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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 INTO THE COLDEST WINTER 1942
257/285

かえせ!未来を 2

 一九四二年六月五日。

 ぬめった触腕が撃破され砲身を垂らしているT‐34/85中戦車の側面を強く打ち、ソ連本国の第百八十三ウラル戦車工場からアルカ北西のサカタグラードへと持ち込まれた一両をビルの外壁に叩き付ける。落下した瓦礫が夜の学園都市に転がるヴォルクグラード学園軍兵士達の死体に降り注ぎ肉や骨の砕ける不快な音を響かせた。

「一人の子供も生き残っていないのは確かだ!」

 舗装を蹴って跳躍、瞬時に瓦礫の雨を突破したヴァルキリーは狗琉牙――くるが――と名付けられた日本刀による斬撃で自分に迫ってくる黒ずんだ赤の先端を切り落とす。

「戦場から逃げた卑怯者共がやったのだ!」

 だが間髪入れずに伸びてきた新たなる触腕は危険を感じて反射的に右方向へと側転したマリア・パステルナークが半秒前までいた場所を一撃で深く抉り、コンクリートの破片や今に至るまでの戦闘で作り出された細切れの肉片を宙に舞い上げた。

「しかも王の天幕にあったものを全て燃やすか持ち去っている!」

 両足裏を舗装道路に着けたマリアが燃える車両に全身を照らされながら立ち上がると、満月の下を緩い円を描いて接近してきた前進翼式の背部飛行ユニットが機首先端を真上へ向けて彼女の腰辺りにある支持架と自機の腹面をドッキングさせる。

「それゆえ王は!」

 翼を得た紺色の髪の少女が纏うマナ・ローブは通常のそれとは大いに異なる。

「至極当然ながら全ての捕虜の喉を掻き切らせた!」

 漆黒を基調としたM11型マナ・ローブは全身に密着して肢体のラインを浮き立たせ、腹部や胸元の紫には幾何学的な模様が刻まれている。

「ああ、勇ましい王よ!」

 また両上腕部や臀部、太腿等は一切覆われておらず、股間に至ってはハイレグカットになっていた。だが纏っている本人は些かも恥じらっている様子はない。

「何という巨大なタコだ」

 シェークスピアのヘンリー五世の台詞を特に意味もなく引用したマリアは刃を振るって日本刀にこびり付いた青い血を払い、地面を半円状に汚してから背中の鞘に戻す。

「それにこの戦闘力……貴様、只のタコではないと見える」

 そして琥珀色の瞳で突如サカタグラードに出現し駆け付けたヴォルクグラード学園軍のタスクフォース501を蹴散らした体長十五メートルはある大ダコを睨んだ。

「だが私は単なる姉だ!」

 背部飛行ユニットから青白い光を放つマナ・エネルギーの粒子を噴射して飛び上がり、大ダコが繰り出した更なる触腕の三連撃を難なく回避したマリアは両手を振り上げてから溜め込んだ力を放出するかのように左右に広げる。

「政治的野心などない!」

 M11型マナ・ローブ同様に漆黒の占める割合が多い背部飛行ユニットの上面が開き、内部にぎっしりと詰め込まれていた多目的誘導弾が濛々たる白煙と共に撃ち出される。

「貴様は塩気が多そうだ」

 発射された五十二発にも及ぶ鉄槍は緩やかな白い曲線を描いて海魔へと迫り――。

「だから喰わん。死ね」

 着弾した。街並み震わす大音響と共に大ダコが盾にした触腕が眩い閃光の中心で四散、大小の欠片になって頭足類特有の青い血液で汚れた舗装の上に落着する。

「やったか?」

 頸椎部から臀部にかけての美しい曲線が背骨にも似たM11型マナ・ローブのパーツで露骨に強調されているマリアが弾力のある胸の双球を微震させて一歩前に出た瞬間、濃い煙の中から触腕が飛び出して彼女の左足首に巻き付いた。

「しまった!」

 マリアは大ダコから宙に放り投げられるが、ヴォルクグラード学園軍参謀総長でもあるヴァルキリーは露出した尻たぶを波打たせつつ空中で体勢を整え、両足に取り付けられたエグゾスケルトン――身体能力補助用の強化外骨格――のアクチュエーターを使いビルの外壁を思い切り蹴って海魔を飛び越える。

「だがここは私の庭だ!」

 着地するなり口元を緩めたマリアは大ダコが慌てて向き直る前に急接近、右手で鞘から引き抜いた狗琉牙の一閃で丸く大きい胴体部に裂傷を与え、渾身の力を込めてその全てが鋭い爪に似た装甲で覆われている指を出来たばかりの傷口に突き入れる。

「貴様の海ではない!」

 両足だけではなく上半身にも取り付けられている強化外骨格によって大幅な身体能力の向上が行われているヴァルキリーによって傷口は大きく左右に広げられた。

「この私、マリア・パステルナークの王国なのだ!」

 粘液が鈍光を放つ切れ目から大ダコの青い血が溢れ、双眸に炯々と光る刃の如き鋭さを宿らせた少女の足元には絵の具を零したかのような光景をが作り出された。

「三連ハイパー・ランチャー、スタンバイ」

 いつの間にか触腕が残り二本だけになってしまった大ダコの殆ど悪足掻きに近い抵抗を嘲笑うかのように後方宙返りを敢行し海魔との距離を取ったマリアが纏うエロティックなスーツの腹部が左右に開き、上に二つ下に一つのパラボラアンテナ型照射装置が露になる。

「発射」

 薄皮と言っても過言ではく、明らかに火器を内蔵する空間などどこにもない戦闘服から膨大なマナ・エネルギーが解き放たれた。三つの照射装置から伸びた虹色の粒子ビームは収束した図太い形で大ダコを直撃し、傷口から剥き出しになった体内を徹底的に破壊してそのまま海へと繋がる水路に押し出した。

「深追いするのは危険だな」

 腹部を閉じて虎の子たる三連ハイパー・ランチャーを収納したマリアは致命傷を負った大ダコの青い血が浮かぶ水路から二度と動くことはない部下達に視線を向ける。

「一体誰の仕業かは知らんが……」

 触腕の一撃を受けたヴァルキリーの上半身だけが道路上に転がり、そのすぐ横の焦げた街路樹脇ではT‐50軽戦車が乗員四名と共に燃えて悪臭を放っていた。

「私の……」

 陰惨な光景を目の当たりにしたマリアは苦々しげに吐き捨てる。

「私の道具を減らした罪は絶対に償わせてやるぞ」

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