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学園大戦ヴァルキリーズ  作者: 名無しの東北県人
学園大戦ヴァルキリーズ新小説版 A NEW BATTLE FIELD 1945
226/285

第二章1

 一九四五年五月三日。

「死の影の谷を往く時も私は災いを恐れない」

 タスクフォース563の隊員を乗せてブラッド・シーをその背にした学園都市を発った回転翼機――ドイツ製のFa223ドラッへ――が左右二基のローターを回転させながらショナイ平原上空を経てホテル・ブラボーの近郊に作られた前線基地に近付いていく。

「貴方が私と共にいてくださる」

 茶と緑が組み合わさったパターンの迷彩色の機体後部に赤い狼のマーキングが施された回転翼機は、既に水が流れていない河川に架かった中央部分が落壊している鉄橋の上空を通過すると高度を落として陣地内にある臨時のヘリポートに着陸した。

「お待ちしておりました。第三十二大隊のミネット・メスターフェルドです」

「第三十二大隊……?」

 マリアの弟で今はスペツナズ隊員に逞しい成長を遂げたユーリ・パステルナークを含む重装備に身を包むタスクフォース563のメンバー達を引き連れたエレナは、ハッチから出るなり自分を出迎えたヴァルキリーが口にした部隊名を耳にして黒い感情を覚える。

「お前達……!」

 何故なら二年前、ロイヤリスト達と協力してマリア派を自分達の学園から排斥したのがその名を持つシュネーヴァルト学園の部隊だったからだ。

「ご心配なく。貴方と戦った頃とは違います」

 ドイツ語を話す戦乙女は肩を竦めて、この前線基地に展開している第三十二大隊が主に戦争犯罪人で構成された二代目であることを説明する。

「なるほど、私達と同じ使い捨てか」

「端的に言ってしまうとそうです。こちらへ」

 私は引率のようなものですからねと身の潔白を付け加えてから案内を始めたミネットとリザード迷彩で覆われた彼女の背中を追って進むソ連製ヴァルキリーとプロトタイプ達の横にはガーランド・ハイスクール、トランシルヴァニア学園、ハイスクール・エウレカの戦闘車両が並んでいた。

「状況はどうだ?」

「敵よりも味方の方が面倒な事態になってますよ」

 アルカにおいて各学園ごとに異なる部材や部品、装備、操縦系の規格、生産ライン等を全校統一とすることで兵器の統合的な生産性や整備性の向上、部品の高い共有化を図り、また操作性のフォーマットを全て一元化させてプロトタイプの教育課程短縮をも目論んだグレン&グレンダ社主導のフリーダム・ファイター計画に起因するものだ。

「タスクフォース609の指揮官とルナ・マウンテンにいるグレン&グレンダ社担当者が酷く揉めてるらしいんです。殴った、殴ってないの話になっているとか」

「ああ……609なら納得だ」

「あら、お知り合いなんですか」

「いいや。面倒な奴とは良く聞いているだけだ」

 だが、その計画が各勢力へ装備を提供する各国のグレン&グレンダ社支社からの反発や現場への過度な負担で全く進んでいない現状は、センチュリオン中戦車の脇に横たわって死んだように眠る数名の整備兵の姿を見ても明らかだった。

「面倒?」

「童貞を拗らせ――伏せろ!」

 飛来音を耳にしたエレナが叫んだ直後、突然、横殴りの衝撃が前線基地を襲った。

「浄化しろ! 浄化しろ! 浄化しろ!」

「浄化しろ! 浄化しろ! 浄化しろ!」

「浄化しろ! 浄化しろ! 浄化しろ!」

「浄化しろ! 浄化しろ! 浄化しろ!」

「浄化しろ! 浄化しろ! 浄化しろ!」

「浄化しろ! 浄化しろ! 浄化しろ!」

 まるで晴天の霹靂の如くホテル・ブラボーの中枢部に展開するラミアーズの砲兵部隊が全ての命を叩き潰すために数十門に及ぶ米国製M101榴弾砲による一斉射撃を俄作りの拠点に解き放ったのだ。

 ジープが至近距離で爆発を受けて土嚢の山に乗り上げそのまま横転し、直撃を食らったドイツ製四連装対空機関砲が射手ごと木っ端微塵に吹き飛ぶ。

「ユーリ君!」

 渦巻く黒煙の中で軽い脳震盪を起こしながら立ち上がったエレナは我先にと逃げ出したミネットの背中から足元に倒れていた部下に視線を移し、

「全員走れ!」

 自分同様に着弾の衝撃で姿勢を崩し、こちらは割れた骨が土に混じる地面に頭を打って失神してしまい口が開いたままになっているマリア・パステルナークの実弟を担ぎ上げてタスクフォース563の隊員達に指示を与えて走り出す。

「走れ! 走れ!」

 プラチナブロンドの戦乙女と消耗品として今日この日まで地獄を生き抜いてきた手練のプロトタイプ達は飛来する砲弾の炸裂が前線基地にいる万人に平等な即死と破壊を与え、機関銃座や対戦車砲陣地にこれでもかと叩き込まれる一撃によって至る所で爆風が人体を容赦なく完膚なきまでに破壊し尽くす中を全力で駆け抜ける。

