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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 INTO THE COLDEST WINTER 1942
262/285

マリアをやっつけろ 3

「どうも神です」

 マリアの眼前に座る男はそう自己紹介した。

「こ、ここは……」

 マリアは困惑の表情で周囲を見回す。彼女がいる場所はルナ・マウンテンの戦場から、掃除など有史以来一度もされたことがなさそうに見える汚い部屋に変わっていた。

「どこだ……?」

 部屋はぞっとする程に汚く、あちこちに本棚に入り切らない量の薄い書籍――例外なく粘性を持った白い液体で顔や胸元を汚された美少女が描かれている――が山積みにされ、その間には脂ぎったスナック菓子の欠片と栗の花臭い丸まったティッシュが散乱している。

「お前は誰だ!?」

「俺を知らない?」

 マリアがアブラスに噛まれた傷が消えている喉元に触れながら問うと、一目で運動とは無縁の生活を送ってきたことが容易に伺える肥満体が裏返った声を発した。

「知らない? マジで? 界隈の超大物である俺を?」

 汗ばんだ白いタンクトップとトランクス姿の臭い男は性格の悪さと自己顕示欲の強さが如実に現れた非常に嫌味ったらしい口調で自分を指差す。

「俺は名無しの東北県人。この世界を司る全知全能の神だ」

 コミュニケーション能力に著しい欠陥を持つ者特有の会話になっていない一方的な話を手垢で汚れた眼鏡のレンズを荒い鼻息で曇らせる自称神が始める。

「俺はこのパソコンでお前が死ぬシーンを書こうとしていた」

 男は背後の机上に置かれた機械をマリアに紹介した。

「そして今日の作業に一区切りを付けたらうるりひ先生のエロ同人で抜く予定だった」

 続いて弛んだ下顎をだらしない無精髭で覆った男は市役所からの催促状や書類が乱雑に押し込まれている机内から『SUKEBE Files VOL・1』というタイトルの薄い書籍を取り出し、その扇情的な表紙を何の躊躇いもなくマリアに見せ付ける。

「うるりひ先生の尊い同人誌は人類の宝だ。世界平和のヒントはここに詰まっている」

 立ち上がった男はまるで室内にカメラがあるかのように天井の一角を指差す。

「八月十四日に東京ビッグサイトの東館でこの本を買って読んでる人達、うるりひ先生はコミックマーケット88にも参加されているぞ。スペースは三日目のH58b!」

 一方でマリアの視線はパソコンと紹介された機械に釘付けになっていた。

「おい」

「はい?」

 M11型マナ・ローブ姿で汚い部屋に正座しているヴォルクグラード学園軍大佐はふと我に返って振り向いた男の前でタイプライターの進化系を指差す。

「あれを使えば未来を変えられるのか?」

「勿論。どんな世界だって思いのままさ!」

「そうか。では死ね」

「は?」

 直後マリアが振り上げた金属バットが神の脳天にめり込む。裂けた皮膚の間から鮮血が飛び散って入浴中の美少女達が描かれたポスターを汚した。

「な、なんなんだよお前!」

 男は頭を抑えて埃っぽい絨毯の上をのたうち回る。

「神をいきなり金属バットで殴る奴がいるかよ!」

「ここに一人いる」

 ユーリを守るためにはこの男を殴り殺し、あのパソコンとかいう機械を操作して未来を変えるしかないと確信したマリアは悶絶する男に何度も何度も金属バットを振り下ろす。

「や、やめろーッ!」

 贅肉が叩かれる鈍い音が部屋に響き渡る度に神の声は小さくなり、

「お、俺は神だぞーッ!」

 逆に傷口から溢れる脳漿や血の量は加速度的に増加していった。

「神もこんなものか」

 それから七分十二秒後、マリアは延々と殴打され続けてグロテスクな肉塊に成り果てた神を足蹴にして椅子に腰掛け、手探りで黄ばんだパソコンのキーボードを操作し始めた。

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