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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 OF THEIR OWN ACCORD 1947
252/285

第三章5

「そうだ……」

 プロトタイプ達の血がたっぷり染み込んだ地面で力尽きていたアルマの指先が微動する。

「今の自分が……絶対じゃないんだ……!」

「え? マジ?」

 ヴァルキリーと同じ青いマナ・エネルギーの粒子を残して上空を旋回するスヴァログのコックピットから液晶モニター越しにアルマが立ち上がる様子を目にしたキャロラインは意外そうな表情を浮かべて人差し指を下唇の上に置く。

「へぇー……どうしようかな」

 彼女はポケットから小さな金属製のケースを取り出して耳元で小さく振った。

「私はマイハニーに奴を始末させるつもりだったんだけど……」

 開けるとケース内に入っていた二つの日本製サイコロの出目が二と三を示していた。

 合計で五。奇数だ。

「だけどサイコロはこの場でぶっ殺せって言ってるわ!」

 狂笑を浮かべたキャロラインは前のめりになって両手で握った操縦桿を二本共押し倒し、急上昇してきたアルマに第一次ヴォルクグラード内戦末期に人民生徒会が実戦投入したと公式記録には可能性として記されている機動兵器を突進させる。

「戦争は殺人への嗜癖を強め正当化する!」

 二つの光源が空中ですれ違い、スヴァログの右鋏が付け根から本体と切り離される。

「サイコロの出目合計が奇数か偶数か!」

 キャロラインは構わず指を叩き付けるようにしてボタンを操作、

「それが私の行動原則!」

 機体上部を展開させ、丁度背中側に位置するアルマ目掛けてミサイルを発射した。

「偶数ならば悪行! 奇数ならば善行!」

 弾数にして二百発以上に及ぶ多目的誘導弾は今まさにスヴァログと正対せんとしていたヴァルキリーに殺到する。

「サイコロがそうしろと言ったからエーリヒに付いて、サイコロがそうしろと言ったからSACSとシュテファニアを高値で売り飛ばした!」

「ラミアーズ登場前のアルカでは爪弾き者だった戦争犯罪者共が戦闘が勃発するや一躍、戦争の英雄として扱われることになった!」

 だが弾雨はアルマが縦横一回ずつ放った斬撃で一発残らず光芒の十字架へと変えられる。

「彼らは全く以前と変わらず!」

 猛烈な勢いでスヴァログとの距離を詰めるアルマは完璧にロックオンして放たれた筈の粒子ビームを鮮やかな横回転で避けると、今度は狗琉牙の一閃ですれ違う瞬間に左の鋏を一刀の下に斬り伏せて爆発に追い込む。

「ああ、マリアと戦うってこういう感じなんだ……」

 部品が落下していく様子を火花散らして点滅するモニターで確認したキャロラインは、自分が疑似的とはいえアルカ最後の英雄と命のやり取りをしている事実に興奮を覚えた。

「相変わらず荒らし回り掠奪し拷問にかけ殺した!」

 スヴァログの背後に回り込んだアルマは刀に帯びさせたマナ・エネルギーを薙ぎ払って撃ち出す。半円に形作られた光は大音響と共にスペースサブラニウムの装甲を突き破り、オーバーテクノロジーの結晶体の中を破壊し尽くしながら突き進んで機体から飛び出す。

「うわっぷ!」

 コックピット内のパワーインジケーターが弾け飛んだのを皮切りに計器類が火を噴き、煙と悪臭が充満、続く墜落の衝撃で操縦者も思い切りモニターに頭を突っ込んでしまう。

「サイコロの出目に委ねて私は生きてきた」

 額から血を流した傭兵の悪態がスピーカー越しに響き渡ると同時に、結着を付けるため自らも地に足を着けたアルマの目の前で墜落した黒い機体が変貌を始めた。

「サイコロはフェアだった」

 平たい胴体の側面から八本の足が地面に伸びて開き、傷だらけの機体を持ち上げた。

「どんな人間にも平等にチャンスを与え」

 蒸気噴射と共に二つに割れた上面から人の上半身じみたフォルムが起き上がり、先端に備えられた頭部で機械の双眸が赤い輝きを帯びる。

「平等に地獄を見せる」

 まるでギリシャ神話に登場するケンタウロスがサイボーグ化された姿にも見える右手にロングランスを携えた異形は首を左右に振って猛々しく咆哮しザ・オーの大地を震わせた。

「なら私に地獄とやらを見せてみせろ」

 襟袖の淵に緋を配色されたマナ・ローブを纏う一九四七年のマリア・パステルナークは姿勢を低くすると背部飛行ユニットからマナ・エネルギーを噴射、その余波で撃墜されたA‐1スカイレーダー戦闘爆撃機の垂直尾翼を軽々と吹き飛ばしながら突っ込む。

「一度社会正義の側に与し」

 幾十にも重ねられたスヴァログのマナ・フィールドは最早何の意味も成さなかった。

「宗教的・イデオロギー的信条で武装すれば!」

 最初の障壁を縦方向に振るった一撃で破ると、アルマは地に足を付けて力む。

「善と光明の化身とされ!」

 そして感情全てを吐き出すかのような裂帛の気合いと同時に手を振るう。振り払われた赤い潮流が地面をなぎ払い、絶対的な障壁を一枚残らず全て崩壊させた。

「やばっ……」

 マナ・フィールド全滅の大衝撃はスヴァログの上半身の装甲板の一部までも剥ぎ取って四散させ、動力源兼弾薬庫である巨大なマナ・クリスタル――一九四七年現在の技術ではグレン&グレンダ社でも製造不可能な――を露出させる。

「後はただ!」

 飛び上がったアルマは一瞬だけ滞空してから再突進する。突き出されたロングランスを伸ばした左手に展開した光の障壁で受け止め、突き刺さる筈の槍先を逆に切り裂いていく。

「どのようにして殺人を遂行するかの問題だ!」

 ロングランスごとスヴァログの右手を粉砕したアルマは次に剥き出しになった心臓部を守らんとした左手も狗琉牙も容易く斬り払って青い輝きに先端を突き刺した。

「さて、余興もこの辺にしておかないと」

 アルマが全身全霊の叫びを発してスヴァログのマナ・クリスタルに刀を押し込む一方、あくまでもギミックとしてサイコロの出目で善悪の判断を行う敵を演じるキャロラインは緊急脱出を促す赤い警告が全ての画面に表示されたコックピット内で特に焦ることもなくがちゃがちゃと音を立てて四点式のシートベルトを外していた。

「ぷぷぷ。馬鹿みたい」

 白い亀裂が何本も入ったモニターに映る鬼神の如きアルマの形相を見て思わず失笑したキャロラインは心底醒め切った様子で膝横のレバーを引く。

 脱出ポッドが機体後部から射出された直後、スヴァログはアルマごと大爆発に包まれた。

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