第一章2
「第一次ヴォルクグラード内戦時にディミトリ・カローニンが自ら搭乗した機動兵器です」
アルカ南東部の学園都市、フェルニゲシュ・コシュティに校舎群を構えるハンガリーの代理勢力の地下格納庫で赤髪を揺らしながらキャロライン・ダークホームが口を開く。
「変形機能も含め、全て問題なく運用できます」
「素晴らしいわ」
普段は人工の森に囲まれた白い学び舎で教鞭を執っているシュテファニア・グローフは上半身を青いジャージで、下半身を中古品のタイガーストライプパターンの迷彩ズボンで覆う青い目のフリーランスの傭兵ヴァルキリーに満足げな笑みを送る。
「貴方がこれをどうやって手に入れたかは聞かないわ」
「ありがとうございます」
「それにしても……本当に素晴らしい」
二十代後半にしてトランシルヴァニア学園軍の総司令官代理も務めるスーツ姿の美しい女性は既存の兵器体系から大きく逸脱した蟹の甲羅に似た胴体を最初に見ると、
「人にはそれぞれ与えられた役目があるわ」
次にレンズ越しの視線で側面から伸びた八本の足を撫でる。
「だから私は自分の役割を果たす」
そして最後に二つに割れたその上面から起立する人の上半身めいたフォルムとそこから伸びる赤い双眸を持つ爬虫類然の頭部を視界に捉えた。
「トランシルヴァニア学園を生贄にして、私はアルカを――いえ世界を変えるのよ」
「素晴らしいと思います! 私も頑張った甲斐がありました!」
格納庫が揺れて地響きと共に天井から黒い塗料が剥げ落ち、作り笑いのキャロラインはシュテファニアによる世界の改変とやらが始まったことを察する。
「悪いんだけど――お願いできるかしら?」
ポニーテールの少女は目の前のハンガリー人女性がマッチポンプの片棒を担ぐ戦乙女に無線機で呼び掛ける様子を見て静かだが過剰な嫌悪を込めて呟いた。
「脳味噌溶けてるんじゃないの、このババア」