エピローグ
「良かった……」
ウォッチタワーの中庭でユーリと合流を果たしたエレナの姿をモニター越しに確認したレアはリモコンを操作して画面を消すと安堵の息を漏らした。
「ラミアーズはこれで終わりね」
「同意します。アビーを失ったテロ組織に未来はないでしょう」
テントの外で腕を組んでいたミス・マガフはレアからの問いに背を向けたまま答える。
「これで我々はX生徒会のシナリオ通りに計画を進めることができます」
「ディアスポラ……」
紀元後七十年にエルサレム神殿がローマ人によって破壊され、王国再建の夢を断たれたユダヤ人達がパレスチナから世界中に離散したことを指す言葉がレアの口から零れた。
「時が来れば、私のように経験を積んだプロトタイプやヴァルキリーがイスラエルという道徳的にも社会的にも正当化されたユダヤ人国家のため、それまでの母校を一斉に離脱しアルカに建設されたその学園に強力な即戦力としてアリヤーを果たすでしょう」
しかし――と自らを歯車と称する戦乙女は疑問を口にした。
「エレナ・ヴィレンスカヤ氏が勝てた理由がわかりません」
「多分、最後に勝負を決めたのは感情だったのよ」
「感情?」
「そう。感情よ」
疑問の声を上げた素性不明という設定のヴァルキリーにレアは頷きを返す。
「エレナには感情があった」
「私には理解できません」
長い黒髪のミス・マガフは熱可塑性ポリウレタン製の仮面を外し、度が入っているのか入っていないのか本人もよくわかっていない眼鏡を掛ける。
「サブラ、アンタにもいずれわかるわよ」
ヌートリア戦闘服に着替えている戦乙女はいつもの姿に戻ったクラスメイトにして戦友、自分にとっての希望と絶望の象徴を前に肩を竦めながら空を見上げた。
「いずれね……」
彼女の言葉には、そうあって欲しいという強い願望が過分に込められていた。
終劇