プロローグ2
ここはエーリヒやマリアが通う平和な世界のどこかに建つ学園の一室である。
「皆さんおはようございます。今日は先生から皆さんに転校生を紹介します」
朝のホームルームで担任の女性教師がそう告げた瞬間、気怠さと退屈に支配されていた教室内がざわつきに包まれた。
「ノエルさん、どうぞ」
「はいさーい」
静かな音を立ててドアが開き、百八十センチを超える長身の少女が教室に入ってくる。
「綺麗だ」
生徒達の視線を一身に浴びながら優雅かつ軽やかな足運びで黒板の前に立った少女を見て、机に向かっていたエーリヒは思わず感嘆の声を漏らす。
「にしし」
自分の名前を黒板にチョークで記した少女は向き直るなり眼鏡の奥にある爬虫類じみた縦スリットの赤い瞳で教室内を一瞥すると、
「ノエル・フォルテンマイヤーです。よろしく!」
ポニーテールに纏めた金髪を振って生徒達に自己紹介した。途端、男子生徒達からは歓声が、女子生徒達からは心の込もらぬ事務的な拍手が送られた。
「席はエーリヒ君の隣が空いていますね」
「えっ」
女性教師に促されたノエルは彼女の言う通り、目を丸くしながら左右を見回す異性に対して奥手な少年の隣席へと腰を降ろす。
「よろしくね」
席に腰掛けるなりウィンクを送ってきたノエルに対し、学生服の左胸と右上腕部にそれぞれ末広がりの鉄十字と上から黒、赤、黄色が縦に並んだパッチを付けているエーリヒは「こ、こちらこそ……」と顔を赤らめて視線を窓外の青空に向けてしまう。
「なんだ。デレデレしおって」
それを横目で見ていたマリアは、口をへの字に曲げて目元を引き攣らせながらHBの鉛筆を指で圧し折った。




