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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 JUST LIKE OLD TIMES 1944
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第一章2

 曇り空――そして粘り付くような小雨。その下ではドイツ連邦共和国とソビエト社会主義共和国連邦の国旗が表示された大型モニターが不気味な輝きを放っている。

「交戦規定は!」

 国家同士が代理戦争を行う極東の地アルカ。その戦場となるBFことバトルフィールドの空を数人の戦乙女が駆け抜けていく。

「撃って殺す。以上!」

 地球に落下した隕石内に含まれていたマナ・クリスタルという鉱石と、それに含有されるマナ・エネルギーとの親和性を有したプロトタイプ――ヴァルキリーという個体。

「下にファシスト鼠!」

「ダー! 攻撃! 攻撃!」

 その一人が対空砲火を掻い潜って急降下し、右肩に担いだM1バズーカの照準を眼下の敵に合わせてトリガーを引く。三百十度の角度で放たれた六十mmロケット弾は同じ米国製であるM16対空自走砲に白煙を残して吸い込まれ、爆発と同時にドイツ連邦共和国の代理勢力……シュネーヴァルト学園所属を示す末広がりのタッツェンクロイツが描かれた装甲板をバラバラになった乗員と共に四散させた。

「野良犬よ! 飢えて! 吠えて!」

 ソ連の代理勢力ことヴォルクグラード人民学園所属のとあるヴァルキリーは仲間が別の敵を攻撃し始めるなりM1バズーカを投げ捨て、自らはマナ・フィールドと呼ばれる障壁で地上から浴びせられる銃弾を防ぎつつ魔女の大釜を突き進んでいく。

「咬みついて! そして砂漠の風になれ!」

 彼女は南アフリカ共和国製の茶色いヌートリア戦闘服に身を包み、その上にチェストリグ(注1)を羽織ったシュネーヴァルト兵を両脚で押し倒す。

「この魔女野郎……!」

 続いて戦闘服と同じ色をしたブーニーハットを被っている倒れた兵士の頭部が踏み付けられた。分厚いヴァルキリーの軍用ブーツの靴底で兵士の眼窩から目玉が飛び出し、頭蓋骨の圧潰と共に脳漿と血が破裂する。

 また別の場所では超低空を飛行する二名のヴァルキリーが試供品としてシュネーヴァルト学園に納入され、つい数時間前に油でべとつく包みから取り出されたばかりのFAL自動小銃による射撃を回避しつつ敵兵に白燐手榴弾(注2)を投擲し、爆発と同時に燃え広がった炎の中で悲鳴を上げるプロトタイプの首をすれ違いざまに鉈で斬り落とした。

「今回の戦争、理由なんだっけ?」

「しっかり覚えておけ。今回の『回廊戦争』はダンチヒ回廊の返還を巡って我が祖国とファシストが戦っている」

 腰から伸びる支持架に取り付けられた背部飛行ユニットの両翼を翻してヴァルキリーらは旋回し、自分達に向けて迫ってくる熱い鉄の塊を物ともせず砲塔側面にこれまたタッツェンクロイツが描かれた米国製のM4A3E8シャーマン中戦車の背後へと回り込み、随伴歩兵からの弾雨を掻い潜りながらM1バズーカによる一撃を装甲の比較的薄い車体後部に叩き込んで撃破する。

「ジャガイモ小僧なのに使ってるのはヤンキー製ばっかり。つまんないの」

 今、かつて山形県と呼ばれていた永久戦争地帯の北西部にあるショナイ平原で彼女達と砲火を交えているのはドイツ連邦共和国の代理勢力だったが、彼らが使っている兵器は米国製のものが極めて多い。

「世の中の都合だ。あと黙って人の話を聞け」

 これはアルカにおいて勢力ごとに異なる部材や部品、装備、操縦系の規格、生産ラインを全校統一とすることで兵器の統合的な生産性や整備性の向上、部品の共有化を図り、また操作性のフォーマットを一元化させて兵士の教育課程の短縮をも目論んだグレン&グレンダ社主導のフリーダム・ファイター計画に起因するものだ。

「回廊を取り戻したいドイツと返したくない我が祖国。勝った方の要求が通る」

「ま、良くわかんないし興味もないけどこの分なら楽勝じゃん?」

「タイガーとかパンターも出てこないしねー」

 砲塔を空に舞い上げて爆発するM4A3E8シャーマン中戦車の閃光をバックにしたヴァルキリー達はまるで遊びにでも行くような気軽さで背部飛行ユニットのノズルから青いマナ・エネルギーの粒子を噴射し新たな敵を求めた。

「大体さー、どうしてダンチヒ回廊なんて欲しがるのかな?」

「持ってると幸せになれるからじゃない?」

「少しは真面目に戦争をやら」

 滞空しながら緊張感のない会話をする部下達を先輩格のヴァルキリーが窘めようとしたとき、彼女は突然横から連れ去られ、赤い粒子を纏って高速移動する謎の影に至近距離から撃たれて手足を失い空中で四散した。

「そんな茶番劇の舞台こそ」

 絶句するヴォルクグラード学園軍のヴァルキリー達の上方で赤いマナ・エネルギーの粒子を放出しながら滞空するヴァルキリーは四肢をもがれた彼らの先輩の胴体を投げ捨て、ハンドガードが取り外されて剥き出しになった銃身にグレネードランチャーを装着したFAL自動小銃のマガジンを外す。

