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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 SABRA AGAINST MECHASABRA 1941
276/285

酸素泥棒〈ヒューマンダスト〉の異世界チート転生記 1

 一九五〇年九月十日。

 被弾して操縦不能に陥ったシャローム学園空軍のA‐1スカイレーダーが青空に黒煙を残しながら激戦続くショナイ平原の大地に激突し、大爆発と同時にアルカ北西部に広がる古戦場にダビデの星が描かれた迷彩色の主翼を突き刺した。

「生きるのよ!」

 米国製高性能戦闘爆撃機の墜落地点以外にもあちこちから油臭い炎を立ち昇らせているBFの中を一人の傷付いたヴァルキリーが自分と同じように濃緑色のマナ・ローブに身を包み、自分以上の深手で虫の息となっている戦友を背負って進む。

「明日また生きる!」

 額から滴る鮮血を顎先から落としつつ、心身双方の疲労のせいで鉛のように重い両足を炎上するセンチュリオン中戦車やM3ハーフトラックの残骸横で必死で前へ前へと動かす少女はだらりと頭と手を垂らす虫の息の戦乙女を叱咤する。叫びが鼓膜を打つ度に背中におぶさる仲間の意識は死と生の境界線からこちら側の世界へと引き寄せられた。

「生き残ること――それが、最大の復讐に……!」

 重なり合う不快な嘲笑を耳にして肩越しに振り向いたヴァルキリーは国家間代理戦争を行うためBFに展開中の自分達に突然の奇襲を仕掛け、甚大な損害を与えたメイド然かつカラフルな軍服を纏う冗談めいた姿の少女達が我が物顔で空を進む姿を見やる。

「復讐なんて何も生まないよ!」

 ピンクの髪を持つクローンヴァルキリーは溜め池で溺れる子犬同然の敵を見て微笑み、ごく一般的なものに比べて二回り程小さいサイズと両翼を持つ背部飛行ユニットから青いマナ・エネルギー粒子による光跡を輝かせて急降下した。

「憎しみだけの人生なんて間違ってるよ!」

 知ったような口調で言い放ちながら突出したクローンヴァルキリーにRPK軽機関銃の錆一つない銃口を向けられたイスラエルの尖兵は死を決意する。

「残念ですが数の優位を揃えたとしても、圧倒的な質の差を覆すことはできません」

 だが七・六二ミリ弾が閃光と共に撃ち出される前に、やや後方で編隊を組む仲間と全く同じ顔をした量産型戦乙女が直上からの一撃で地面に叩き付けられた。固い軍用ブーツで覆われた右足と真鍮製の空薬莢が散らばる土の間に挟まれた顔面が砕けて頭蓋骨の破片と脳漿が四方八方に飛び散り、両眼窩から目玉が勢い良く飛び出す。

「一度部下を死なせた指揮官はその後もずっと死者と共に戦い続けます」

 傷付いたヴァルキリーと彼女の戦友は誰に向けられているか定かではない涼しげな声を耳にして共に赤い血と黒い煤で薄汚れた顔を上げた。

「つまり死者の魂が一生纏わり付いてくるということです」

 百七十センチ以上の長身の腰から伸びる背部飛行ユニットの支持架と背中のスペースに黒い髪を靡かせ、袖と裾を短く切り詰めたタイガーストライプパターンの迷彩服の間から彫刻のように見事かつ発達した腹筋を覗かせている新たな戦乙女は紫色の双眸から伸びるレンズ越しの冷たい視線を数で勝る空の敵へ向けた。

「ですが死の王でもあるこの私は何千何万という死者の霊魂に纏わり付かれていながらもご覧のように高い冷静さを保っています」

 背部飛行ユニットから左右に大きく広がる前進翼――敵味方識別用の黄色い三角形と、シャローム学園軍所属を示す六芒星が描かれている――に帯びた粒子の輝きが青から赤へ変わり、瞬きの直後に濁りなき瞳の色も準じる。

「それは私が」

 どこか他人事じみた響きさえも声に含ませる少女は左足を前に出し、先程殺害した敵を蹴り飛ばしつつ右足を下げ、最後に左手を自分に向け迫るクローンヴァルキリー達に翳す。

「イスラエルという」

 特殊部隊用に改造が実施されたPKM軽機関銃は右手に携えられていたが、その先端は血がたっぷりと染み込んだ土に向けられているだけだった。

「道徳的にも社会的にも正当化されたユダヤ人国家の歯車だからです」

 ヴァルキリーのみが展開を可能とするマナ・フィールドを砲身状に変形させたサブラはその中心部から爆発的な破壊力を持つ熱線を放つ。

 スパイラルビームと敵対勢力が呼称する閃光の潮流に巻き込まれた華奢な肢体が次々に超高温によって泡立ち、最初に急膨張した眼球が、続いて全身の筋肉が弾け飛び、最後に残った骨がいとも簡単に木っ端微塵となった。

「凄い……」

 一瞬にしてショナイ平原に展開する難敵を殲滅した援軍の後ろ姿を見たヴァルキリーの戦友が弱々しくではあるが感嘆の声を漏らす。

「バズ2‐1、目標の除去に成功。これより帰投します」

 表情一つ変えず、負傷した自分達を一瞥もせず粒子の色を青に戻して飛び去る戦乙女の名前を重い足取りで再び歩き始めたヴァルキリーは知っていた。

「あれがサブラ・グリンゴールド……!」

 一つは自分達と同じ学園に所属する、最も頼りになる味方として。

 もう一つは、自分は絶対に辿り着けないヒエラルキーの最上位に立つ嫉妬の対象として。

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