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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 SABRA AGAINST MECHASABRA 1941
278/285

酸素泥棒〈ヒューマンダスト〉の異世界チート転生記 3

「軍曹、あれは一体何なんですか?」

「俺に聞くな。誰も知らなくていいんだ」

 ヘルメットにミツネフェットと呼ばれる独特の擬装用カバーを被せ、重装備に身を包むシャローム学園軍の若いプロトタイプ達は時折そんな会話を交えつつアルカ誕生以前には月山と呼称され、学園同士の戦闘により国家間の問題を解決する永久戦争地帯の水事情を現在一手に引き受けるルナ・マウンテンのダムの周囲に布陣していた。

「おやおや、フツパーとその保護者のお出ましだ」

 山肌沿いに作られた自動車専用道路に並ぶ、アルカにおけるイスラエルの代理勢力ではショットとも呼称されているセンチュリオン中戦車……その砲塔上面ハッチから上半身を出して双眼鏡を覗き込んでいた乗員はダムの水面に浮かぶ物体から少しずつ自分達の方へ近付いて来るジープに乗った二人組にレンズを向ける。

「皆さん、ご苦労様です」

 ヴァルキリー特有の強化された聴覚で戦車兵の自分に対する悪口を一字一句聞き逃さず、自分発の罵詈雑言は三分で忘れるにも関わらず人に言われるといつまでも根に持つ歯車は後で彼のブーツにレアに捕まえさせたムカデもしくはヘビを放り込むことを決意しながらダム脇に臨時司令室として設営されたテントに足を踏み入れた。

「中佐、十分前にこのようなメッセージが」

 中のモニターに映っていたリング付きゴムボールをスプレーで銀色に塗ったようにしか見えない外見の未確認飛行物体を見て顎に手を当てたサブラに将校が一枚の紙を手渡す。

「メッセージ?」

 いつもレアが洗濯している上着の右胸と左胸にそれぞれ空挺徽章とシャローム学園海軍特殊部隊シャイエテット13の徽章を付け、左肩部に赤いベレー帽を嵌めている戦乙女が受け取った再生紙を一緒にテントへと入ったレアも覗き込む。

『無用な争いは避けようではありませんか。責任者の方と話し合いたいと思います』

 それから七分十二秒後、二人は突如ルナ・マウンテンに現れた円盤の中を進んでいた。

「どうぞお進みください」

 灰色で半円状になっている通路の曲がり角から現れた全身にアルミホイルを巻き目元をサングラスで隠す男性の登場にレアは声を上げて驚き一瞬立ち止まるも、一方のサブラはさも当然のように「ありがとうございます」と返礼して彼の前を通過する。

「はじめまして」

 管制室に案内された二人を赤い腕章を付けたアルミホイル男が出迎えた。

「我が拠点であるマザーシップへようこそ」

 どうやらこの人物が最高指揮官のようだ。彼の両脇には先日ショナイ平原でシャローム学園軍に突然の攻撃を仕掛けてきたのと同じクローンヴァルキリーの姿がある。

「未来のアルカを担う方々にお会いできて嬉しく思います」

 レアはあんなこと――自分達にいきなり奇襲攻撃を仕掛けておいてよく言うわよと口に出しそうになったが寸前で堪えた。

「先日の一件については謝罪致します」

 だが彼女の怒りと不快感は本人の意思に反して露骨に表情に出てしまっていたらしく、黒いサングラス越しにそれを感じ取った最高指揮官は深々と頭を下げた。

「多数の犠牲者が出てしまったこと、何の申し開きも行うつもりはございません」

 しかし、と並び立つサブラとレアを順に見たアルミホイル男は付け加える。

「過去を変えるべく一九四二年にタイムスリップした我々の同志が理屈抜きでその時代の人々に殲滅されてしまったこともまた事実なのです。だから私達は圧倒的な科学力の差を見せ付け、我々と戦うことの愚かさを知って頂いた上で話し合いたかったのです」

「一九四二年? どういうこと?」

 何様のつもりだ――レアの胸中で押さえ込んでいた不快感と怒りが再び燃え始め、短い質問の中にも糾弾めいた響きが混じった。

「二〇一五年現在、グレン&グレンダ社は崩壊し、世界は国家による自治独立が行われるアポカリプス・ナウ以前の形に戻っています」

「容易に想像できる未来ですね。アルカにおける代理戦争は辛うじて国家間の問題ならば解決できるかもしれませんが、その狭い枠組に囚われるとは限らない民族同士や宗教間の衝突には一切対応することができません。私如きにも理解できる話です」

 元々の質問者が理解不能な文字列の並びを聞かされて口を半開きにする一方、サブラは良く言えば客観的に、悪く言えば他人事のような口調で最高指揮官に返す。

「だからこそ私達は混沌を極める二〇一五年の八月十四日から一九四一年と一九四二年に未来を変えるべくそれぞれタイムスリップしたのです」

 グレン&グレンダ社残党の最高指揮官は穏やかな口調で続けた。

「一九四一年に向かった私達は地道な啓蒙活動を行いました。ですが急進派は遅々として状況が変わらないことに苛立ち、独断で一九四二年のこの時代へとやって来ました」

 噂レベルではあるが、レアも八年前にグレン&グレンダ社の残党が未来から現れ、当時ヴォルクグラード人民学園内で絶大な権力を誇っていたマリア・パステルナークの一派に完全殲滅されたという話は聞いたことがある。だが自分の周囲で起きていることを冷静に分析すると、どうやらそれは本当だったらしいことを彼女は自覚せざるを得なかった。

「では、皆さんは何故今になって表立っての行動を開始したのですか?」

 最高位の情報閲覧権限を有し、八年前に発生した事案の全容を知っている可能性もあるサブラは相変わらず涼しげな響きを唇の間から発する。

「その理由は……」

 直後に最高指揮官が発した言葉は、レアにグレン&グレンダ社の残党勢力が今後一切の相互理解が不可能な殲滅すべき集団であると再確認させるのに相応しいものだった。

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