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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 INTO THE COLDEST WINTER 1942
263/285

マリアをやっつけろ 4

 目に光が戻ったマリアの全身から青い光が洩れ、火花と共にアブラスが弾き飛ばされる。

「有り得ません」

 一旦距離を取ったアブラスは絞り尽くされたはずのマナ・エネルギーを全身から放出し衝撃波で周囲の地面を引き剥がして四散させるマリアの姿に驚愕する。

「国家の総意代行者である我々が私利私欲のためにその技能を行使すれば」

 神を金属バットで撲殺し定められた未来図を強引に捻じ曲げた第一世代ヴァルキリーは一歩一歩ゆっくりと驚愕に目を見開いたアブラスに迫っていく。

「我々は国際社会の中で有する高い道徳的地位を喪失する」

 マリアの腹部とアブラスの手から放たれた光の潮流が激突する。

「――ッ!」

 今回撃ち負けたのは後者だった。

「――ッ!」

 稲妻に似た光線を呑み込んだ虹色の粒子ビームはそのままサブラ・グリンゴールドなるヴァルキリーと同じ外見をした戦乙女の右手を木っ端微塵に粉砕する。

「我々の存在意義は生まれながらして有している義務の遂行とそれに対する誠実さ」

 マリアは自分と全く同じように衝撃で地面に倒れ込んだ際に自分とは違い折れた鼻から大量出血し顔の下半分を赤黒く汚したアブラスに冷淡な視線を向けた。

「国家を代表する義務において体現化される無私の奉仕という精神に由来するものだ」

 生まれたその日から失敗作と呼ばれ続けた戦乙女は実弟という聖域を土足で踏み躙ったアブラスの顔面を思い切り蹴り上げて眼鏡を叩き割り、彼女が飛び散ったレンズの破片で切り裂かれた顔面を両手で押さえた瞬間を見逃さず背部飛行ユニットに手を伸ばした。

「我々と世界との関係は」

 エグゾスケルトンで強化された尋常ならざる腕力によって易々と左の前進翼が嫌な音を立ててうつぶせになったヴァルキリーから引き千切られていく。

「我々の卓抜した戦闘力が、製造者であるグレン&グレンダ社を通じて、同社の管理下に置かれた国家の国益のために役立たせることができるという認識によってのみ」

 マリアは止まらず、左翼を投げ捨てると今度はアブラスの右翼をもぎ取って圧し折る。

「保たれている!」

 マリアは硬い靴底で敵ヴァルキリーの喉を踏み付ける。喉頭隆起が音を立てて陥没し、最早金色など全身のどこにも残っていない戦乙女の口元で鮮血が弾けた。

「しかし、それももうすぐ終わる。何故なら私は公金で維持されている軍隊での業務から得た独自の専門知識を自分のためだけに使うからだ!」

 アブラスは残った左手で喉を抑えてのたうち回るがユーリの姉の追撃は止まらず、またうつ伏せになるや否や今度は後頭部に踵がめり込んだ。

「乗っ取った人民生徒会を恐怖の象徴に作り変えたように!」

 三連ハイパー・ランチャーが轢死体のような有様になりながらも這って逃げようとするアブラスの爪先、背中、後頭部を順に撫でた。絶叫と共に彼女の全身が燃え始める。

「あらゆる手段を使って自分達だけが人民生徒会を打倒できると見せ掛けたように!」

 マリアは炎に包まれたアブラスの無防備な背中目掛けて更なる連撃を放った。

「ディミトリ・カローニンという私に倒されるためだけの巨悪をでっち上げたように!」

 地面ごと抉られた脇腹から土と肋骨の一部及び臓物が宙に舞い上げられる。

「弟を守るため、神さえも殺してヴォルクグラード人民学園を我が物とするように!」

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 グレン&グレンダ社残党の歯車が悲鳴と共に虹色のエネルギー流に包まれた。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 眩い閃光の中で眼球が砕け散り、次に焦げた肉が剥ぎ取られて頭蓋骨が露になった。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 そして現在世界を支配する巨大多国籍企業の残党が残酷な未来を変えるべく作り出したアブラス――スーパースペシャルスペースサブラハイグレードタイプ2――は剥き出しの骨格から全ての肉が失われるのと同時に爆散、跡形もなく歴史上から消滅した。

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