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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 OF THEIR OWN ACCORD 1947
242/285

第一章5

「色々とすまないな」

 熱いシャワーを浴び終えたアルマ・ドラゴリーナは全裸に白い男物のワイシャツという刺激的な姿で皺一つないシーツが敷かれたベッドに座るクリスの横に腰を下ろす。

「あ、あの……きょ、今日はありがとうございました!」

 月明かりに照らし出されたトランシルヴァニア学園の学生寮の一室にいるパジャマ姿のプロトタイプは緊張した様子ですぐ隣のヴァルキリーに感謝の言葉を述べる。

「具合はどうだ?」

「だ、大丈夫です」

 SACSに襲撃された後アルマの部屋へと運ばれ、七分十二秒前にそこで目を覚ました少女が声を上ずらせながら慎重に選んだ言葉を口にする。

「クラスメイトのことは残念だった」

「はい……でも、私はプロトタイプですから……」

「そうか」

 頷きを返してからアルマは次にクリスが感じているであろう疑問に自分から答える。

「私はマリア・パステルナークのクローンだよ」

「えっ」

「外見だけがオリジナルそっくりの粗悪な複製品。それが私だ」

 月光で紺髪から妖しい輝きを反射させるアルマは自嘲気味に笑う。

「私が作られた目的については話せない。でも君には私の正体だけは教えて良いと思った」

「どうして?」

「君が、私と同じように今の自分が絶対でないと信じて行動しているからだよ」

 多分気を失っている自分を着替えさせている際にポケットからヴァルキリー選抜試験の不合格通知が落ちでもしたのだろう。クリスは恥ずかしさを感じ赤面してしまう。

「恥ずかしがることじゃない。今の現実を何とかしようと行動する……ただ自分の境遇を呪うだけの輩より何十倍も何百倍も評価されるべきだ」

「そんなんじゃありません。私はアルマさんとは違います。私は――」

 膝頭に置かれて震えるクリスの両手にアルマの左手が伸びる。

 右手に走った温かい感覚に驚いて思わず可憐な顔を上げたクリスが横を見た直後、唇にアルマのそれが優しく重ねられる。

「そんなに自分を悪く言うものじゃない」

 マリア・パステルナーク同様の凛とした雰囲気を持つヴァルキリーは端正な顔を離すとオリジナルと殆ど変わらない声色で茹蛸のようになったクリスの言葉を否定した。

「お前が私に助けられたように、私もお前に助けられた」

 驚きと困惑で頬を真っ赤にして目を潤ませる少女の柔らかい頬をアルマは優しく撫でる。

「私も現状を変えたいし、今の自分が絶対ではないと思って行動している。でも、たった一人で戦うのは辛いんだ」

「アルマさん……」

 その気持ちわかりますと口に出しては言えなかったが、まだ唇に走った感覚で体の芯をぼんやりさせているクリスはアルマの言葉に深く共感した。

「誰もわかってくれないんですよね……」

 中には「ヴァルキリーとプロトタイプに上下なんてない」と話す者もいる。だがそれは上位者から理不尽に侮辱された側にすれば競争に加わろうともしない脱落者の妄言にしか聞こえなかったし、そう言われたところでクリスの心は全く晴れなかった。しかしそれを口にした者の考えを否定し、自分の考えを押し付けることもできないから心に抱え込んで呪いに内側から食い破られる苦しみを延々と毎日味わい続けなければならなかったのだ。

「でも今日、自分と同じ悩みを抱えている者に今こうして自分の悩みを話せて良かった」

 アルマが心底嬉しそうに笑うと今度はクリスの方が彼女の左手に震える右手を伸ばす。

「どうした?」

「アルマさんに私がお返しできることなんて何もないです」

 いつもはツインテールにしている薄灰色の長髪を今はそのままで垂らすプロトタイプはやや面食らったような表情のアルマの目を見て話す。

「でも、私で苦しみが少しでも紛らわせるのなら、私はとっても嬉しいです。だから……」

 耳まで赤くなり、自分が一体何を言っているのかも理解できなくなり始めている少女は荒っぽい呼吸で肩を上下させながらパジャマのボタンを外し始める。

「お、おい……」

「初めてはアルマさんじゃなきゃ、嫌です」

 二つの影はしばし見つめ合ってから、やがてどちらからともなく重なった。

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