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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 INTO THE COLDEST WINTER 1942
260/285

マリアをやっつけろ 1

 一九四二年六月七日。

 重い金属音と同時にサンキョ・デポ――旧名を酒田市という港町サカタグラードにあるヴォルクグラード人民学園の物資集積所――に連なる倉庫の一つに光が差し込んだ。

「よくも……」

 倉庫内壁と縄で縛り合わされ、腰砕けのまま上体を起こしっ放しにさせられている赤のクローンヴァルキリーは眩しい陽光を背にして現れたヴォルクグラード学園軍大佐を睨む。

「よくも私を騙し……」

 彼女が言い終える前に今朝ユーリの絞殺死体を引き渡すからという名目で合流地点まで呼び出され、青の個体と共にあっけなく捕虜になった量産型戦乙女の顔面が軍用ブーツで包まれたマリアの右爪先で蹴り上げられる。

「どれだけ技術が進歩しても道具が高性能化しても、駄目な奴は本当に駄目だな」

 エレナを伴っているマリアは膝を折り、たった今口から血と砕けた歯を床にぶちまけたクローンヴァルキリーの襟首を掴んで乱暴に顔をこちら側へ向けた。

「未来人共のマザーシップがどこにいるか教えろ」

「知るか……ッ!」

 顔に唾を吐かれたマリアは首を曲げてすぐ後ろの少女に目配せする。

「了解」

 忌々しげに右手の甲で左頬を拭う上官に頷きを返したエレナは全身を泥と糞尿で汚したクローンヴァルキリーの右手側ロープを特大長鋏で切り、次に彼女に背を向けて左脇腹にその左手を通し関節技を仕掛けるかの如く強く締めた。

「ちょっ……やめっ……」

 これから何が起きるのかを察した量産型戦乙女の指に予想通り鋏が食い込んだ。

「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて!」

 白い皮膚が裂けて鮮血が溢れ出し、可憐な少女な顔がみるみるうちに苦痛で歪んでいく。

「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて!」

 クローンヴァルキリーは必死でもがくがエレナの拘束は解けず、

「ひぎぃ!」

 やがて上と下から肉と骨を挟んだ刃は少女の人差し指を手から切り離した。

「もう一度訊く。マザーシップはどこにいる?」

 マリアは青い双眸とプラチナブロンドの長髪を持つ自分の部下に解放されるなり激しく嘔吐し始めたクローンヴァルキリーに侮蔑の視線を送りながら再度問う。

「知らない……ッ!」

 しかし抑えた左手から鉄臭い液体を垂れ流す少女は目尻に涙を浮かべて首を横に振った。

「連れて来い!」

 怒りを露にするマリアは足元を踏み抜かんばかりの勢いで倉庫外に出た。その後ろから離せ、離せと叫び散らすクローンヴァルキリーの後ろ襟を掴んで引き摺るエレナが続く。

「こうなるんだ!」

 少し歩いてから立ち止まったマリアはサンキョ・デポ一角のとある場所を指差した。

「私にマザーシップの居場所を教えないと、こうなるんだ!」

 エレナはたった今無数の金属片が鋭い先端を覗かせている地面に突き飛ばしたばかりのクローンヴァルキリーを羽交い絞めにして無理矢理マリアの指先を見せた。

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 未来の技術で生産されたヴァルキリーは左手の激痛を忘れて大きな悲鳴を上げる。

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 自分と共に捕えられた青のクローンヴァルキリーの手足や胴体部、頭部が切り離された状態でビニールシートの上に置かれ、池を遊弋するワニの餌にされていたからだ。

「嫌だ……あんな死に方したくない……あんなの死に方じゃない……」

 野蛮という言葉など生ぬるい地獄を目の当たりにした彼女の心は瞬時に折れる。

「マザーシップはルナ・マウンテンのダムに……います……」

「わかった。酷いことをしてしまってすまなかったな」

 求めていた情報を手に入れたマリアは腰を落として半ば放心状態となっているクローンヴァルキリーと同じ目線になり、汚い体を抱き締め、優しく土埃に塗れた髪を撫でる。

「お前をワニの餌にするのはやめる。正直に話した褒美に――」

 それからユーリの姉は助かったと安堵の表情を浮かべる少女の耳元で囁いた。

「お前をワニの糞にしてやろう」

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