「全力で踊るに相応しい!」

 新しいマガジンをFAL自動小銃に差し込み、本体左側のチャージングハンドルを引いた少女は下方にいる二人のヴァルキリーが銃撃を浴びせてくるよりも早く降下、分厚いマナ・フィールドを展開して弾丸を弾きながら急降下し、そのうち一人の頭を手にしたベルギー製小火器の一撃で撃ち抜く。脳漿と砕けた骨が飛び散って空を汚した。

「いけない! 一発で仕留めちゃった!」

 もう一人の戦乙女と同じ高度を取ったノエルは背部飛行ユニットの爆発的な推進力のせいで胸部に振り回されるようにして手足を追従させながら大きく右旋回し、円を描く中でFAL自動小銃を発砲し敵ヴァルキリーの右手、左手を連続して吹き飛ばす。千切れた腕の断面から迸る熱い血の飛沫が彼女の興奮を強くしていく。

「ローエングリン1‐1、皆殺しの雄叫びを上げ、戦いの犬を解き放つ!」

「ほざくな!」

「およよ」

 地上から砲火を浴びせていた生き残りのヴァルキリーが離陸するよりも早くマナ・ローブの上にチェストリグを羽織ったノエルは地に足を着ける。

「いよっ」

 そして先程まで自分に向けられていたPTRS1941対戦車ライフルを投げ捨てたヴァルキリーから右手で振り下ろされた縦方向の斬撃を後退して回避し、濃緑色のマナ・ローブの燕尾を振りつつ前方へ側転した。

「まわるぅ!」

 うっすらと腹筋の浮き出た腹部を回転の勢いで捲れたマナ・ローブの間から覗かせるノエルはヴァルキリーの背後へと着地するなり前進、黒いパットで覆われた右肘を相手の後頭部へ叩き込まんとする。

「我々は守るために戦っている!」

 だがその前に向き直ったヴァルキリーは上体を後ろに逸らしてノエルの肘撃を回避し、逆に力強く踏み込んでから右手に持った鉈の一閃を放つ。対するノエルは腰を落として両足で地面を蹴り、鮮やかな後方倒立回転飛びを敢行した。

「大切な『何か』を守るために!」

 ノエルが風を切る音を立てて着地するなり、すぐに突進してきたヴァルキリーの両足を薙ぎ払うかのような鉈の一撃が彼女を襲う。しかし刃が振るわれたときには既にノエルは再び飛び上がり、近くで黒煙を立てていたM4A3E8シャーマン中戦車の焦げた車体を蹴ってヴァルキリーの背後に降り立っていた。

「後ろか!?」

 大粒の脂汗を振り撒いてヴァルキリーが振り向く前にFAL自動小銃の七・六二mm弾が恐怖で顔を引き攣らせた彼女の皮膚を食い破り、胴体と右腕を切り離す。

「……ァ……ッ」

 間を置かずして左足にも銃弾が叩き込まれ、ヴァルキリーの左膝から下が異常な方向に曲がった。鮮血が弾けて地面を汚し、鉄臭い臭気が辺りに立ち込める。

「一人で戦おうとするな!」

 まだ無傷で生き残っている最後のヴァルキリーが血相を変えてドラムマガジンが付いたPPSh‐41短機関銃の連射を浴びせてきた。

「ゆーあーのっとあろーん?」

 たった今自分が右手と左足を吹き飛ばしたヴァルキリーの背中を蹴って九mm弾の射線上に押し出し死に至らしめたノエルはどす黒い赤があちこちに配色された地面を舐めるようにして滑走、左右に動きながら銃弾を回避して新たな獲物に向かう。

「よっ」

 艶やかな金髪の間に溜まった汗の滴を飛び散らせるノエルはその途中で一回転し、

「ほっ」

 瞬く間にヴァルキリーとの距離を詰めて左回し蹴りを浴びせる。

 大きく姿勢を崩したヴァルキリーが激昂しながらPPSh‐41短機関銃の掃射を浴びせてくる前にノエルは後方へとステップを踏んで距離を取り、銃弾に追われながら今度は擱座(注3)したヴォルクグラード学園軍のT‐34/85中戦車を踏み台に使って背面跳び、相手の真後ろに回り込んだ。

「君達は大切な『何か』のために戦うって言うけど」

 ノエルはヴァルキリーの両足を瞬時に撃ち抜き断裂させた。そして彼女はぶちりと音を立てて切れた十字靭帯から鮮血を噴き出して両膝をつくヴァルキリーの襟首を掴み、

「その『何か』が一体何を指すのか、ちゃんと筋道立てて私に話せるのかな?」

 全く体温を感じさせない真紅の瞳に見つめられ、それこそ蛇に睨まれた蛙宜しく凍り付く彼女の頬にこびり付いた血液を薄桃色の舌で愛おしげに舐め取った。


 注1 前掛け式の予備マガジン入れ。

 注2 煙幕としても使用可能な対人焼夷弾。

 注3 かくざ。戦車等が破壊されて動けない状態にあること。

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