第三章3
「始まりましたね」
二人の戦乙女が壮絶なる死闘のゴングを鳴らしたウォッチタワー中枢部から少し離れたホテル・ブラボーの片隅にミス・マガフの拠点が存在していた。
「勝った方が我々の敵になるでしょう」
ヌートリア戦闘服を纏ったドラケンスバーグ学園の兵士達が警備するテント内で仮面を被ったヴァルキリーは中継されるエレナとアビーの戦闘の模様を見つめる。
「レアさんはどちらが勝つとお思いですか?」
「そもそも勝った方が敵になると思ってないわよ」
質問を振られたレア・アンシェルは足を組んで木椅子に腰掛けるミス・マガフの見解にオブラートに包まれていない否定的な言葉を返した。
「と、言いますと?」
「アルカは灰色なの。単純に白黒で物事を判断できる場所じゃない」
ドラケンスバーグ学園軍中尉はまず、少し前にホテル・ブラボーの正面で初顔合わせを済ませたプラチナブロンドの髪を靡かせて鉈を振るう少女を見る。
「あまりにも露骨過ぎる場合を除いてね」
そして次にその刃を回避してチェーンソーで反撃する傷顔の狂鬼に視線を移す。
「ではエレナ・ヴィレンスカヤ氏を利用できるとお考えですか」
ミス・マガフは仮面から覗く紫色の双眸をレアに向けて問い掛ける。
「違うわ。サブ……いえミス・マガフ、人ってそんなに単純じゃないの」
大人びた雰囲気を持つヴァルキリーは先程顔合わせを済ませたタスクフォース563の指揮官に肩入れすることもなく淡々と自身の見解を述べた。
「歯車の私には理解できませんね」
しかし言われた側は、対して興味なさげな様子で足を組み直しただけだった。
「理解しようとも思いません」