「入れ!」

 七分十二秒後、タスクフォース563一行は塹壕の中に退避することができた。

「ユーリ君! ユーリ君!」

「んっ……」

「ああ……良かった……」

 強固に作られた戦闘陣地の内部でソ連製ヴァルキリーはユーリが無事意識を取り戻し、大きな怪我もないことに安心するが胸を撫で下ろすのはまだ早かった。厚い土壁を通じてディーゼルエンジンの雄叫びとキャタピラの接触音が聞こえてきたからだ。

「魂を救済するのだ。魂を救済するのだ。魂を救済するのだ」

「魂を救済するのだ。魂を救済するのだ。魂を救済するのだ」

「魂を救済するのだ。魂を救済するのだ。魂を救済するのだ」

 爆発で吹き上げられた粉塵と黒煙によって鈍い光を放つ緋色と成り果てた太陽の真下でT‐34/85中戦車に支援されたラミアーズ兵が前線基地に突撃を開始する。

「ちゃんと援護してあげますよ、少尉殿」

「馬鹿にしないでください!」

 指揮官がマナ・ローブを纏って自ら最前線に切り込んだ一方、タスクフォース563の隊員達と共に塹壕の中を進んでいたユーリの前で黄色いレインコートを着たテロリストに第三十二大隊の兵士がMP44自動小銃の連射を浴びる。

「終末的危機が近付いている!」

 撃たれた側が塹壕の壁に呻きながら息絶える一方、撃った側は塹壕の中に降り立つ。

「人類を次のレベルに連れて行かなければ!」

「勝手に言ってろよ!」

 ユーリはコカインで恐怖を鈍らせている敵が自分に狙いを付けて発砲する前に手にしたPPSh‐41短機関銃の連射を相手に浴びせる。米国製フォアグリップとホロサイトを装備した高い信頼性を誇る自動火器から一瞬の間に六発の七・六二ミリ弾が撃ち出され、得物ごと敵の右手を付け根から吹き飛ばした。しかしラミアーズ兵は粉砕された血と骨を断面から撒き散らしながら残った左手を拳銃のホルスターに伸ばす。

「死にたいんなら一人で死ね!」

 アルカ最後の英雄と同じ遺伝子配列を持つプロトタイプは相手に蹴りを浴びせて後方に突き飛ばし、立ち上がる前に今度は胸板を思い切り踏んで動きを封じる。

「みんなまで巻き込むな!」

 そして四角い銃身先端部を白いマスクの右目側に押し込んでトリガーを引く。頭蓋骨の破片や神経、血と肉が塹壕内に飛び散り、敵の左手がだらりと土の上に伸びた。

「ユーリ! 後ろだ!」

 仲間の声を耳にしたエレナ・ヴィレンスカヤの想い人は塹壕に入り込んだ敵がナイフを煌めかせて迫ってくる様子を視界の端に捉える。

「後ろ……ッ!」

 ミス・マガフから秘密裏に提供されたタイガーストライプパターンの迷彩服に身を包むソ連製プロトタイプは振り下ろされた鋭い刃を後方宙返りで虚しい空振りに終わらせるとPPSh‐41短機関銃の木製ストックによる強打を相手の左頬に見舞い、間髪入れずに黒く硬いパッドで覆われた左膝を位置の下がった顔面に突き入れる。

「地球のリセットが近付いているのに!」

 だが例によって薬物で痛覚までも麻痺させているラミアーズ兵はすぐに上体を起こして勢い良く突進、両手をユーリの膝の裏に回して突き倒し地面に叩き付けた。

「――ァッ」

 苦悶の響きが喉から漏れるが、少年は鉄拳が振り下ろされる前に上半身を起こしながら相手の左足を掬って巻き込むように左回転で上半身を動かし上のポジションを奪う。

「勝手にリセットしてろ!」

 ラミアーズ兵が拳銃を腰のホルスターから引き抜くより早くPPSh‐41短機関銃を捨てた姉同様の紺髪と琥珀色の瞳を持つ少年は相手の顎に右フックを当てて意識を飛ばし、

「迷惑なんだよ!」

 左手で手近な場所に転がっていた石を掴むとヴォルクグラード人民学園の政権を握った姉の横暴から目を背け続けた過去の苦しみも乗せて思い切り相手の顔面に叩き付けた。

「みんなも!」

 質量を持った硬い表面と肉が激突する度に湿った音が響き、

「僕も!」

 裂けた汚い皮膚から飛び散った赤い液体が、二年前に何もしなかったことへの罪悪感をマリア・パステルナークに守られる情けない身分から兵士に自らの意思で変わった今でも完全には拭い切れないでいる周囲の土を激しく汚していく。

「やめろ。もう終わってる」

 死んだラミアーズ兵の顔面を破壊せんとユーリが二十回目の殴打を繰り出そうとした時、ユーリの手がタスクフォース563の隊員に掴まれる。

「おい!」

 ユーリよりも高い階級の隊員は彼の襟首を掴んで無理矢理立たせる。

「それじゃ姉さんと同じだろうが!」

「姉さんと……」

 冷静さを取り戻したユーリの右手から血塗れの石が落ち――地面に転がった。

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