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第二章1
一九四七年十月六日。
「あれ?」
朝七時半――フェルニゲシュ・コシュティから少し離れたトランシルヴァニア学園軍のレーダーサイトの施設内で一人の生徒が暗転したモニターを目にして手を上げる。
「どうした?」
両足を組んで米国製の安物ポルノ雑誌を流し見していた大人の技術中尉は立ち上がり、心底面倒臭そうな様子で困り顔の監視員の椅子に近付いた。
「急に映らなくなりました……」
「どうせ一時的な故障だろう」
「いや、それが……」
「全く安物なんか――」
本国から生徒達の教育係として派遣されている男は機械の横で腰を下ろしてモニターの横を何度か叩いてから再び画面を覗き込む。だが映像はやはり途切れたままで、代わりに彼に与えられた情報は管制室にいる十数人が一様に異変を訴えている信じ難い光景だった。
「嘘だろ」
そこにいた全員がレーダーサイトごと、機体の胴体と両主翼にスカル&クロスボーンが国籍マークの代わりに描かれているSACSのA‐1スカイレーダー戦闘爆撃機によって鉄火の渦に巻き込まれたのは、それから僅か数分後のことである。