アルカ麻薬戦争 2
「それでは三分で私達の活動をご紹介しますね」
アルカ麻薬戦争を戦っているのはゼータ等の麻薬カルテルだけではない。ある意味で、最も恐ろしい存在なのは皮肉なことに公権力の側に立つゾンダーコマンド・アルカだった。
「私達、弱者の味方さんチームは麻薬を撲滅するために戦っています」
隕石落下後の世界を事実上支配し、落下前には山形県と呼称されていた永久戦争地帯の管理者でもあるグレン&グレンダ社が暴力装置として運用している特別行動部隊の隊長はスラム街の中の広場に設置された黒板前で説明を続ける。
「同時に私達は弱い立場の人達を救済する使命を持っています」
黒いパンツァージャケットに身を包み、同色の制帽を被る日本製の女性プロトタイプは自分の前にある程度の距離を置いて横一列に並ばされた者達――BFでの戦いで失われた手足や目に包帯を巻いた、行き場所を失ってティエラ・ブランカに逃げ込んできた薄汚い同類の前で華奢な両手を広げた。
「居眠りしたら……半袖……」
髭が伸びっ放しになり、両目尻に垢を溜めているホームレス同然の者達のすぐ後ろには隊長と全く同じ恰好をした同じ日本製プロトタイプの部下らが鉈をいつでも振り下ろせる状態で携えている。全員が隊長を神のように崇める狂信者達だった。
「ちゃんと隊長殿の話を聴くであります」
更に彼女達の背後では特殊カーボン装甲仕様に特別改造されたティーガー重戦車数台が停車し、中の乗員が同軸機銃の狙いを抵抗の術を持たない社会落伍集団に定めていた。
「以上です」
それらしい美辞麗句を事務的に纏めた説明を終えた隊長は僅かな小銭が入った空き缶を揺らして物乞いをするしか母校では生きる道がなかった敗残兵達の前で一礼する。
「ところで皆さん、お腹が空いていますよね?」
手を合わせた隊長が栗色の髪を揺らすと見計らったかのように一台のダンプカーが現れ、彼女と行き場のない物達の中間で停まり錆びた荷台をぎこちない動作で傾けた。
「私達は弱者の皆さんにもお腹一杯になってもらいたいんです」
他校で誰も口にしないまま廃棄された大量の缶詰が人骨散らばる地面に流れ落とされる。
「さあ! 召し上がってください!」
すぐに破れた外装から腐敗した中身を露出させている糧食からの凄まじい臭気が周囲に立ち込め、人糞や廃液のそれを嗅ぎ慣れた転落者達でも耐え切れず相次いで嘔吐し始めた。
「こんな格言をご存知ですか?」
さも当然のようにガスマスクを被った隊長は、逃走を図るも転んだ右足のない元兵士が立ち上がることも許されずに鉈で滅多打ちにされる光景を見ても何も感じなかった。
「弱者に対する善意は絶対的な正義である」
弱者の味方さんチームを率い、グレン&グレンダ社が本来抱いていた理想を最悪の形で曲解し独善を押し付けてきた無自覚の悪意はさも当然のように語り、改めて腐った缶詰を食べるよう爪弾き者共に表裏が存在しない明るい口調で告げた。
「そまりあ作戦です!」