酸素泥棒〈ヒューマンダスト〉の異世界チート転生記 2
一九五〇年九月十一日。
陽の光に照らされるアルカ西部ツルオカスタン・カモ自治区の一角に毎朝恒例となったレア・アンシェルの大声とフライパンを金槌で連打する音が響き渡った。
「誰かと思ったらレアさんですか……相変わらずやかましい人ですね」
学生寮や図書館等が並ぶシャローム学園生徒達のキブツと呼ばれる生活共同体地区内に建つ同校学生寮の一室でこれまた毎朝恒例のやりとりが始まる。
「やかましいとは何よ! いい歳こいたアンタを毎日起こしてやってんのに!」
肩口まで伸びる栗色の髪を持つシャローム学園の予備役ヴァルキリーは、切れ長の目の周囲を引き攣らせつつフライパンの先を機密保持の観点からタスクフォース・ハヘブレを指揮する同校の最強戦力と姉妹同然の関係にあることになっているS中佐に向ける。
「さっさと起きろっつーの!」
にも関わらず、本人同様の美貌を持つ少女が眼鏡も掛けずにまたシーツに包まり始める様子を見たオリーブドラブ一色の軍服に身を包むレアは汗臭い生地を強引に剥ぎ取った。
「――ッ」
そして何故かパジャマに下半身裸という衝撃的な姿でベッド上をのたうち回る同居人を見て顔を真っ赤にしたレアは、このサブラ・グリンゴールドがああああ、と怒声を上げて彼女の頭を綺麗に手入れされているフライパンで思い切り殴り付けた。