エピローグ
シェルター内の暗い部屋に一人体育座りしたクリスは十月六日から七日までの攻防戦でSACSが全滅して自分達の母校が解放されたことと、グレン&グレンダ社によってこの殺戮劇がトランシルヴァニア戦争と名付けられたことを知る。
「クリスさん? ちょっと良いかしら?」
トランシルヴァニア学園軍の兵士が笑いながらSACS兵の死体に小便を浴びせたり、ティーガー重戦車の砲身先にカメラを置いて車上で記念撮影するMACT隊員達の映像をあたかも他人事のように見ていたクリスはレアというMACTの中尉に呼び出された。
「クリス! 良かった……無事だったんだな」
案内された地下格納庫に足を踏み入れるなり、学生服を着たクリスは今か今かと彼女を待ち兼ねていた紺髪の少女に抱き付かれる。
「は、放してください! 何ですか貴方!?」
ツインテールのプロトタイプは自分と同じ学生服姿のアルマを突き飛ばすとキスされた唇や弄られた脇腹をまるで汚物でも擦り付けられたかのように忌々しげに手で拭った。
「一体何なんですか貴方は……女同士でこんなこと……気持ち悪い」
Bf108軽攻撃機が翼を並べる空間にクリスの強い嫌悪の声が響き渡る。
「クリス……私がわからないのか?」
信じられないと言いたげな表情のアルマが手を伸ばすとクリスは「ひっ」と一歩引く。
『クリスさん、悪いんだけど――ドラゴリーナ大尉を殺して』
ここに来る途中MACT最高指揮官エーリヒ・シュヴァンクマイエルからの伝言としてレアから告げられた通り、クリスはスカートに隠していた拳銃を抜いてアルマに向ける。
「おいクリス……馬鹿な真似はよせ」
シュテファニアがアルマとクリスの両人が反乱等を起こした場合に備えて用意していた絶対服従コードにプログラム通り従った少女からの返答は乾いた銃声だけだった。
「どう……して……」
「貴方を殺してと言われたからです」
腹部を押さえ、膝立ちに崩れて震えながら涙目で自分を見上げてきたアルマにクリスは無表情で何発も何発も銃弾を撃ち込む。
「あれ」
拳銃のスライドが弾切れで後退したままになると、うつ伏せに血の池に沈んだアルマを見つめるクリスの目から止め処なく涙が溢れ始めた。
「私、どうして泣いてるんだろう。私、この人のことを何も知らないのに……」
頬に幾筋も滴を走らせたプロトタイプは自分の声が震え始めていることに気付く。
「これじゃまるで、大好きな人を殺した時みたいじゃない……」
終劇