酸素泥棒〈ヒューマンダスト〉の異世界チート転生記 4
「非常に不愉快だね」
前月に行われたヴェーザーシュタディオン戦争の非建設的な傷跡が残るアルカ南東部の学園都市タカハタベルク――その中に建つSW社の営業所内で、同社の最高責任者であるエーリヒ・シュヴァンクマイエルは報告書の文面を見て忌々しげに首を傾げた。
「シャローム学園の行動には何一つ筋が通っていない」
左目を眼帯で覆うボーイッシュな乙女然とした姿の少年を今不機嫌にさせているのは、彼と深い繋がりを持つ組織が自分への報告なしに行動を起こしたという事実だった。
「しかし、懲りずにまた出てきたグレン&グレンダ社残党の悪行は正当化できんでしょう」
長方形でこれといった特徴のないヨーロッパ風の巨大な建物内にある執務室にいるのは、紆余曲折と幾多の死闘及び度重なる愛憎劇を経てグレン&グレンダ社からアルカにおける国家間代理戦争の全てを任される立場を与えられたプロトタイプの王だけではなかった。
「奴らは自分達の子孫を増やすため、あちこちから数多くの女性プロトタイプを拉致してレイプ、無理矢理妊娠させて何ダースという子供を産ませています」
鼻筋に横傷を走らせる同社所属のヴァルキリー、ソノカ・リントベルクがジャージ姿でソファに横たわりながら傍らに置かれた写真を手に取って見る。
「マリア政権下のヴォルクグラードと良い勝負ですよ」
白黒の中には妊娠し腹部が大きく膨らんだ状態で鎖に繋がれた少女や、糞尿塗れで檻に閉じ込められている幼女の無残な姿があった。
「人間のやることじゃない……」
報告書を荒っぽく机に投げ捨てたエーリヒは大きく溜息を吐きながら椅子を回転させてソノカに体を向け、強い怒りを言葉の端々に滲ませる。
「僕だって立場がなければ今すぐこの手で一人残らず殺してやりたいぐらいだよ」
「そうですね」
ソノカはスーツに痩躯を包むかつての上官に同意の言葉こそ返したものの、必要以上に回りくどい方法を選んだ末に平然と人としての品性をあっさり捨て去るというアルカではごく一般的な事象とそれに付随する悲劇についてあまり関心を持ってはいなかった。
むしろ彼女の関心は、あの未来人達が一九四一年に送り込まれたのは果たして大いなるスパゲッティ・モンスターのご意思によるものなのかどうかという点だった。