勇者志望の私がいつの間にか地獄に堕ちていた件 2
一九五〇年九月十三日。
ダムの水面に垂直に突き立つ橋を見下ろせるルナ・マウンテンの中腹に服を脱がされた名もなき傭兵部隊の自殺死体が山積みにされていた。
「死体は全て焼け」
「了解」
顔をガスマスクで覆ったシャローム学園軍の若い兵士達は短いやり取りを交わした後、重なり合う死体にジェリ缶内の灯油を浴びせ、マッチで火を着ける。たちまち燃え始めた異臭源には下顎部から上が無残に吹き飛び、単に脱がすのが面倒臭いという単純な理由でウェディングドレスを着たままになっている右手のない戦乙女の亡骸も含まれていた。
「メカサブラM式改と転移装置は完全破壊してダムに投棄。クリスティーナ・ラスコワの脳も同様にね。SW社が介入する前に全て処理すること」
アルカ最大の民間軍事企業と常日頃共闘しているタスクフォース・ハヘブレの兵士達は指揮官代理であるレアの指示を受けて迅速に行動する。
「グリンゴールド中佐の遺体はテルミットで焼却。灰も残さないでね」
近くにいた兵士の肩を叩いてからその場を離れたレアは立ち並ぶテントの一つに向かう。
「もう慣れたわよ」
諦観の響きを漏らしてその入口を締め、明かりを点けたレアは奥を見やる。
「確かにサブラは消耗品よ」
肩口まで伸びた栗色の髪を持つ少女はゆっくりと明るさへ近付いていった。
「マナ・クリスタルが本体というのも正解」
もしもユライヤがサブラを殺してくれれば自分が今も心に燻らせている彼女への嫉妬や羨望を合理化して処理できると内心期待していたレアは苦々しげに呟く。
「でもね……そうじゃないのよ……」
レアはテント奥に置かれた水槽にも似ている装置に視線を移す。培養液の底部でマナ・クリスタルと歪に一体化した心臓が不気味に脈打っていた。
「そうじゃないの……」
これこそがサブラ・グリンゴールドと呼ばれるヴァルキリーの真の姿であり、彼女との出会いから今日に至るまで続く、決して終わらないレアの希望と絶望の象徴だった。