第一章4
日本海――ブラッド・シーの海上をイラストリアス級装甲空母が悠然と進んでいる。
「国家の総意代行者であるプロトタイプやヴァルキリーが私利私欲のためにその技能を行使するとき、両者は国際社会の中で有する高い道徳的地位を喪失する」
本来ならば英国の代理勢力であるパブリック・スクール・オブ・ブリタニカに所属する装甲空母のエレベーターでリフトアップされていくヴァルキリーはロシア語で一人呟いた。
「我々の存在意義は生まれながらして有している義務の遂行とそれに対する誠実さ、そして国家を代表する義務において体現化される無私の奉仕という精神に由来するものだ」
何者かによって殺されたデッキクルー達が無造作に転がる甲板上にヴァルキリーが姿を現すと、真新しい作業服に着替えた若者らがヘブライ語訛りのある英語で彼女を誘導する。
「そして我々と世界との関係は、我々の卓抜した能力が製造者であるグレン&グレンダ社を通じてその管理下に置かれた国家の国益のために役立たせることができるという認識によってのみ保たれている」
甲板作業員が両手を広げる。主翼展張のサインだ。それに従って、マナ・ローブに身を包んだヴァルキリーは背部飛行ユニットの両翼を左右に展開した。
「しかし、それももうすぐ終わる。何故なら私は公金で維持されている軍隊での業務から得た独自の専門知識を自分のために使うからだ」
次に甲板作業員は両肘を立てて腕を後ろに何度も倒す。前進のサインだ。
「我々を社会の中で独特のものとしていた慣例や規則は、もはや我々を束縛することはできない!」
作業員が発艦許可を出すのと同時に背部飛行ユニットのノズルから青いマナ・エネルギーの粒子が噴射され、飛行甲板上を滑走したヴァルキリーは空へと飛び立った。