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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 サブラクロニクルズ3
270/285

アルカ麻薬戦争 4

「お前さん、どうしてこんな地獄に?」

 BFのように明確な戦域とそれ以外の境界線が存在しないティエラ・ブランカ南東部のスラムを進む兵員輸送トラックの荷台でゾンダーコマンド・アルカに配属されたばかりの黒川忍は全身から濃い汗の臭いを漂わせる右隣席の兵士から突然そう問われた。

「彩音は……私の妹はカルテルの連中がばら撒いた麻薬で人生を滅茶苦茶にされたんだ」

 薄茶色のショートカット、夏用制服の上にチェストリグを羽織っている和州学園出身のヴァルキリーは強い口調で同じ遺伝子配列を持つ者がティエラ・ブランカにおける自身の行動理由に深く関わっていることを口にする。

「そりゃあご立派」

 忍の反対側で不衛生な注射針を何十回と刺した黒い跡を迷彩服の半袖から覗かせている男性プロトタイプが下衆な笑みを浮かべながら黄ばんだ歯を覗かせて笑った。

「……ッ」

 忍は不快感を覚えて視線を逸らす。だが映ったのは広場に転がる大量の生首だった。

「……ッ」

 忍は不快感を覚えて視線を逸らす。だが映ったのは街路樹に吊るされた死体だった。

「我々は正義を貫き、悪に立ち向かっている」

 素晴らしい人々と肩を並べて悪との戦いに身を投じる理想が幻想でしかなかったことを到着してから一時間足らずで教えられた忍が溜め息を吐いて軍用ブーツの爪先を見た時、突然左隣席の兵士がグレン&グレンダ社のラジオ放送の物真似を始めた。

「アルカは変われるか、と貴方は問うだろう。答えはイエスだ――状況は必ず好転する」

 更に別の兵士が真似すると、錆びて汚れたボロボロのフェンスに寄り掛かっている足が奇妙に曲がった死体の横を通過したトラックの荷台上は下品な笑い声で一杯になった。

「新入りさんよ、俺達の敵を知ってるか?」

 やがて友軍車両の渋滞に巻き込まれた中古トラックが軋んだ怪音を立てて停車すると、すっかり辟易した表情を浮かべる忍の左斜前の兵士が死んだような顔で濁り赤をモップで側溝に追いやる歩道上の仲間の姿を荷台から見ながら醒めた様子で話し始めた。

 武器横流しで小銭を稼いだことが原因で深淵に身を投じる羽目になった兵士は語る。

 最初にゼータが出現した際、自分達はその構成員を捕え、ぼさぼさ頭に口髭という姿でメディアの前に突き出して我々が上位者なのだと誇示した。だがその数時間後、ゼータは捕えたゾンダーコマンド隊員の斬首した頭部を横一列に並べ、その後ろで新型自動小銃や防弾ジャケットを装備し、鋭い眼差しに背筋を伸ばした男達の映像を公開したと。

「まだまだあるぜ」

 ムルロア・カルテルは手練のヒットマンを雇ってゼータの中核メンバー暗殺を謀ったが、翌日早朝には背中にZと傷が付けられた惨殺死体がアジトの前に置かれ、汚い走り書きの『豚共をもっと送ってこい。全部殺してやる』というメモがその口に突っ込まれていたと。「だとしても……」

 暗澹たる心境になりながらも忍は一縷の希望を抱いて頭を上げた。

「だとしても、この部隊にいる者は皆、正義のために馳せ参じたのだろう?」

 兵士達は一様に「何言ってんだ?」と失笑して彼女にこう返した。

「そんなもん、恩赦と金目当てに決まってるだろ」

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