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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 サブラクロニクルズ3
269/285

アルカ麻薬戦争 3

 殺人の九十%が実態さえ明らかにならないまま歴史の闇に消えていく地の北西部一体を支配するゼータの中核メンバーが住む邸宅は薄汚いスラム街を見下ろす高台の上にあった。

「すぐに行きます」

 ガレージにイタリア製の高級なスポーツカーが何台も並ぶ白い豪邸の裏にあるプールに浮かんでいたサブラは来客を知らせた部下に淡々とした口調で応じ、黒と紫の競泳水着に包まれている引き締まった肢体から水滴を散らせて更衣室に足を運んだ。

「前世紀末――巨大隕石の落下と、それがきっかけとなって始まり、十五年に渡り続いた世界規模の戦争が人類に歴史上類を見ない未曾有の被害をもたらしました」

 七分十二秒後、善悪の境界が極めて曖昧な世界で生き続けてきた戦乙女は執務室へ足を踏み入れるなり先客として彼女を待ち侘びていたソファに寝転ぶノエルに視線を向ける。

「混乱はグレン&グレンダ社によって収められ、事実上の世界の支配者となった同社は、今後一切人類同士が争わずに済む世界を作ろうと考えました」

 水色とグレーのジャージに着替えを済ませているサブラはそのまま自分の机に近付き、何の重みも感じさせない声を響かせながら椅子に腰掛けて足を組んだ。

「それが戦闘用の人造人間であるプロトタイプを世界各国の代理勢力たる学園に所属させ、アルカという永久戦争地帯でそれぞれの母国の代わりに戦わせるシステムなのです」

 必要があれば敵対する麻薬カルテル構成員の耳鼻を表情一つ変えずに刃で削ぎ落とす、現在ゼータの中核メンバーとなっているシャローム学園特殊部隊員三十八人を最強最悪の殺人部隊として率い数日でアルカ麻薬戦争のヒエラルキーを駆け上った彼女は続ける。

「今や民族対立や資源の利権争いといった国家間の問題は何の例外もなくアルカにおける代理戦争で全て処理され、全ての戦いは人類にとって永遠に過去のものとなったのです」

「頼んでもいないのに長々と説明してくれてありがと。ますます君が嫌いになったよ」

 何千回何万回とアルカで流れ、何千回何万回と皆に聞き流されたグレン&グレンダ社のラジオ宣伝放送を編集して口走ったサブラに対し、今はマナ・ローブではなく歯車と同じゼータ指定のジャージを着た少女は欠伸をしつつ冷ややかな声を返す。

「感情を持たない歯車である私は貴方に嫌われたところで何一つ困りません」

「私だって君と仲良くするつもりないよ。エリーに彼女と仲良くしてって言われなきゃね」

 アルカに君臨するプロトタイプの王となって以来、ようやく訪れた平穏の中でこれまで散々自分が引き起こしてきた人間関係の崩壊や確執をこれ以上は見たくないと頭を下げたシャローム学園と深い繋がりを有する民間軍事企業のリーダーに対する恋愛感情に免じて初対面の瞬間から言動の全てが気に入らなかったサブラと和解するためゼータに出向し、ヘブライ語を公用語とする者達と共にアルカ麻薬戦争の最前線で日々を送っている少女はソファから離れて壁に背を預けた。

「私達の件はレアさんやバタフライ・キャット女史を交えた場で話した方が良いとして、まずは確実にゼータを取り巻く状況を理解していないであろう貴方への説明を続けます。幾多の失敗で名前に幾つも傷を付けてしまったグレン&グレンダ社は昨年、手っ取り早い失地回復として麻薬戦争に手を出してしまいました」

 サブラは立ち上がって手榴弾避けの新しい鉄格子が嵌められた窓外に視線を向ける。

「本当に他人の神経を逆撫でするのが得意だよね、君は。まぁいいや……アルカにおける麻薬取引は賄賂で黙認されて上手く回っていたのに、グレン&グレンダ社がそれを自分で壊して問題をとんでもなく複雑にしちゃったのは知ってるよ」

 半ばアルバイト感覚とはいえ敵対カルテルの構成員の肉体がズタズタになるまで弾丸を叩き込み、更に撮影用に死体を札束で飾り立てた過去を持つノエルはサブラに頷きを返す。

「同社介入以前のティエラ・ブランカでは末端同士の衝突こそあれ、どちらかが滅亡するレベルの戦争は行わないという不文律が存在しカルテルは各校に麻薬を密輸していました」

「でもグレン&グレンダ社が麻薬戦争の始まりを宣言して此処に攻め入ると微妙な均衡で保たれていた勢力間のパワーバランスは滅ッ茶苦茶になり、混乱に乗じてウチもウチもと覇権を握ろうとしたカルテル同士が流血デスマッチを始めてエリーとキャロラインが頭を抱える魔女の大釜が完成したのも把握済みだよ」

「悲劇的な事実ですが、現在のグレン&グレンダ社は麻薬カルテルを支配下に置く戦力も交渉によって癒着し合う環境を再び作る術も有してはいません。古い体制は確かに腐敗し権威主義的でした。しかし、そこには図に乗り過ぎたプロトタイプを逮捕し、その他には税金を掛けて組織犯罪をコントロールするという絶対確実なやり方がありました」

 X生徒会の恐るべき陰謀を遂行する屑は眼鏡を直し、FAL自動小銃を手にした衛兵が守る門の前で死体を貪る野犬を見つめながら冷酷な口調でこう締め括った。

「シャローム学園への麻薬流入を防ぐ最良の方法が、麻薬カルテルを全滅させ、我が校が制御できる新組織だけでティエラ・ブランカを支配する方法のみであるように」

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