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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 INTO THE COLDEST WINTER 1942
259/285

かえせ!未来を 4

 一九四二年六月六日。

「見つからなかっただと?」

 小奇麗なヴォルクグラード人民学園参謀総長室で保安人民委員部の――同学園における諜報組織等を統括する機関――高官とチェコ製木机越しに向き合う自称超ブラコン怪獣はソファの上で不機嫌そうに足を組み直す。

「はい……巨大なタコの記録は見つかりませんでした」

 高官と言えば聞こえはいいが、マリアの根回しによって現在の地位を得ただけの気弱な男子生徒は目に見えて怯えた様子となり、額に浮かぶ脂汗をハンカチで拭き取る。

「私はそんな答えを聞くために毎月何万ドルも貴様らに支払っているわけではないぞ」

 人民生徒会を唯一打倒できる存在として西側諸校から期待される一方で人喰いと呼ばれ恐れられてもいる黒き王は突き刺すような視線を高官に浴びせる。

「私の目を見て、はっきりとした確証を持って見つかりませんでしたと言えるか?」

「わ、我々とて潤沢な人的資源があるわけではなく……」

 マリアは自らの操り人形に対してわかったと納得の頷きを送る。

「では公務そっちのけで避妊具なしの乱交パーティーを楽しむ貴様の写真をアルカ全土にばら撒く際にはそう説明書きを付けることにしよう」

 一瞬の安堵を即座に消し飛ばされて顔面蒼白になった高官を横目で見るマリアは自分のすぐ右脇に立つプラチナブロンドの少女に「な?」と謎掛けた。

「はい」

 エレナ・ヴィレンスカヤは後ろで手を組み足を開いた状態で頷く。

「私も同意見です」

 上官と同じようにセーラー服の左胸部と右上腕部にそれぞれ赤地に黄色で描かれた鎌と槌の徽章と赤い星が配置されたパッチが縫い付けている彼女はユーリの姉と同じ第一世代ヴァルキリーであり、BFにおける多くの代理戦争でマリアと共に死線を潜ってきた。

「再度……再度調査致します」

「それがお前のためだ」

 自分には一切の逃げ道がないことを再確認させられた高官が死人の表情で退室した後、参謀総長の執務机に戻ったマリアは机上に置かれている額に入った弟の写真を見つめる。

「ああは言ったが……」

 マリアの言葉には不明瞭さが滲み出ていた。

「人民生徒会の仕業でしょうか?」

「いいえ、我々の仕業です」

 先端で結われている長髪を微震させたエレナに対し、ヴァルキリー二人しかいない今の参謀総長室の中では絶対に聞こえるはずのない男の声で返答があったのはその瞬間だ。

「誰だ!?」

 突如瞬いた光の中から室内に現れた者達を見たエレナは驚きの声を上げ、

「同志大佐、お下がりください!」

 自分の体でマリアを庇うようにして執務机前に出る。彼女はスカートに隠れた両太腿の鞘からナイフを抜いて投擲するが、研ぎ澄まされた刃は全身にアルミホイルを巻き目元をサングラスで隠した男を通り抜けて反対側の壁へと突き刺さった。

「これはホログラム越しの立体映像です。私達はアルカ某所に停泊中のマザーシップからヴォルクグラード人民学園内のお二人に呼び掛けています」

「ほう……」

 自らの腹心に武器を鞘に戻すよう指示したマリアは顔の前で両手を組み、自分の表情を伺えない状態にしてから来訪者に説明の再開を求める。

「私達は二〇一五年の八月十四日――つまり未来からタイムワープして来ました」

 自称未来人の全身アルミホイル男性は続いて左右に立つ、メイド然とした軍服の基調となっている色がそれぞれ赤と青である以外は何もかも同じ姿の少女を紹介する。

「そしてこの二人はマザーシップ内で作り出されたクローンヴァルキリーです」

 初めましてと全く同じ声と言葉を被らせた二人は全く同じタイミングで頭を下げ、全く同じタイミングで頭を戻し、全く同じタイミングで瞬きした。

「更にM11型マナ・ローブも我々が秘密裏に供与したものです」

「なるほど」

 この言葉によりマリアの中でアルミホイル男は自称から本物の未来人へと格上げされた。

「あれは良いものだ」

「ありがとうございます」

 一切の補給及び整備が不要であり、内部で無限に多目的誘導弾を生産できる意味のない露出部だらけのエグゾスケルトン付き戦闘服も未来製だと考えれば一先ず納得が行く。

「ではあの大ダコもお前達が?」

「はい。ですが、その前に我々がこの時代にやってきた理由をお聞き頂きたい」

「いいだろう」

 マリアから了承の頷きを送られた未来人は本題を話し始める。

「二〇一五年現在、グレン&グレンダ社は崩壊し、世界は国家による自治独立が行われるアポカリプス・ナウ以前の形へと戻っています」

「容易に予想できる未来だな。アルカにおける代理戦争は辛うじて国家間の諸問題ならば解決できるかもしれない。だが、その枠組に囚われない民族同士や宗教間の衝突には一切対応することができん。ヴォルクグラード人民学園の大佐如きにも理解できる話だ」

「グレン&グレンダ社崩壊のきっかけを作ったのは貴方の弟であるユーリ氏です」

「ユーリが……?」

 マリアの口調には当初支配者の凋落に対する喜びと嘲笑が見え隠れしていたが、流石の彼女も自分の弟がその原因とは思わなかったらしく表情を強張らせた。

「我々は二〇一五年の世界では少数派であるグレン&グレンダ社残党の手によって未来を変えるためにこの時代に送り込まれ、ユーリ氏の抹殺を命ぜられました。これこそ我々が一九四二年のアルカへタイムワープした理由です」

「だが解せんな。だったら何故私にそんなことを言う?」

「我々は大ダコを使ってサカタグラードに対する破壊活動を行い、ユーリ氏を殺害するか身柄を引き渡さない限り攻撃を続けるとパステルナーク大佐を脅迫する予定でした」

 アルミホイル男の代わりに彼の左に立っていた赤の戦乙女がマリアの疑問に答える。

「しかし、昨日の戦闘で大ダコはドック入りが必要な程のダメージを与えられました」

 次に右に立つ青の戦乙女が説明した。

「よって我々は残されていた資料を分析し、貴方が権力のためならば平気で肉親や部下を売る人間の屑であることに着目して作戦を脅迫から交渉に切り替えたのです」

 今度は統制官とクローンヴァルキリー達から呼ばれるアルミホイル男本人が話し始めた。

「もしも我々の要求に応じてパステルナーク大佐ご自身がユーリ氏を殺害、もしくは殺害前提で我々にその身柄を引き渡して頂けるのなら、我々は大佐にクローンヴァルキリーの生産プラントや二十一世紀にて開発された数種類の機動兵器を無償で譲渡させて頂きます」

「それは魅力的な提案だな。きっと人民生徒会との戦いで大いに役立つだろう」

 マリアは下衆な笑いを浮かべて「いいだろう。ユーリを殺そう」と三人に約束した。

「同志大佐!?」

 ここまで表情一つ変えずに感情を押し殺して沈黙を守っていたエレナが敬愛する上官の信じ難い発言を耳にして弾かれたかのように体を彼女へ向ける。

「一体何を仰っているのですか!?」

「別に驚くようなことは何も言っていないぞ。お前は知らないのか?」

 回転式の椅子に踏ん反り返ったマリアは口元を大きく歪めて白い歯を剥き出しにした。

「私は権力のためならば平気で肉親や部下を売る人間の屑なんだぞ?」

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