいぞ! もっと燃えろ!」

 瓶が音を立てて割れるたびに炎が大きく広がり、それに伴って生きながら焼かれるユダヤ人達の悲鳴や絶叫もまた大きく強いものへと変わっていく。人肉と服が合わさって焼ける耐え難い悪臭が周囲に立ち込め、黒々とした煙が空に立ち上った。

 その時、メキメキと音を立てて小屋の一部が崩れた。中から火達磨になった数名のユダヤ人が叫びながら飛び出し、一名はすぐその場に倒れ込んでのた打ち回った後に絶命したものの、二名は声にならない響きを発しつつ加害者へ走り寄ろうとする。しかしそのユダヤ人は村の男達から猟銃で全身を撃たれ、焼け死ぬ前に息絶えた。

「なんであいつらが殺されるかわかるか?」

 猟銃を下ろし、ハンチング帽を被る父親が松明を手にした自分の息子に問う。

「わからないよ父さん」

 父親は優しく眼前の光景に困惑する息子の頭を撫でた。

「それはあいつらがユダヤ人だからだ」

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