酸素泥棒〈ヒューマンダスト〉の異世界チート転生記 5
「殺さないでくれ!」
マザーシップの船内で両手を上げ降伏の意思を示した全身アルミホイル姿の男の頭部が散弾を叩き込まれて吹き飛び、骨混じりの湿った肉片が管制室の壁を汚す。
「私達は女性を拉致して強姦し子供を産ませただけです!」
首から上が綺麗になくなった仲間の死体が膝から床に倒れ込む瞬間を目の当たりにしたグレン&グレンダ社残党の最高指揮官はサブラ達と入れ違う形で船内に突如侵入してきた正体不明の武装集団に身の潔白を訴える。
だが返礼代わりに放たれた散弾が男の右手首を吹き飛ばし、続いて絶叫を上げて後ろを向いた銀一色の背中に多数のソ連製小銃弾が食い込んだ。
「嫌だ……死にたくない……私には……使命が……まだ……」
血の海中で瀕死の状態に成り果てた最高指揮官はサングラス奥の目尻に涙を溜め、歯を食い縛って這い蹲り逃げようとするが、AK47自動小銃を構えた雑多な恰好の兵士達の間から現れたウェディングドレス姿のヴァルキリーに体を持ち上げられた。
「アビー・カートライトは正しかったな」
ヴァルキリーは光のない目で未来人を見つつ若干彫りの深い顔に嘲笑を浮かべる。
「腹が立ったから壁を殴るのに腹が立った以上の理由は必要ない」
「君が……君がやっていることは……」
「あ?」
焦げ茶の髪を後ろで結うユライヤ・サンダーランドが気だるげな声を上げるのと同時に手首から先が失われた、彼女の包帯が巻かれている右手が微震した。
「君がやっていることは……テロと同じ……」
「そんな御大層なもんじゃねぇよ」
ユライヤは侮蔑の視線を自分と同じように右手首を失い筋肉が蠢くその断面から鮮血を迸らせて苦悶する二十一世紀の人間に向ける。
「俺がやろうとしてるのはテロなんて御大層なもんじゃねぇ」
爪がアルミホイルに食い込み、破れた喉から勢い良く血が溢れて二人の足元を汚す。
「俺がやろうとしてんのはなぁ……」
そんなことまで脳足りんに説明してやらなければならないのか、どこまで自分は弱者に優しくしてやらなければならないのかとでも言いたげな口調の戦乙女は手に力を込める。
「テロなんかより遥かに幼稚で」
彼女の言葉の一字一句には自分を含むこの世界そのものへの強い辟易が滲み出ていた。
「復讐なんかより遥かに下劣な」
そして低い音を立てて最高指揮官の口から鉄臭い液体が噴き出し、
「この世界に対する」
残された三本の手足から力が抜け、白目を剥いた頭が後方に垂れた。
「子供じみた悪足掻きだ」